埋められていくフォルダ
朝八時に駅で待ち合わせをしている。十分前くらいに着くようにすると既に染宮と平野が待っていた。
染宮は白のTシャツにグレーのロングカーディガンをゆったりと羽織り、黒のロングパンツというシンプルながらオシャレな服装で整った顔だちに明るいキャラメル色の髪が存在感を出す。
一方の平野は黒のスクエアネックに白のホットパンツでへそ出しという目のやり場に困るファッションだった。
「皆揃ったし行こっか」
「そうね。意外と幸人も時間守れたみたいだし」
「別に今まで時間にルーズだったことはないだろ」
電車に乗り込むと連休中ということもあり混み合っていた。人の隙間を縫うように進みちょっとしたスペースを見つけつり革を掴む。
「こうやって三人で電車で出かけるのテンションあがんね!」
「遠足みたいだよな」
「遠足って⋯⋯あんたがホントに友達少ないのわかるわ」
それから一時間ほど電車に揺られ目的のテーマパークの最寄り駅に着く。バスに乗り換えて降りるとゴールデンウィーク最終日ということもあってか家族連れやカップルなどで賑わっていた。入り口でチケットを渡し入場する。このテーマパークは乗り物が売りでジェットコースターが多くある。様々なアトラクションを前に平野は目を輝かせている。
「一発目あれにしよう!」
「いきなりメインディッシュみたいなジェットコースター行くの?別にいいけど」
「なんだ染宮怖いのか?意外と可愛いとこあんだな」
「はぁ? 楽しみとっときたいだけだし。そうね、何回乗ってもいいわけだし行きましょう」
俺達は行列に並び順番を待つ。よくテーマパークの待ち時間がカップルの別れる原因という話を聞く事がある。付き合いたてで話題がなくなったり時間の潰し方に困ったりと色々あるのだろう。俺達はカップルでもないし二人が楽しく話ているからそんなものはないのだが。次第に近づく順番に少しばかり緊張してきた。それを染宮に気づかれからかわれる。
「怖かったら待ってていいんだからね。夏希と二人で乗るから」
「ここまで来てやめねぇよ」
「なになに幸人怖いん? 無理しなくていいからね」
平野は純粋に心配している様子だったがここで引くという選択肢は俺にはなかった。俺乗るよ、ジェットコースターに。
遂に俺達の順番になった。シートに座り安全バーを締める。スタッフが出発を告げるとゆっくり進み始めた。徐々に加速しレーンを一周する。一回転したりスピードを上げて降下したりを繰り返しここまでは普通のジェットコースターだった。スピードを緩めゆっくりゆっくりレーンを登って行く。すると頂上に差し掛かると澄み切った空に綺麗な富士山が目に広がる。見惚れていたのも一瞬だった。直ぐにそこから急降下し始めるジェットコースターに涙がこぼれた。
「うわぁぁぁ!!」
アトラクションが終わると出口で写真を渡された。そこには量手を上げて楽しむ二人と安全バーにしがみついてビビってる情けない俺の顔が写っていた。
「この顔めっちゃウケる」
「やっぱ怖かったんじゃん。もう一回並ぼっか?」
「染宮お前いい趣味してんな」
そこから遊園地王道のコーヒーカップやフリーフォールなどを周り昼休憩にした。テーマパークの食事は高い事もあり染宮と平野がそれぞれ用意してくれる事になっていた。まずは染宮の弁当を開封する。
手作りのサンドイッチにウインナーや卵焼きとおかずが入っていた。
「めっちゃ美味しいじゃん!」
「あんまり作った事ないから自信ないけど」
次に平野の弁当箱の蓋を開ける。こちらはおにぎりが並べられていた。おかずは無く漬け物が添えられていた。
「おにぎりに具入れてるし花音がおかずも用意してくるって言ったからウチはこれだけ」
ウエットティッシュで手を拭きいただく事にした。
「美味いな」
サンドイッチを食べると染宮は嬉しそうな顔をしたが直ぐにごまかす様に平野のおにぎりを頬張る。
