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第13話「不束者ですが、今日はよろしくお願いします」

「西園寺くん、お待たせ!! 待った?」

「ううん、そんなに待ってないよ」


 私が声を掛けると、西園寺くんはスマホから顔を上げて、私に向かって微笑む。うん、相変わらず綺麗な笑みだ。


「不束者ですが、今日はよろしくお願いします」

「えっ。……あっ、こちらこそ、よろしくお願いします……?」


 私がうやうやしく頭を下げると、西園寺くんも戸惑ったように頭を下げ返してくる。

 でも、何もおかしいことはない。今日は一大イベント。気を引き締めてしっかり行動しなければ。……だって今日は……!!


「『モルモット大量発生!? フェア』、開催中です~!! ぜひ、色んなモルモットちゃんに会いに来てくださいね~!!」

「西園寺くん!! 行こう!! ふわふわの!! モルモットちゃん!!!!」

「あ……うん、行こうか……」


 本日やって来たのは、東之家ひがしのいえ動物園。今ここでは、期間限定で、ふわふわなモルモットちゃんのお触りイベントを実施しているのです……!!



 あの後、私たちは別れて家まで帰った。夕飯を食べて、お風呂に入り、課題を終わらせ、メッセージを確認して寝ようと思ってスマホを開くと、そこには久しぶりの西園寺くんからのメッセージ通知が来ていた。


『日曜日遊びに行くの、行きたい場所とかある?』


 それを見て、私はすぐに返信を打ち始めた。迷うことなどない。行きたいけど、綺羅ちゃん日恋ちゃんとは予定が合わなくて一緒に行けそうにない……と諦めていたところがあったからだ。


『東之家動物園!!』

『そこでは今ね、モルモットふわふわフェアやっててね』

『違う』

『モルモット大量発生フェア』

『ふわふわなモルモットちゃんをふわふわできるの!!』

『だからそれに行きたいな』


 私がメッセージを連投すると、既読だけが付いて、少しの静寂。

 ベッドに寝転がり、ゆるゆる返信を待っていると、またメッセージが来た。送られてきたのは私が言った動物園のホームページのURL。わざわざ調べてくれたらしい。


『これかな?』

『うん』

『わかった。日時予約チケットの方が当日券より少し安いみたいだから、二人分買っておくね』

『ありがとう!』

『当日お金返すね』

『いくら?』

『500円』

『分かった!』


「……ふふふっ」


 やり取りを終えると、私はスマホの電源を落とし、ベッドの上で足をジタバタとさせる。


 やった、やった。一人で行くのもどうかなぁ、と諦めてたモルモットちゃんお触りフェア、違う、大量発生フェア!! 西園寺くんと行けるんだ!! 嬉しいなぁ~。


 当日は一体どんなモルモットちゃんに会えるのかなっ。どのくらいふわふわなんだろう? あ、でも今は夏毛だろうから、ちょっとチクチクしてるかも? ……でもそんなところもきっと楽しめるよね!!

 えへへ~、楽しみだなぁ♪ ……あっ、そうだ!!


『きらちゃんにこちゃんこんばんは!!』

『今度西園寺くんと動物園行くんだけど、何かお土産いる?』

『ちょっとその話詳しく』

『え? 何がどうなったら一緒に動物園行くことに?』

『二人とも、お土産話だけでいいの?』

『いやそういうことじゃなくて』

『いやそういうことじゃなくて』


「二人とも同じメッセージ送ってきて……仲良しさんだなぁ」


 私はふふふと笑いながら、綺羅ちゃん日恋ちゃんのメッセージにるんるんな気持ちで返信していくのだった。



 そして今日は遂に待ちに待った当日!! 昨日は楽しみすぎて課題を爆速で終わらせ、夜の七時にはベッドに入ったよ!! お陰で朝早く起き過ぎてどう時間を潰そうか困ったよ!! でも早く出たはずなのに西園寺くんの方が先に待ち合わせ場所に居て、とっても不思議!!


「モルモットのイベントは、当日現地で予約をしないといけないみたいだから、まずはその予約をしに行こうか」

「うんっ!! 西園寺くん、色々調べてくれてありがとう!!」

「……不破さん、楽しみにしてただろうし。それに水を差すようなことしたくないから、これくらい当然だよ」


 私がお礼を言うと、西園寺くんはそう言って微笑みかけてくれる。……そこは、どういたしましての一言でいい気がするんだけど……。


 そんなことを考えながら、二人並んでモルモットちゃんお触りフェア、違う。……もうお触りフェアでいいや!! お触りフェアの予約場所に出向いた。

 私たちも割と早く来た方だと思うけど、そこはやはり日曜日のせいなのか、既に列が出来上がっていた。モルモットちゃん、大人気……!!


 私たちはその最後尾に並んで、前の人に付いていく。すぐに整理券が貰えて、それを見ると、14時にふれあいコーナー集合、と書かれていた。


「結構遅くなっちゃったね」

「そうだね。……でもゆっくりお昼を食べて、それでも余裕を持って行けそうだから、かえってその時間で良かったかも」

「あ、それもそうだね」


 さっきのモルモットちゃんの列も混んでたくらいだし……日曜日のお昼のフードコートとか、もっと混んでそう!! それでモルモットちゃんに間に合わないかも~って不安になりながらお昼を食べても、楽しくなさそうだからね。

 そこで私は、そういえば、となり、西園寺くんの顔を見上げた。


「そういえば私、お昼ご飯作ってきたんだ!! お口に合えばいいんだけど」

「……え、不破さんが?」

「うん!! ……私、小学生の時にもこの動物園に遠足で来たことがあって、広場でレジャーシートを敷いて食べたお弁当が美味しかったから、お弁当作ってきたの!! だからレジャーシートも持ってきて……あ、でも、椅子と机がないと食べづらいかもしれないし、それは別にいいんだけど」


 そう言いながら、お弁当の入った斜めがけバッグを西園寺くんに見せる。せっかく早く起きたんだから、お弁当でも持っていこうって料理したんだ!!


 でも私の言葉に、西園寺くんは少し難しい顔だ。むむむ、と眉間にしわが寄っていて……。


「あっ、ご、ごめん、嫌だった? ……そうだよね、人が作ったお弁当食べるの、衛生面的にあれかな……!?」

「あ、違うんだ。そうじゃなくて……いや、そうなんだけど……」


 西園寺くんはそう言って、少し何かを考え込んでいる様子。だけどすぐに考え終わったのか、眉間からしわは消えた。


「……いっか。不破さんだし」

「え!? どういうこと!?」

「ううん、なんでもない。……それより、広場で食べると美味しいんだっけ? 広場の位置も、確認しておこうか」

「……! うんっ!」


 私は思わず目を輝かせ、西園寺くんを見つめる。彼は優しく笑い返してくれると、動物園内のマップを探して歩き出した。

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