第21話「私がそれを言う資格、あるのかな?」
降りた先にあったのは、ごく一般的な一軒家だった。清潔感があって、とってもいいお家だと思う。
そこで私は初めて運転をしてくれていたらしい夫さんと顔を合わせ、こんにちは、と頭を下げた。……柚葵さんの夫さんは、なんというか……とても強そうなお顔をしていて、服越しでも分かる強靭な筋肉、スキンヘッドと……プロレスをやってます、と言われたら納得できそうなちょっぴり怖い風貌の方だった。とても失礼だけど、この感じであの可愛いスイーツを……!!
だけどちょっぴり怖い、という印象とは裏腹、夫さんはにこやかに挨拶をし返してくれる。あ、いい人だ。……そう思う私の横で、柚葵さんは家の扉を開けた。
「ささっ、入って入って!!」
「は、はいっ!!」
柚葵さんは再び私の背に回り、ぐいぐいと背中を押してくる。……柚葵さん、こうやって人の背中を押すのが癖なのかな?
そんなことを考えながら、お邪魔します、と告げてから中に入る。……中も外見と同じく清潔感があって、ここで暮らしたら快適に過ごせるんだろうな~、と、自然と思わせてくれた。
……でも、不思議だな。普段、あのキャンピングカーで日本一周をしているなら……この家には帰ってきていないはず。……それなのに、ちょっと生活感がある気がするというか……。もちろん、柚葵さんたちが最近ここを使い続けてるからかもしれないけど。なんとなく、それとは別な気も……。
「普段ここはね、人に貸してるんだ。信頼できる人に管理人を任せて、その人を通して家を貸してるの。……今も確か、二部屋くらい借りてる人がいたような……? だから、少し他の人の気配がするかもしれないけど、気にしないで」
「あ、はい。分かりました!」
私が頷くと、これから向かう部屋は私たち以外は入れないようになってるから、安心してね。と柚葵さんは続ける。そしてもう一つ鍵を取り出すと、それでとある部屋の扉を開けた。
私と柚葵さんはそこに入り、柚葵さんが鍵を閉める。夫さんは? と尋ねると、私たちにスイーツを焼いてくれるって、と柚葵さんは嬉しそうに答えた。スイーツ!! 楽しみだなぁ。
そっちのソファに座ってね、と促されて、私はそこに腰かける。そして好きな飲み物を聞かれたので、ジュースが好きです!! と意気揚々と答えておいた。……コーヒーも紅茶も苦手なんだよね。
すると柚葵さんはアップルジュースの瓶を持ってきてくれて、私の目の前にコップと一緒に置いてくれる。……ってこれ、すごく高いやつだった気が……!? 一回、お父さんが会社の取引先の人から貰ったことがあって、お母さんがその値段を調べて、普段の私たちじゃ絶対飲めないものだっておおはしゃぎしてたような……。
……柚葵さんもゆいくんのお家と一緒で、お金持ち……!?
って、あ、そうだ。すっかり喋ろうと思ってたこと、忘れてた!!
「柚葵さんっ!!」
「ん? なぁに?」
せっかくなのでアップルジュースをちょっとガブ飲みしてから、優雅に紅茶を飲んでいる柚葵さんの名を呼ぶ。彼女はにこっと答えてくれて、私はそのことに安堵してから口を開いた。
「あの、ゆいくん、大学で……その、柚葵さんとのことが、噂になっちゃってるみたいで!!」
「……え? 噂?」
「はい。えっと……ゆいくんは年上好きとか、沢山のお姉さんたちと関係を持ってるとか、どんどん噂が大きくなっちゃってるみたいで……!!」
私は必死に噂について伝える。一方柚葵さんは、キョトンとしていた。
「だから、何と言うか……大学周辺で柚葵さんがゆいくんと関わると、また噂が大きくなっちゃう気がするから……ゆいくんのためにも、えっと、あまり大学でゆいくんと関わらない方が……」
いいっていうか。と、そこまで言ってから私はふと気づく。
……なんか、私がそれを言う資格、あるのかな?
だってゆいくんと柚葵さんは従姉弟関係。私よりずっと関係が深いわけだし……そのことは既に、柚葵さんも知ってるかもだし……。
ゆいくんの友達、ってだけで、家族関係にまで口を出すのは……すごく、差し出がましいのでは!?
「……え~っとぉ……」
どうしよう、撤回した方がいいかな!? でも、これ以上好き勝手な噂が広まってもゆいくんが困るだけだろうし……!! 柚葵さんもゆいくんが大好きだから、きっとそういう目に遭ってほしくないって思うだろうし……。で、でも、やっぱり他人からそう口を出されたら、ちょっぴりイラってされちゃうかな!?
頭の中でぐるぐるぐるぐる、思考が回る。だけど同じところを回っているだけなので、一切口からは出てこなかった。
静寂が蔓延る部屋の中。外からは平穏な鳥のさえずりが聞こえて、それがやけに私の耳に響いた。
「……そっか、教えてくれてありがとう」
すると柚葵さんが、静かにそんな声を出す。そしてティーカップをお皿にそっと置いた。
「惟斗、そういうこと、本当に教えてくれないから」
「……あ……」
……ゆいくん、そういうこと、言ってないんだ……。
なんとなく何も言えなくなってしまって、私は黙って目の前のコップを見つめる。コップの中でアップルジュースが、微かにゆらゆらと揺れていた。
「……やっぱり、惟斗は……」
「……?」
「……ふわりちゃん、ありがとう。惟斗のこと、すごく大事に思ってくれて」
「あ……いえ!! 惟斗くんは、大切なお友達なので!!」
あといつも髪の毛をふわふわさせてもらっているので!!!! ……ということは心の中で叫んでおいて。




