第二十幕
衣ずれの音がする。
薄目を開けると隣で横になっていたはずの綾子が、銃を片手に窓際で外の様子を伺っている。
「グゥウオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!」
唐突に雄叫びがした。冷たい『何か』が背骨を一撫でする。無意識の内に、手が近くにある筈の槍を求めて暗闇を彷徨う。今宵三度目の咆哮。まるで山全体の空気を喰らい尽くすかの様な雄叫びに鼓膜を凌辱され、僕は布団の中でひたすら怯えていた。暫くしてカチリとした音が、部屋の空気を微かに揺らした。銃の安全装置をかける音だ。綾子が窓際から離れ、再び寝床へと戻ってくる気配がする。布団から顔を出すと、薄暗い闇の中で、綾子の瞳が静かな光を放っていた。彼女は怯える僕を安心させるかのように小さく頷いて言った。
「大丈夫だ。奴は隣の山へ行った。今晩はこちらに来ないだろう。安心して寝ろ」
そう言って銃を傍らに置き、布団に潜り込む綾子。僕も目を閉じる。だが一向に眠気をもおよさない。体が、特に股間の辺りが滾っている。
(綾子が欲しい)
不埒な欲望。こんな状況で不謹慎も甚だしい。でも、おさえられない。おさえようがない。
(綾子が欲しい)
騒ぐ血の中からこみ上げてくる衝動。綾子の肢体を貪りたい。大きな形の良い胸を揉みしだき、そこに顔を埋め、突起を舌の上で転がしたい。形の良いお尻、くびれた腰、太もも、そして二人が一つになる花園・・・・・・全てを征服し、そして僕の全てを綾子の中にぶちまけたい。今まで自慰行為でおさえつけていた綾子への劣情が、理性をおしのけ、本能にとって代わる。それはいつしか僕の体をジワジワと席巻していく。もうたまらなくなった僕は、布団をはねのけ綾子に向き直る。
「眠れないのか?」
此方に背中を見せたまま綾子が言った。
「ああ」
「心配するな。もう一度言うが奴は今隣の山にいる。今晩は安全だ。しっかり寝とけ。明日は強行軍だぞ」
「綾子」
「なんだ」
「君が欲しい」
闇の中、綾子が息を呑む気配がする。僕は続けた。
「君が欲しくてたまらない。気が狂いそうだ」
綾子が布団をはねのけ、ゆっくりとこちらに向き直った。
「私もだ。お前が欲しい」
窓からこぼれ落ちる月明りが、潤んだ綾子の瞳を優しく照らす。
「人も獣も生命の危機を感じると性欲が高まる。体が万が一のことを考えて子孫を残しておこうとするんだ」
話ながら服を脱ぐ綾子。薄暗い闇の向こうに、きめ細やかな白い肌がぼんやりと浮かび上がる。
「来い」
一糸まとわぬ姿になり、僕の前で両腕を広げる綾子。僕は欲望の権化と化し、綾子を布団の上に押し倒した。
綾子の唇を貪る。そのぬめりを帯びた柔らかさは否が応でも僕の情欲をかきたてる。部屋を照らす微かな月明かりの中、舌と舌が絡み合う卑猥な音が闇を震わす。綾子の乳房を揉みしだく。うう、と綾子が小さなうめき声をあげ、僕にしがみついてくる。ピンク色の乳首にむしゃぶりつく。
「ひうっ!」
叫び声を上げる綾子。
「ご、ごめん。痛かったか?」
「痛くはないが少し変な感じがする。そこを嘗めたり触ったりするときは、気持ちゆっくりとやってくれ」
「わ、分かった」
胸を数回揉み、谷間に顔を埋めたあと乳首を口に含んで舌の上で転がす。
「あ! あっ、うっ、ふーん」
綾子の呼吸が色を帯びてくる。艶かしい声を聞きながら、顔を下腹部へとずらしていく。愛液でまみれた黒い繁みの中に顔を埋め、花畑を舌で丁寧になぞっていく。
「あっ、ああああああっ!」
腰を浮かせて快楽から逃れようとする綾子。そうはさせじと腰を両手で掴み、引き続き舌での愛撫を繰り返す。
「あん、あん、あん、だめえぇっ!」
執拗な愛撫に蕩ける綾子。花畑を舌でこじ開けていくと、舌先に何か固いものがぶつかった。舌先で二、三回転がしてみると
「はうぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅん!」
と綾子がブリッチ状にのけぞった。彼女の様子から見るに、どうやらここは女性にとって責められると気持ちの良い場所のようだ。もっと綾子に喜んで欲しくて、その突起を舌先で狂ったようになめまわす。陸にあげられた魚のように、布団の上で悶える綾子。
「あっ! だ、だめ! やめろ! そ、そんなにされたら・・・・・・お、おかしく・・・・・・なる」
それから暫くの間、僕は綾子の全身を自らの舌で指で掌で顔でとにかく全身で堪能した。
「はぁはぁはぁはぁはぁはぁ」
幾度となく繰り返される快楽により、陸にあげられたマグロになってしまう綾子。僕ももう堪らなくなり、一物をもって綾子を貪ろうとするも、二つある穴のうちどちらに入れればいいのか分からず途方に暮れる。
「ここだ」
綾子が指で二つある内の上の方にある穴を指し示す。そこにゆっくりと一物を差し入れていく。僕の物が生暖かい無数のひだのような物に包み込まれる。
「ん、んん」
綾子が呻き声を上げた。
「痛いのか」
「うん、少しな。大丈夫だ。一気にいけ」
「分かった」
僕は一物を一気に押し込んだ。
「んんんんんんんんっ!」
大きくのけ反る綾子。そんな綾子に構わず、僕は更なら快楽を求めて腰を降る。一物にまとわりつくグジョグジョした感触がたまらない。
「んくっ、くふっ、あっ、あはっ!」
僕の下で激しく悶える綾子。苦しんでいるのか感じているのか全く分からないが、もう止まらない、止めることなぞ出来ない。僕はより一層激しく腰を降る。
「ああっ、だめ、待て! そんなに」
綾子が強くしがみついてくる。それに合わせるかの様に、僕の一物が綾子によってきつくきつく締め付けられる。
(こ、このしまり)
今まで感じてきた快楽なぞ児戯に等しいと思える程の、圧倒的な性の喜びに体が打ち震える。何かが腰の奥から込み上げてきて、一物に集中する。
「綾子! 綾子!」
下腹部から生じた快感が脊髄を走り抜け、脳内で爆発した。目眩がするほどの快感の中、僕は僕自身を綾子の中にブチまける。ドクドク、と僕自身を形作るモノが綾子へと伝わっていく。
綾子の上で快楽の余韻に浸る。クスッ。見ると綾子が僕の下で悪戯っぽく笑っている。
「な、なんだよ」
少しだけ鼻白む僕。生まれて初めての行為だったので、その至らなさを笑われたと思ったのだ。
「随分と沢山出したものだな。私の中はもうパンパンだ。これは孕んだかもしらん」
「え?ま、マジでか?」
僕は驚きのあまり思わず綾子の顔を正面から見据えてしまう。
「かも、だ。これはあくまで可能性の話だ。膣内に精を流し込んだのだ。そこに妊娠の可能性が生じるのは当然の事であろう?」
綾子が艶然と微笑みながら僕の手を握った。僕はその手を強く握り返す。互いの手と手が自然と恋人繋ぎになる。その瞬間綾子への愛おしさが爆発した。陰茎が再びそそり立つ。
「綾子!」
僕は再び綾子に挑みかかった。そんな僕の全てを綾子は海のように優しく受け止めてくれた。