人格クローン②
「朝草さんって、どこ生まれ?」
蜆が持ち前の社交力を駆使して質問した。
「普通にここだよ。東京。あ、オリジナルは今京都に住んでる。」
「オリジナル?」
俺は聞いた。
「あれ、分かんない?えーとね、私の本体。ほら、私って人格クローンだから、この体は元々私のじゃないの。安楽死した誰かの体を使わせて貰ってる。」
「へえ。最初は他人の体ってどんな感じだった?」
蜆は続ける。
「そりゃ違和感だらけだよ。私じゃなかったらストレスで死んでるね。て言うかさ。」
朝草は俺の方に迫ってきて言った。
「私たち、中学生の頃、一緒のクラスだったよね?」
⬛︎⬛︎。
「え…そうだっけ?」
「蒲くんでしょ。違う?」
⬛︎⬛︎。
「あ、うん…」
露骨にぎこちない会話。俺の苦悩を察知したのか、蜆は話題を逸らしてくれた。
「僕、クローンなんて生まれて一度も見た事無かったよ。実際はどれくらいの人口なのか気になるな。」
「結構いるよ。施設の人だけで3桁超えてるからね。東京だけでも1万人はいるんじゃないかな。ちなみに私、朝草倫根のクローンは日本に3人もいるんだ。すごいでしょ。」
「ああ、政府公認の成績優秀者は、記憶を保存すると補助金が出るっていうやつか。」
蜆は頷いた。
「そ。自慢だけど、私めっちゃ頭いいからね。」
朝草はまさに自慢げに腕を組んだ。俺は対照的に憂鬱だった。
⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎され⬛︎⬛︎、⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎な⬛︎⬛︎⬛︎。
「自分に会った事ある?」
俺はつい聞いてしまった。
言った瞬間、彼女の顔がはっと青ざめた気がした。だがその情動もすぐに消え、先ほどまでのキリッとした目つきを取り戻した。
「うん。一回だけ。習慣というものは変えられなくてね。馴染みの店に訪れた時、自分と会ったんだ。向こうは気付かなかったし、私も話しかけなかった。それだけ。」
朝草は笑っていた。
俺は、その顔が少し⬛︎⬛︎になりつつあった。クローンなんて、所詮は本物の代替品。オリジナルさえいれば本来不要とされる存在だ。
俺は少しかがんで、机の中の教科書を引っ張り出そうとした。
すると、朝草が首の後ろの方を触った。
⬛︎⬛︎?
「あれ。背中になんかついてるよ。」
朝草が持っていたのは何かのネジだった。とても小さく、彼女の視力の高さがうかがえる。
そんな事を思いながら、案の定俺の胸の鼓動は高鳴っていた。
「あ…ありがとう。何だろ、コレ。」
「んー?」
朝草はネジを凝視した。
「これ、どっかで見た事があるような気がするんだよなあ。何処だっけ?」
不意にチャイムが鳴った。各々が自分の席に戻っていき、俺は朝草が置いていったネジをポケットに入れた。