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第八幕・修正版

すみません!一つ超基本的な過ちをおかしてしまいました。前半部分です。修正したのでご確認の程、

よろしくお願いいたします。

夜の闇の中で、小屋の扉を景気よく蹴破る。人としてとても褒められた行為ではないが、なに、これはカチコミだ。構うものか。半壊した扉の先に誰もいなかったら只のコントだが、幸い奴はいた。あの晩の様に囲炉裏でバーベキュー中らしく、肉は焼き上がり、鍋は煮え立っている。

「ほぉ、あの状況で死ななかったのか。大したもんだ」

その余裕綽々とした響きにささくれ立っていた神経が一斉に沸き立つ。クソミソ言われ、散々殴られ、挙句の果てには崖の下に落とされた。

ここまでされて黙ってられるか! こんなんキリストでも銃を手に取るわ! 僕は無言で部屋に上がり込む。当然靴を履いたまま。軽く眉をしかめる綾子をよそに、僕は彼女と向かい合わせの形で囲炉裏に座り、熊肉を手に取りかぶりつく。

「おい」

声にドスを利かせ、僕を窘める綾子。完全に無視してこれ見よがしにぐちゃぐちゃと肉を頬張る僕。

「おい!」

キレ気味の綾子を完全に無視して、僕は二本目に手を伸ばす。その僕の手に向けておたまを投げつける綾子。それは見事に命中し、囲炉裏の灰の中に落ちる。僕はそれを拾い上げ、綾子の顔面にめがけて投げ返す。まるでボクサーの様に頭を横に振り、それを避ける綾子。そんな綾子をよそに、これみよがしに二本目にかぶりつく僕。

「おんどりやーーーーーー!」

怒り心頭で立ち上がった綾子が、囲炉裏を飛び越える勢いで殴りかかってきた。僕はすかさずポケットからドロドロした『何か』を取り出し、迫りくる綾子の顔面に叩きつけた。熊の糞だ。

「あっ!」

想定外の攻撃を喰らい、思わず顔を押さえ俯いてしまう綾子。僕はゆっくりと立ち上がり、目をやられて動けない綾子の横っ面を思いっきり殴りつける。

「ぐはぁっ!」

部屋の隅まで吹っ飛ぶ綾子。痛みの為かそこでうずくまっている。そんな彼女の側まで行き、僕は追撃とばかり脇腹を蹴り上げる。

「ぐふぅ・・・・・・」

九の字になって苦しむ綾子。そんな綾子の肩に手をやり、あおむけにする。豊かな乳房がプルンと揺れた。その上に跨り、ポケットから再び熊の糞を取り出し綾子の口の中に押し込む。

「むぐぐぐ・・・・・・・うーっ」

全身を暴れさせ、全力で抵抗する綾子。そんな綾子の口に、次々と熊の糞を突っ込みながら僕は言った。

「お前の大好きな大自然の恵みだ。どうだ美味いだろう? とくと味わえよ」

捕獲されつつある獣の様に全力で暴れて、僕をはねのけようとする綾子。そうはさせじと全体重を使い、腰の下で綾子を押さえつける僕。両手で彼女の口をふさぎ、中のものを吐き出させまいとする僕の指に鋭い痛みが走る。瞬間的に危険を悟り、直ぐ様その口の中から指を引き抜く。ガチン! と綾子の上顎と下顎の歯がぶつかる。彼女の噛みつきからかろうじて己の指を守るも、僅かに体勢を崩してしまう。その隙を見逃さず、綾子は上体を起こして僕の内太股に噛みつく。

「ぐあっ!」

凄まじい痛みに口から悲鳴がまけ出る。綾子の顎から自らの太股を解放すべく、上から綾子を二、三発殴り付けるが、手振りのパンチ故に体重が乗らない。打撃を重くする為に体勢を整えようとする僕の腰が、いきなり跳ね上がる。僅かな隙をついて綾子がブリッジ状態になったのだ。バランスを完全に崩し、彼女の体からずり落ちる僕。お互い地に伏した状態で一瞬にらみ合う。そして二人の視線はほぼ同時に部屋の一点へと向かった。そこは銃台。ライフルが鎮座している。僕は半ば銃に向けて飛びかかるような勢いで突進する。僕と同じ様に猟銃を狙う綾子。争奪戦は一歩だけだが、猟銃に近かった僕の方に軍配が上がる。猟銃を手にした僕はいつぞやのお返しとばかりに、銃の台尻で綾子の顔を殴り付ける。たまらずぶっ飛ぶ綾子。床で呻く綾子を見下ろす形で、僕はその顔面に猟銃を突きつける。

「僕の・・・・・・勝ちだ」

「・・・・・・そのようだな。撃て」

綾子が口の中の糞を吐き出しながら言った。僕は引き金に指をかけるも、それを引く事が出来ずに固まってしまう。

「撃つ根性もないひょっこが銃など持つな」

その言葉と共に、綾子が銃口を掴んで自分の方に思いっきり引き寄せた。思わずつんのめる僕。結果として僕の顔と綾子の顔が息のかかる間合いにまで接近する。その隙を見逃す綾子ではなかった。

「プッ!」

綾子の口元が跳ね、そこから飛び出た何かが僕の目付近を打つ。熊の糞だ。顔を拭う為に思わず右手を銃から放し、その照準を緩めてしまう。銃口が逸れた隙に乗じて、綾子は跳ね起きつつ左手で僕の右足首を手前に引き、右手で僕の左腰付近を押す。柔道で言うところの『踵返(きびすかえし)』だ。思わず仰向けに倒れる僕。地面に転がった銃を素早く拾い、背中を打って呻いている僕に悠然とまたがる綾子。形勢逆転。綾子の腰の下でなすすべがない僕を、綾子は銃口と共に静かに見下ろしている。詰んだか? いや、まだだ! 鉛の矢が僕の頭を吹き飛ばすその瞬間まで諦めてたまるか!

