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ふわめで!~ふわりちゃんは今日も御曹司をふわふわ愛でる。~  作者: 秋野凛花
6「こんなの全然、ふわふわじゃない」
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第19話「「ゆっ、誘拐だーーーーーーーーーーっ!!!!!!!!!!」」

「何年ぶりだっけ? 十年くらい? いや~、貰う連絡とかで成長する姿は見てたけど、実際に見ると圧巻だね!! 本当に大きくなって~!!」


 突然現れたお姉さんは興奮気味にそう告げる。その猛攻を受けているゆいくんは、ただひたすら固まっていた。それは……私もだけど。


 だけどすぐにハッとなって、これは間に入った方がいいのかな!? なんて思った。この前、動物園でゆいくんに声を掛けてきた女の子たちのこともある。まあこのお姉さんは、どうやらゆいくんと古い付き合い……? みたいだけど。困ってるなら関係ないよね。よーし、と気合を入れた瞬間……。


「……あ、ああ、柚葵ゆずきさん、お久しぶりです……」


 ゆいくんがそう声を絞り出す。先を越されたので、私は口を開いた体勢のまま何も言えなくなってしまった。

 そしてこのお姉さんはどうやら、柚葵さん……という名前らしい。


「柚葵さんなんて他人行儀な!! 昔みたいに、お姉様♡ って呼んでくれたらいいのに~!!」

「お姉様なんて呼んだことないじゃないですか……」


 二人は仲睦まじげに会話をしている。もちろんそれに入れない私は、無心でケーキを食べていた。


 誰かと思っていたけど……つまり柚葵さんは、ゆいくんのお姉さん……ってことかな?

 あれ? でも、この前動物園で家族構成について聞いた時……弟さんが一人とは聞いたけど、お姉さんがいるとは言ってなかったような……?


 するとそこで、私の視線に気づいたらしい柚葵さんが私の方を向く。思わず肩を震わせると……柚葵さんは快活な笑みを浮かべ、口を開いた。


「あっ、割り込んじゃってごめんね!! 貴方は惟斗の……彼女さん?」

「違う」


 違います、と私が否定する前に、ゆいくんがキッパリと言い切る。それに柚葵さんが振り返り、私はまた口を閉ざした。


「……その子は、大学の友達」

「……あっ、そうなんだ。ごめんね~! 先走っちゃったみたい!」

「い、いえ」


 柚葵さんは再びこちらを見ると、手を合わせて謝ってくる。私は慌てて首を横に振った。


 ……そこで私は、店内の人がこちらをチラチラと見ていることに気が付いた。あ、割と静かなカフェだから、柚葵さんの声が響いてるのかも……。

 そのことに柚葵さんも気づいたらしい。思わず騒いじゃったな、と彼女は苦笑いを浮かべると。


「惟斗、また連絡するね。それじゃあ!!」


 そう告げると、カフェから出て行った。私とゆいくんは何も返さず、その背中を見送る。


「……ふわり、ごめんね。騒がしくしちゃって……」

「ううん、大丈夫だよ。えっと、あの人は……ゆいくんの彼女さん?」

「なんで!?」


 私の言葉にゆいくんが大きな声でツッコミを入れ、また周りのお客さんから視線が集まる。すみません、とゆいくんは身を小さくし、小さな声で私に告げた。


「……あの人は、北条ほくじょう柚葵ゆずきさんっていって……俺の従姉弟。確か十年前くらいにここから離れて、日本一周してた気がするけど……いつの間に帰って来てたみたいだね」

「日本一周!? すごいねぇ……」

「色んなところを見て回って生きていたいが口癖だったからね……よく夢を叶えたなって、俺も思ってる」


 ゆいくんはそう言いながらケーキを丁寧に切り分けて口に運ぶ。ゆいくんのその口調には……温かな、ふわふわな気持ちが込められていて、聞いていて私は思わず笑顔になってしまった。


「柚葵さんのこと、大好きなんだね」

「……別にそういうのじゃないから」


 私がそう言うと、ゆいくんはそっぽを向いてしまう。撫でられてる時はあんなに素直なのに、今は素直じゃないな~、と私が思っていると。


 ゆいくんが不意に、大きな咳払いをする。そして、ふわり、と名前を呼ばれたので、はい、と背筋を伸ばして返事をすると。


「……俺、恋人とか、いないので」

「? そうなんだ」


 句読点の位置を強調するように、ゆいくんがそう告げる。それに対し私は、思ったことをそっくりそのまま伝えた。


 ……恋人さん、いないんだ。綺羅ちゃん日恋ちゃんが、「西園寺惟斗はモテるけど恋人がいたことがないらしいよ」……っていう話をしてた気がするけど……。それも、本当だったりするのかな。それとも、それはただの噂で……。


 聞いてみようかな、と思ったけれど、どうしてか口を開くことは出来なかった。





 その日以降、ゆいくんにまつわる噂が大学で沢山流れるようになった。


「聞いた? 西園寺惟斗が年上の女の人と歩いてたって話……!!」

「大学帰りに車で迎えに来てたって」

「西園寺惟斗って年上の女の人がタイプなんだって」

「だから今まで彼女の噂とかなかったのか~」

「沢山の年上の女の人との繋がりがあるって話だよ……!!」


 それは私の耳にも入るくらいの規模の噂になっていて……。いや、私今までゆいくんに興味なかったから……ゆいくんと知り合うようになったから、そういう話が耳に入るようになったんだろうな……。

 柚葵さん、私は見てないけどたびたび大学に来てるみたいで、それでゆいくんと噂になってるみたい。ゆいくんは柚葵さんはただの従姉弟だと言っていたし、後半の方の噂はデタラメだろうって、私にも分かる。


 ……こんなに好き勝手言われちゃって、ゆいくん、大丈夫なのかなぁ……。


『……大学で俺といると、目立つでしょ』

『……やっぱり、俺といると……不破さんの迷惑になるって……そう思って』


 ふと、ゆいくんがそう言っていた時の表情を思い出す。悲しそうで、諦めたような、そんな……全っ然、ふわふわじゃない顔!!