「塩加減完璧じゃない。これ美味しい」
「マジ? 丹精込めて握った甲斐あったわ」
俺は二人の美少女が作った手作り弁当を食べられている事が幸せな事に気づくと味が一段と上がった気がした。
昼休憩を終わり辺りを歩いていると平野の足が止まる。なんだと思い視線を追うとお化け屋敷があった。このテーマパークのお化け屋敷は昔の病院を改修し日本一怖いと評判の所だ。染宮は顔を青ざめる。
「や、やめとかない? ほらここ長いらしいし時間もったいないかな〜て」
「怖いならそう言った方がいいぞ染宮」
「は、はぁ!? 怖くないんですけど」
「皆で入れば大丈夫っしょ!」
「待て、俺も行くのか?」
「何であんたは待ってる前提なのよ。こうなったらあんたも道づれよ」
俺達はお化け屋敷に入る事になった。
始めに映像を見せられた。雰囲気作りの為かここが廃病院になった経緯を語られる。世界観に没入した所からお化け屋敷は始まるようだ。
薄暗い廃病院を進むと医療器具やベッドに眠る患者の人形などがあった。所々と音が雰囲気を醸し出す。染宮は始めこそ気丈に振る舞っていたが次第に足取りは重くなっていった。かくいう平野は先頭をどんどん突き進んで行く。階段を降りながら地下に進む最中袖を摘まれる。どきりとし振り返ると暗くてもわかるくらい青ざめている染宮だった。
「怖いならリタイアできるぞ。それに階段ならオバケとか来ない。転げ落ちたら危ないからな」
「何でそんなに落ち着いてられるのよ⋯⋯それにここまで来て引き返すわけないじゃない」
狭く薄暗い部屋に入る。霊安室と表示されていた部屋にはベッドに横たわる人形達がいた。小さかった音が次第に大きくなる。そろそろ何か来そうだなと思った時だった。寝ていた人形が起き出す。
「きゃー!!」
咄嗟の事に染宮は驚き背中に抱きついてきた。むにょん。大きく膨らむ感触が背中いっぱいに広がる。これは色々やばいな。吊り橋効果かわからんがいつも以上に染宮が可愛く見える。
「ちょっと! 早く進みなさいよ!」
勢いよく背中を押され足元がおぼつかなくなった。
まずいと思い体勢を立て直そうとすると⋯⋯。
ふにょん。と手のひらが柔らかい物を捉えた。
「ちょ!? 幸人こんな暗い所でそれやめない?」
「すまん! わざとじゃないんだ!」
「あんたホントに見境ないわね」
そもそも染宮が押したのだがそれは関係ないとでも言いたげだった。
出口に近づいた時後ろから追いかけられるという一番怖い体験をし無事完走する事ができた。染宮は息を切らし平野は満足そうにと対照的だった。時間的に最後のアトラクションを観覧車で締める事にした。ゆっくりと登っていく窓からはアトラクションが遠ざかり人の行き交う様が見れた。次第に富士山も見え美しかった。
「ねぇ一番高い所行ったら皆で写真撮ろうよ!」
平野がスマホを操作し撮影の準備をする。染宮と平野が対面に座っていたが平野に手を引かれそちら側に移動した。平野がスマホのインカメを掲げ合図を送る。
「はいピース!」
カシャリという音と共に撮影は終わる。見せて貰うと俺達三人の背に富士山があるという写真に出来上がっていた。
「夏希後でグループに送ってね」
「もち! 直ぐに送るね!」
テーマパークを出て帰りの電車に乗る。空は夕暮れで一日の終わりを感じさせた。
「はぁ⋯⋯明日から学校ってなんか早く感じるわ」
「まぁバイトしてたり遊園地で遊べば時間立つのも納得よね」
ニート時代は時間の流れなど気にしていなかったが学生にとっての一日は一瞬なのだなと感じると俺は本当に今まで青春を棒に振っていたんだなと改めて思った。
駅に着き解散となる。今日の事は忘れられそうにない想い出になったな。そう思っているとロインのグループに写真が送られてきた。染宮と平野それぞれが撮った写真が俺のフォルダを埋めていった。