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同姓同名

作者: 古数母守

 自己紹介をするといつも笑われた。別におもしろいことを言っている訳ではなかった。純粋に名前そのもののせいだった。つまり、私の名前は織田信長と言うのだった。

「あー、知ってるー」

わざわざそう言う人も時々いた。そんなん日本人だったら誰でも知っている。一発で覚えられる。そんな訳で私が自己紹介をしている間は誰もがにやにやしていた。いったい親はどんな気持ちでこんな名前をつけたのだろう? 何も考えていなかったとしか思えなかった。信長じゃなくて信夫で良かったのにと思った。太郎でも次郎でも一郎でも何でも良かった。とにかく別の名前にして欲しかった。織田信長という名前に比べれば、どんなキラキラネームでも私は喜んで受け入れたことだろう。しかしこの呪われた現実が覆ることは決してなかった。これからずっと織田信長という名前であることを受け入れて生きて行くしかないのだと思った。その代わり誰でもいいから私のこの苦しい胸の内をわかってくれる人が現れないかと願っていた。そんな時、中途採用で入って来たのが彼だった。


 彼の名前は明智光秀と言った。私たちは出会ってすぐにお互いの気持ちを察した。多くを語らずとも、生まれてこの方ずっと続いて来た互いの不幸を悟った。そして私たちは無二の親友となった。だがそんな私たちを職場の人たちは怪訝な目で見ていた。織田信長と明智光秀が仲良くしている。にこにこ語り合っている。彼らにとって、それは歴史上あってはならないことであるようだった。確かにそうかもしれなかった。彼となら同じ悩みを分かち合える。彼なら私の気持ちを十分に理解してくれる。彼以外に私のことをわかってくれる人など、そうそういないだろう。それはそうだった。だが、やはり私自身も史実が気になっていた。もしかしたら、裏切られるのではないか? 彼と一緒にいて、そんな不安が過ることも度々あった。そんなはずはない。そう言い聞かせながら、私はその疑念を振り払うことに必死だった。裏切るのか? 裏切るとしたら、どういう形で裏切るのか? 何が裏切ることになるのか? 仕事で協力しないとか? お金を借りて返さないとか? いや、そんなことは決してないだろう。私は彼という唯一無二の存在を信じていた。そして彼を信じようと思う私自身を信じていた。


「今度、結婚することになりました」

出会ってから一年くらいして彼は言った。

「おめでとう」

親友の結婚を私は心から祝福した。史実がどうであろうとも私たちは親友なのだ。その親友の結婚を祝福しない人間がどこにいるだろう? そう思った。

「それで彼女とよく話し合って、婿養子に入ることになりました。来月から佐藤になります」

彼は言った。この裏切り者めと私は思った。


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光秀からもひと言 「いや、お前も婿養子になれよ」
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