第20話「……今の横顔、ゆいくんにとてもそっくり」
「私、キャンピングカーとか初めて乗りました!! ……あっ、日本一周されてる、とか聞いたんですけど、もしかしてこれで……?」
「そうそう! 勘が良いねぇ。この車で日本を回って、基本的には車の中で生活してるよ。……まあ道中で出会った人の家とか、オススメの旅館やホテルに泊まることもあるけどね」
「へぇ……!!」
私は生まれて約二十年、そういう経験をしたことがないので、思わず目を輝かせてしまう。すごいすごい!! それってすっごく楽しそうで、ワクワクする……!!
私と柚葵さんはソファに横並びに座り、私が目についた気になったものを言うと、柚葵さんはそれについて答えてくれた。いやぁ、キャンピングカーって初めてだから、ついはしゃいじゃって……。
「というか……運転ってどなたがされてるんですか?」
「ああ、夫だよ。彼はスイーツを作る人でね、道中でそれを売って、貯金とはまた別の旅行資金を補充してるんだ」
「へぇ……!! 移動販売してる、ってわけですね!!」
「そうそう。で、私はそれを写真に撮って宣伝してるんだ」
そう言うと柚葵さんは、スマホを少し操作してから私に見せてくれる。そこに表示されているのは、写真の投稿に特化したSNS。私も一応アカウントは持ってるんだけど(友達とのお付き合いのために)、ほとんど使ってないんだよね。「YUZUKI」という名前のプロフィール画面には、フォロワー5.3万人の文字が……。
「ご、五万人!?」
「あはは、沢山見てくれる人がいて、ありがたいよ」
フォロワーが5.3万人って、つまり五万三千人の人が、柚葵さんの写真を見てるってことでしょ!? 柚葵さん、すごい、有名人!!
「写真家になるのが夢だったからね。こうして色んな人が私の写真を見てくれて、出版社から声がかかることもあって、色んな良縁に恵まれて、私は幸せ者だよ」
「……」
柚葵さんはそう言って、照れたように笑う。その横顔を、私は黙ってじっと眺めていた。
……今の横顔、ゆいくんにとてもそっくり。
詩を作るのが好きだ、と言っていた、あの時のゆいくんと。
まあ従姉弟だったら、顔が似ることもあるよね。
「さて、ふわりちゃんのことも教えてよ」
「えっ、私ですか!?」
「そうそう。言ったでしょ? ふわりちゃんとお話ししたいって」
「そうですね……うーん、特に面白い話とかは出来ないんですけど……」
でもよく、ふわりはそのままで十分面白いから大丈夫!! と綺羅ちゃん日恋ちゃんによく言われるから、大丈夫……なのかな?
私はコホン、と咳払いをすると、柚葵さんに向き直る。
「改めて、私は不破ふわりと申します!! この名前の通り、ふわふわなものが本当に大好きで、ふわふわなものを集めたり触ったりするのが趣味ですっ。何かオススメのふわふわがあったら教えてくださいっ。よろしくお願いします!!」
……この前はこの自己紹介で、不破ふわりは変な子っていう総意で固まっちゃったけど……柚葵さんはどう思うんだろう?
ちょっぴりドキドキしながら柚葵さんの言葉を待っていると。
「あはは、不破ふわりって名前でふわふわなもの好き。すごい人に覚えてもらえそうだね」
「そ、そうですね、やっぱり不破ふわり=ふわふわ、みたいな感じで覚えられることが多いです」
「だよね。私も今の自己紹介で、ばっちり覚えちゃった」
そう言うと柚葵さんは、両手の親指と人差し指を駆使し、丸を作って見せてくれる。とりあえず、悪い印象ではない……かな? ほっ。
「それで、ふわりちゃんは惟斗とどういう経緯で会ったの?」
「ゆいくんと?」
「そう。……惟斗、昔からちょっと人と自分の間に壁を作りやすい子だから……あんまり友達がいなくて。だから、どうやってその壁を壊したんだろうって思って」
弟みたいなものだから、心配に思ってたんだよね。と柚葵さん。
壁を……作りやすい。そうなのかな? と思った。だってゆいくん、最初に会った時から笑顔で接してくれたし……。
……でも、そうだな。最初に会った時は、なんだか……型にはめたような笑顔、なんて思ったっけ。カチカチ~、で、ぴしっ、としてて……でも、関わっていくうちに、ふわ~ってした笑顔になっていって……。
うーん、その柚葵さんの言う、「壁」をどうやって壊したのか、いつ壊したのか、私には分からないけど……。
「えーっと、きっかけは、私がゆいくんを助けた……? ことです」
「助けた?」
「はい! えっと……ゆいくんに、ゆいくんに彼女さんを取られた! って人が詰め寄っていて……その時たまたま、私は蜂に追いかけられてて……たまたまそっちの方に逃げたら、結果的にゆいくんを助けたことになって……?」
「……あははっ、すごい出会い方だねー!?」
「私は蜂に必死になってただけなんですけど……!! それで、えっと、そこから学部が一緒だと気づいて、関わる機会も……グループワークとかでそれなりにあったので、それで、友達になった……? って感じです!!」
もちろん、毎度のことですが、撫でていることは省く。……嘘は言ってないよ、うん!!
「……うーん、それくらいで惟斗があんな……まあ、絶対に劇的なことが必要、ってわけじゃないから、そこにツッコむのも野暮か」
「……? えっと……」
「あ、ごめんごめん。こっちの話だから、気にしないで~」
よく聞こえなかったので私が聞き返すと、柚葵さんはそう言って笑う。……やけに真剣な表情だった気がするけど……まあ、柚葵さんがそう言うならそういうことにしておこう。
そこで車にブレーキが掛けられたのか、私の体は慣性の法則に従って前方に引っ張られる。もちろんシートベルトをしていたので、ソファから転げ落ちる……なんてことはなかったけど。
「着いたみたいだね」
「着いたって……どこに?」
「私たちの家だよ」
疑問を吐き出すと、柚葵さんがそう答えてくれる。家とかあるんだ! と思いながら、私は柚葵さんに促されるままキャンピングカーを降りた。




