第32話「私のせいで、おかしくなってほしいな」(※)
「ゆいくん……」
私は彼を呼び、その頭に手を乗せる。そして髪を撫でてあげると、ゆいくんは微かに体を震わせた。露骨に私から顔を背けるので、やっぱりゆいくんは頭を撫でられるのが一番好きなんだなぁ、と悟る。
そんなに特別なことなんてしていないのに、ちゅーした時と同じくらい気持ち良さそうだ。本当にかわいい、かわいい。そう思うのが止められない。
ふふ、やっぱり私……頭を撫でるだけじゃ物足りないは、それはそうなんだけど……それはそうとして、ゆいくんの頭を撫でるのも、大好き。
だってこんなに、ふわふわ~な顔をしてくれるんだもん。
「ゆいくん、お顔ちゃんと見たいな。こっち向いて?」
「……っ、は、ずかしい……」
「さっきえっちなちゅーしたのに?」
「……それとこれとは、話が別っ……」
「私にとっては一緒なんだけど……ふふっ」
恥ずかしがってるのも、かわいいな。でも……こっちを向いてくれないなら、ちょっと意地悪するしかない。
「ふぅっ」
「ぁっ……!?」
顔を背けているせいで無防備になっている耳に口を近づけ、息を吹きかける。予想外の行為だったのか、ゆいくんは声を上げると大きく体を震わせた。
そして私の背中に軽く手を回していたはずの両手を、私に息を吹きかけられた耳を庇うのに使う。私が一旦顔を離してあげると、ゆいくんは目を白黒とさせているのがよく見えた。
「びっくりしちゃった?」
「び……っくり、した……」
「耳にちょっかいかけられるのも、好き?」
「……すき、かも……」
「ふふ、そっか」
私がそう笑うと、ゆいくんは恥ずかしそうに見つめ返して来て……そして手を退け、隠していた耳を露わにしてくれる。
また、ぞくりと背中が震えるような感覚がした。
ゆいくんは本当……かわいいことしかしなくて、困っちゃうな。
私はゆいくんの髪を撫でながら、露わになった耳に口元をそっと近づける。するとゆいくんは私のすることに備えるようにぎゅっ、と微かに身を縮こませて。……それが余計に私のことを煽ってるの、分かってないんだろうなぁ。
「……素直に言えて偉いね」
「っ……」
「耳、出してくれてありがとう。……でもそんなに、耳に意地悪してほしかった?」
「それ……はっ……ッ……」
「ねぇ……教えて、ゆいくん」
囁いて聞くとゆいくんは、あう、だとか、その、だとか、何度か言い淀んで。
「……して、ほしかった……っ」
素直にそう言ってくれたから、教えてくれてありがとう、と私は笑う。
「良い子だから、いっぱい頭撫でてあげるね」
なでなで~、なでなで~、とセルフ効果音付きで撫でてあげると、ゆいくんが少しだけ唇を尖らせながらこちらを睨みつける。そんな表情をするくらい恥ずかしかったみたいだけど……全然怖くないなぁ。やっぱり、かわいい。
なんて言うと、余計に怒られちゃうかな?
「……なんか、子ども扱いしてない?」
するとゆいくんが訝し気にそう尋ねてくる。といっても、どこか嬉しそうなのは変わらないんだけど。
「してないよ? 恋人として扱ってる」
「……本当かなぁ……」
「……子ども扱いしてるなら、こういうことしないでしょ?」
そう言うと私は、ゆいくんの首筋にキスを落とす。ひぁっ、とゆいくんが無防備な声を出して、私は構わずに、そのまま何度もキスをし続けた。
なんだか手持無沙汰だったので、片方は髪を撫でて、もう片方の手はゆいくんと繋ぐ。ゆいくんは快楽に耐えるためなのか、私の手をぎゅ~っと強く握りしめていた。
「あっ、はっ、ぁっ……」
「……ね? こういうことするのも、したいと思うのも、ゆいくんだけだよ。分かった?」
「分か、った……分かった、から……っ」
「ふふっ、良かったぁ。ちゃんと理解出来て、いい子だね、ゆいくん」
「っ、ちょ、ふわり、待っ……!!」
ゆいくんの静止を聞かず、私は再びゆいくんに唇を重ねる。今度はすぐに舌を入れると、びくっ、とゆいくんの体が大きく跳ねた。先程まで髪を撫でていた手を耳に沿え、その輪郭をなぞるようにゆっくり……ゆっくり、とっても優しく、指先で撫でてあげる。するとゆいくんは言葉にならない声を上げ、がくがくと体を揺らしていた。
「……かわいい」
「ふわ、り、ほんと、なんか、おかしくなりそうだからっ……」
「おかしくなっちゃえば、いいんじゃないかなぁ」
そう返すと、ゆいくんはまた肩を震わす。その表情は、今から私に何をされるんだろうと言いたげに少し怯えていて、逆にすごく期待もしていて、その感情で葛藤しているのが見て取れた。
……勝負をつかせてあげられないのが、申し訳ないけど。
「──惟斗」
「ッ」
いつもの呼び方じゃなくて、ちゃんと名前で呼んでみる。するとゆいくんの目の色が変わって、私に名前を呼ばれるがまま、私を凝視していた。
私はゆいくんの両頬を両手で包んで、その顔を覗き込む。
「惟斗、私のせいで、おかしくなってほしいな」
そうやって近づいたから、彼の瞳の中にいる自分の姿がよく見える。……ああ、私、こんな顔をしてるんだ。なんだか、自分が自分じゃないみたい。
出来る? と問いかける。惟斗は瞳に熱を滲ませ、うん、と頷いた。