 やっぱりゆいくん、今までもこういうことが沢山あったのかな、なんて勝手に想像してしまう。でないと、きっとあんな顔しないもん。


 私の耳に入るくらいなんだから、ゆいくんの耳にもきっと話が入ってるだろうし……そうなると、ゆいくんはまたあんな顔しちゃうのかな……ううん、そんなの嫌だ!! ゆいくんには笑っていてほしいし、あわよくばふわふわな顔を……!!


『……不破さんに撫でられるの、気持ち良くて、すき、だから』

『俺、勉強頑張ったから。……褒めて』


「……っ!!」


 不意に、今までに見たゆいくんのふわふわな顔が脳裏によぎる。そうしたらぶわっと顔に熱が集まって、なんだかいけないことをしている気がして、慌てて頭の中からその記憶を掻き消した。


 かわいいけど……かわいいけど!! ゆいくんのふわふわな顔、本当にかわいいから、ずっと見ていたいけど……!! なんか今、一人の時にこれ思い出すと、なんか駄目な気がする!! さっきから「なんか」ばっかだけど!!!!


 だけど記憶も顔の熱もなかなか引いてくれなくて、わーどうしよう、と一人で慌てふためいていると。


「あっ、惟斗の友達の!!」

「……へっ?」


 大学を出たところで、突然話しかけられる。声の方を見ると……そこにあるのは、立派なキャンピングカー。そこにある窓を開け、顔を覗かせるのは……柚葵さんだった。


「あっ、柚葵さん!! こんにちはっ」

「こんにちは~。大学終わり? お疲れ様!!」

「はいっ。これから帰るところで」


 気さくに話しかけられ、私も笑顔で対応する。すると柚葵さんはキャンピングカーから降りてきて、私の真正面に立った。


 ……この前は座ってたからよく分からなかったけど、柚葵さん、背が高いなぁ。いや、私は女の子の中でも背が小さい方だけど……。にしても、柚葵さんはかなり背が高い方だと思う。ゆいくんよりちょっと低いくらい、かな?


「この前は突然割り込んで、本当にごめんね。大丈夫だった?」

「いえ、大丈夫です!! あの後ゆいくんから、従姉弟さんだって聞けましたし……」

「そっか~、惟斗、私のこと何か言ってた?」

「何か……よく夢を叶えたな、とか……柚葵さんはすごい、ってニュアンスで言ってましたよ」

「ふふっ、そっか……やっぱ褒め言葉って、他の人に話すほど正直に出てくるものだよね~」


 あの子は素直じゃないから。と柚葵さんは笑う。それに対し、私がどう返せばいいか分からずにいると。


「ねぇ貴方、本当に惟斗の彼女じゃないの?」

「? はい。ゆいくんとはお友達です」

「ふふっ、そうかそうか~……」


 私の返答に、柚葵さんは含みのある笑みを浮かべる。


 よく綺羅ちゃん日恋ちゃんにもそう聞かれるけど……私たち、よっぽど恋人に見えるのかな? うーん、確かに私も、二人で歩いている男女を街とかで見かけたら、反射的に恋人だと思っちゃうところがあるのは否めない、けど……。

 ……だったら、ちゃんと否定していかないとね。ゆいくんはただでさえ色んな噂を立てられやすいんだから、私も迷惑にならないようにしないと!!


 ……あっ、そうだ、噂!!


 私がそれについて思い出し、口を開こうとした瞬間。


「そういえば聞いてなかったね、貴方、お名前は?」

「え!? ……あ、不破ふわりです」

「不破ふわり……すごい、ふわふわちゃんだ。じゃあふわりちゃん、今帰るとこだって言ってたけど……つまり、この後予定はない感じ?」

「そうですね……ないです」


 しいて言うなら、まだレポートが残ってるけど、急ぎじゃないし。

 そう思いながら私がそう答えると。


「私、ふわりちゃんともっとお話ししたいんだけど……いい?」

「いいですよ!! ぜひぜひ!!」

「それじゃ」


 柚葵さんは私の背後に回る。私が首を傾げていると、柚葵さんはそのまま私の背中をぐいぐいと押して。


「まずは一緒にドライブといきましょうか!!」


 柚葵さんが開けっ放しにしていたドアから、私はキャンピングカーの中に入らせてもらう。中は思いのほか広くて、とても綺麗で、私は思わず目を輝かせる。

 そんな私の後ろで、柚葵さんがドアを……閉めた。





 一方、その頃。


「ねぇ綺羅」

「うん?」

「あれ、ふわりじゃない?」

「あ、本当だ。……一緒に居る女の人、誰?」

「さぁ……」

「ていうかあのすぐ傍にある大きなキャンピングカー……ドア開いてるけど」

「……なんか嫌な予感するね」

「あ、女の人がふわりの背中を押して……」

「車の中に……」

「「…………………………」」



「「ゆっ、誘拐だーーーーーーーーーーっ!!!!!!!!!!」」



 綺羅ちゃんと日恋ちゃんは、そんな大声をあげるのでした。

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