とりあえず綾子を睨み上げる僕。例え目だけでも反撃せねば。重苦しい空気の中、二人の視線が激しくぶつかる。

「フッ」

僕の顔をしげしげと見ていた綾子が不敵に笑う。

「随分といい面構えになったじゃないか。初めて会った時とはまるで別人だぞ」

そう言ってペッ、と口の中に残っている熊の糞を吐き出す。

「してやられたよ。まさかここまでやられるとは思わなかった。中々やるな、お前。見直したぞ」

僕の健闘を称える綾子の口調には驚嘆の響きがある。どうやらお世辞ではなさそうだが、そんなもん知った事か。

「顔の形が変わるまでぶん殴ってやるって言ったろ」

そう言って、瞳に宿る憎しみを一段と滾らせる僕。そんな僕の憤怒を、余裕綽々と受け流していた綾子の瞳に興味の色が浮かぶ。

「どうだ、私が憎いか」

「ああ。まだまだ殴り足りない」

そうかと言い、綾子は無造作に銃の引き金を引いた。轟音が鳴り響く。硝煙の煙の向こう側に、銃を構える綾子がいた。その銃口は僅かに僕から逸れている。鼓膜が悲鳴を上げているところをみるに、放たれた銃弾は僕の耳をかすめて、床の一点を穿ち抜いた様だ。

「銃には安全装置というのがあってな、撃つ時はこれを外せ」

目じりを緩めて銃を降ろす綾子。その口調にはいつもの様な嘲りの響きはない。

「お前は面白いな。興が湧いたぞ」

だからなんだと言わんばかりに綾子を睨み上げる僕に、綾子が続ける。

「お前暫くここにいろ」

「なに?」

「もっと私を殴りたいんだろ? ならここで過ごせ。そして好きな時に私を殴るなり犯るなり好きにするといい」

綾子の過激すぎる提案に面喰う僕。その表情が可笑しかったのだろう、綾子がくくっと小さく喉を鳴らす。

「勿論、私も存分に抵抗はさせて貰うがな」

僕の腹の上で不敵に笑う綾子。この舐め腐った態度に僕の額がピキリと音を立てる。どうやらこの女は喧嘩の続きがしたいらしい。

宜しい、ならばクリーク(戦争)だ。

僕は登場人物の九割が狂人である某漫画の某名言を心の中で口ずさみ、人差し指を綾子の目に向けて飛ばす。虚を衝かれ、かろうじて僕の攻撃をいなすも、大きく態勢を崩す綾子。出来た隙を逃さず、素早くブリッジに移行し、腹の上に居座る綾子を床へと落とす。すぐさま受け身を取り、素早く立ち上がる綾子。対する僕も油断なく立ち上がり、既に戦闘態勢だ。対峙する二人。さぁ、第二ラウンドといこうじゃないか。目つきを鋭くして綾子の隙を探る。頭は冷えているが心は熱い。戦いが楽しい。これが闘争本能というやつか。なんでこうなった? 三日前は喧嘩に心躍らす人間ではなかったのに。この変化は何に起因するものなのか、『何か』を得たせいなのか、それとも『何か』を手放す事が出来たおかげなのか、それを知りたいと今、痛切に願う。それを知る為に、今暫くここにいようと思う+。まぁ、まだまだこの女を殴り足りないというのが本音で、それを巧妙に理屈付けしているだけなのかもしれないが。綾子から視線を切らずに、ゆっくりと歩幅を広げる。重心が落ちるに従って、体勢が安定するのが分かる。理にかなった動きは揺るがない姿勢から。熊との戦いで、命懸けで掴み取った知識。使わない手はない。太極拳が低く構える理由は、当にこれだろう。因みに太極拳はただの健康体操ではない。形意拳、八卦掌と並ぶ三大内家拳(筋肉ではなく『気』で戦う拳法)の一つであり、力の弱い者が強い者を如何にして楽に確実に殺すかを突き詰めた結論である恐るべき殺人拳だ。僕の言葉が信じられないならば『イップマン 最終章』という映画を観て欲しい。『最後のカンフースター』であるドニ―イェン主演のこの映画を観れば太極拳の恐ろしさが分かる筈だ。ん? イップマンを知らない? この人を知らなくてもこの人の高弟の名前を知らない人はいないだろう。そう、ジークンドー創始者であり世界的アクションスター、ブルース・リーの師匠です。

話が逸れた。綾子の左手が飛んでくる。ボクシングで言えばジャブだ。手で軽くいなす僕の腰が心持ち上がる。それを目の端でとらえた綾子が姿勢を落とし、タックルの体勢に入る。それを迎撃すべく、僕はすぐさま体勢を立て直し・・・・・・。



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