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重大発表かもしれない

皆様お久しぶりでございます。作者です。


本日は皆様に重大な発表があります。

前回ここで連載されていた『ハンニバル・カーニバル』が、来年二月くらいに本屋に並びます。


内容も大幅に加筆修正を行い、新しいエピソードも四つほど付け加えました。前作とは別物と言っても過言ではありません。タイトルも変えました。


『まじめにやれよ、ハンニバル』


発売決定記念に、冒頭のシーンを少し発表します。

気に入って頂けましたら、是非本屋さんでお求め下さい。


何卒宜しくお願い致します。

 『序章』


※長さ・距離の単位 

 

・キュビット 

 カルタゴで使われていた単位。 一キュビットは、約五十センチメートル。

 

・一スタディオン 

 約一八〇メートル。地中海全域の『共通単位』としてカルタゴやローマで使われていた。


・パッスス 

 ローマで使われていた単位。 約一.五メートル。

 

・ミレ・パッスス 

 ローマで使われていた単位。約一.五キロメートル。

 

 注釈・(※作者注)は本文の後ろに記載してあります。

  


 

 『ハンニバルのいるところに平和はない』

 プブリウス・コルネリウス・スキピオ・アフリカヌス の言葉より。

 

 

「敵陣の前で裸踊りをしてこい」

 カルタゴ軍に籍をおく私、ハスドルバルが、本日上官より賜った軍令である。

「板を手に持ってだな、局部を隠しながら踊るんだ。見えそうで見えない、そのもどかしさに、ローマの阿呆どもは戦意を喪失すること請け合いだ!」

そう言ってゲラゲラ笑っているこいつ、ではなくてこのお方のお名前はハンニバル・バルカ。一応我がカルタゴ軍の総司令官だ。私に裸踊りを命じている上官でもある。

 

――顔立ちはまぁ、男前と言っていい。線の細い貴族顔ではなく、土くさい野性味溢れる容貌だ。


 太くて長い眉、広くて形の良い額、彫りの深い眼窩に宿る、鋭く射抜くような眼光、長いまつげにどっしりとした鷲鼻、頑丈そうな顎骨の上に、引き締まった大きな口がでん! と鎮座している。総髪と言うのだろう、ギリシャ風に長く伸ばした髪を、後頭部で束ねている。体躯はそれ程大きくはないが、それを覆う筋肉は引き締まっている。因みに隻眼だ。

 理由はオリンピア第一四〇期の第四年(紀元前二一七年)の春、アルプスを越えてイタリアに侵攻した直後のこと。エトルリア――現在のトスカーナ地方――のアルノ川流域にある湿地帯を四日間不眠不休で行軍した際、重い眼病――眼炎――にかかったためだ。我が上官は唯一生き残っていた戦象の背に乗って何とか湿地を脱出したものの、適切な治療を受ける時間がなく、最終的に右目の視力を失ったのだ。 

 ここで少しは落ち込んでくれれば、部下として同情の一つでも寄せるところなのだが、生憎とこいつ、ではなくて我が上官はそんな可愛げのある男ではない。

「やったぜ! ウインクの手間が省けた! 隻眼サイコ~」などと正気を疑うようなことをほざきながら、前以上に若い娘に声をかけまくっている。我がカルタゴの未来は大丈夫なのだろうか。

 繰り返すが黙っていれば女たちが騒ぎ出しそうな容貌だ。黙っていればだ――。

 

 下された命令は冗談なのだろうか? 首をかしげる私をよそに、こいつ、ではなく我が上官は右手をひらひらさせながら言った。

「あ、軍章は外していけよ。俺等カルタゴ軍の名誉の為にな」

 どうやら本気らしい。

 軍事以外はウスラバカのこの男に、真面目に付き合う事はない。軽いため息を一つつきつつ、私は話を本題に戻しにかかる。

「大将軍、そろそろ本題に入って頂けませんか」

「これが本題だぜ。そうだ! 作戦名は『私の全てを受け止めて』にしよう。こりゃいい! こりゃ傑作だぜ!」

 そう言ってぶぁっはっはっと、両手で机を叩きながら爆笑するハンニバル。天幕の中、上座に据えられた三日月と太陽を象った我がカルタゴ軍旗が、心なしか萎れて見える。

「いい加減にして頂けませんか、大将軍」

 体の節々が熱を帯び始めた。血が煮え滾り始めている証拠だ。気付いたら左手の小指が、腰の剣の柄に掛かっていた。

「何をいい加減にする必要があるってんだよ。こりゃ作戦の打ち合わせだぜ。言うならば戦術会議ってやつだ」

 剣から離れる私の左手に目をやりながら、ハンニバルは右手の人差し指を立て、それをチッチッチッと、左右に振る。


ブチッ!


 私の頭の中で、何かが切れた。胸の内からこみ上げてくる怒りを怒声に変え、目の前の男に叩き付ける。

「裸踊りのどこが戦術ですか! 真面目にやって下さいよ! 今我々は窮地に陥っているんですよ!」

 ハスドルバルの危惧はもっともだった。事実、カルタゴ軍は今、全滅するかどうかの瀬戸際にいる。


 打倒ローマを誓い、イベリア半島を出た我が軍は、アルプスを越えイタリアへと殴り込んだ。そして迎撃にきたプブリウス・コリネリウス・スキピオ――大スキピオの父――率いるローマ軍をティキヌスで撃破して緒戦を飾る。

 そうして勢いに乗った我が軍は、プラケンティア―――現在のピアチェンツァ――まで侵攻し、その近郊にあるトレビア川にてティベリウス・センプロニウス・ロングスを撃破した。そしてそのままサムニウム地方まで進出し、ローマの植民市ベネウェントゥム一帯を荒らし回り、ローマの同盟市テレシアを陥落させ、大量の食糧を強奪した。

 こうして補給を整えた我等は、その余勢を駆りウォルトゥルヌス河の北岸にある都市、ファレルヌスを奪取した。

 この地で暫く兵を休めた我が軍は、冬営の為アドリア海側の都市、アプリアに向かう。そんな我が軍の動きを読んでいた男がいた。

 

 ローマの独裁官、クィントゥス・ファビウス・マクシムスである。

 彼は優秀だった。忌々しい程に。

 

 ファレルヌスからアプリアに向かうには、北の山岳地帯、カリクラ峠を通らねばならない。峠を越える道は一本であり、その足場は悪く、それ以上に狭い。

 ファビウスはここに目を付けた。この道を見下ろす山肌に、軍を配置したのだ。軍を行かせれば、ローマ軍により長蛇の列を寸断される。かと言って食糧が尽きかけている我が軍の現状では、迂回路を取るのも困難だ。正真正銘の八方塞がりの中で立ち往生する我が軍。現状を打開する為の手立てもなく、いたずらに時だけが流れていく……。


 「ハスドルバル」

 はあ〜〜〜〜〜〜っ……と、とてもわざとらしいため息と共に、ハンニバルが呼びかけてきた。

「なんですか!」

「もっと視野を広げるんだ。そう、飲み屋のねーちゃんの前で広げる大風呂敷のようにな」

そう言ってハンニバルは、両手を己の目の横に添える。

 朱色に染まっていた私の頬が、瞬時にして青くなる。

「……視野を広げる事がどうして私の裸踊りに結びつくのか、そのあたりを教えて頂けますか」

自分の声にドスが混じるのが分かる。人間というやつは、怒りが極限に達するとかえって冷静になるらしい。静かに猛る私を前に、ハンニバルは笑いを堪える表情で、その右手の親指をビシリと立てて言った。

「おめぇを囮にして俺らはずらかるのよ。一人の命を捨て駒にして多くの部下を救う。分かるかハスドルバル、これこそが大局を見据えた名将の判断ってやつよ」

 そう言ってキラリと歯を光らせるハンニバル。辛うじて残っていた私の理性が今、綺麗さっぱり吹き飛んだ。一軍の総帥でありながら、戦場でふざけ倒すこの愚かな男を面罵めんばすべく、私が口を開きかけたその時――。背後で天幕の垂れ幕がバサリとひるがえった。何者かが入ってきたのだ。


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