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第04話「イッツ・ショータイム!」

 「おおっ、いい食いっぷり」

 「キュウ」


 ペンギンかわいい~~! 飼いてーなぁー!

 なんて事を考えながら俺の手から小魚を頭から一気に食べようとするペンギンを眺める。

 さっきはモフモフの赤ちゃんペンギンも触れたので俺の中でもうこの水族館の評価は右肩上がりだった。


 「こりゃ当たりだな、デートスポットにメモっておこう」


 後はイルカショー見て、新鮮アジフライ食べたら帰るか……そうだ、彼女へのお土産にぬいぐるみも買っとこう、と俺は心行くまで水族館をエンジョイしていた。

 そしていざ買って帰るぬいぐるみを見繕っていたところ、脳裏に何かが挿しこまれたような気味の悪い違和感が走る。


 「嘘だろ……できたばっかだよな……?」


 幽霊やら妖怪やらが力を振りまいたときにばら撒かれる魔力――人によって呼び方が違うが――を身体が感じ取ったのだと気づいた俺は急いで現場に急行する。

 基本ああいった奴らは古びて暗い場所を好んでいるからここには来ないだろうと踏んでいたのだが、俺の見当違いだったか、それとも……。


 「『ボガスカン』っつったっけ? 安直なネーミングだよなぁ……」


 と言っても、その力は全く侮れたものではない。

 この間勝てたのだって、相手が張った結界みたいなフィールドを乗っ取る小細工を時間かけて仕組んでこっちに有利な空間を作った上で特上の銀毒食らわせてようやく殺れたのだ。


 しかし、だからといって俺がここで逃げるわけにはいかない、チート転生者ならこれぐらいサッと乗り越えるだろうし、人の命がかかっている場面でそれをどうにかできるかもしれない力があるのなら、まあなんとかしてみるのが人としての義務だろう……最悪、他の人に連絡して逃げればいいし。



 ☀~~~☀



 楽しい思い出になるはずだったすももちゃんとの水族館は、驚きに満ちた非日常への入口だった。

 プイプイって名前の妖精から告げられたことは余りにも現実離れしすぎていて、最初はポカンとしちゃったけど、私の心の中は次第に期待と喜びに満ち始めていた。

 だってそうだろう、小さい時からずっと憧れていた変身ヒロインになれると言われて嬉しくないわけがない。


 これで引っ込み思案な自分を、下を向いてばかりの自分を変えることができる、守られてばっかりの弱い自分から抜け出せる。

 そう思ってた、けど……。


 「あーら、新しいエスキュートって聞いて警戒してたけど、てんで大したことないわねー! オーッホッホッホ!」

 「に、逃げて……すいなちゃん……!」


 いざその事態に直面した時、私にあるのは恐怖と後悔だけだった。

 突然のことだった、イルカショーのお姉さんが急に妖しく笑い出したと思ったら、私とすももちゃん以外の観客の人たちがぐったりしだして、ドームの中が薄暗くなったのだ。


 そしたら、お姉さんの姿が金髪の真っ黒な衣装に代わって、その手には鞭が握られていた。

 すももちゃんはその人を知ってるみたいで、すぐに変身して戦った、だけどお姉さんが手にしていた黒い何かがイルカさんの中に入ると、イルカさんが苦しみだして……。


 「このイルカボガスカンの前ではお前の炎は無力! それにもし間違って倒してしまったりしたらこのイルカはおしまいよ!」

 『ギュガアアアア!』

 「くっ、ううっ……! イルカさん、おねがいやめて……!」


 大きく、そして凶悪な顔つきになったイルカさんはすももちゃんの炎が全く効かず……いや、すももちゃんは全力を出せず、ただイルカさんからの攻撃を受け止めることしかできなかった。


 そしてその間私がしていたことは……椅子の後ろに隠れて、その様子をこっそり見ていただけ、すももちゃんがやられそうになってからは、それもやめて頭を抱えてブルブルと震えているだけだった。


 『すいな、早く変身してっプイ! このままじゃフラム、やられちゃうっプイ!』

 「う、うう……!!」


 助けたい、本当なら今すぐにでもすももちゃんも、イルカさんも助けたい。

 でも、今までの人生でずっとそばにいる怖がりな私がそれをさせてくれなかった。

 もし負けてしまったら? 助けられなかったら? ……そもそも、今まで誰かの後ろにいただけの私が変身なんてできるのだろうか?

 変身するための道具『エスパッション』は手の中にあるのに、それを開く勇気が出ない。


 「誰か……誰か助けて……!」


 誰かが来たところでこんな怪物相手に何ができるのだろうか、そう思いつつも私はそう願わずにはいられなかった。

 その直後、ビュッと何かが鋭い音を立てて飛ぶ音がする。


 「っ!? 誰よ!?」

 「この羽根は……!」


 恐る恐る顔を出すと、すももちゃんとイルカさんたちの間に、真っ黒い羽根が三本、ステージの上に突き刺さっていた。


 「『くらましの影』」


 何処からともなく男の人の声がドーム内に響くと、地面の羽根から大量の羽根が舞い上がる。

 マジシャンが起こすような光景に思わず見入っていると、次第に羽根が地面に落ちてその黒い幕を下ろしていく。

 そしてその幕が下りた先には、先程までいなかったシルクハットとコートを着た、全身黒ずくめの人が立っていた。


 「……エスキュートじゃないみたいね、誰かしら?」


 お姉さんはエスキュート以外は大したことないとでも言うような、余裕を持った態度を取り戻してコートの人に問いかける。

 対してコートの人はゆっくりと顔を上げてお姉さんの方へ目線を合わせると、両手をポケットに手を入れ、そしてそれぞれ一つの枝を取り出して右手を顔の横まで掲げた。


 「魔術師、コルウス……そして」


 次に枝をベキリと手の中で折ると、次の瞬間には手から煙が噴き出し、幅の広い剣が肩にかけられていた。

 だらりと放り出していた左腕にも煙と共に盾が握られており、その姿は絵本の中の騎士とは似ても似つかない、恐ろしく暗い雰囲気を醸し出していた。

 敢えて彼の姿を例えるなら、それは人を守る騎士ではなく――


 「お前を倒す者だ」


 獲物を狩る、狩人の姿だった。



 ☽~~~☽



 う~~ん、これ毎回名乗るのか? 流石にそれはちょっと嫌だなぁ。

 一応、話ができる人外に対する警告のために初めて見る相手にはある程度は名乗んなきゃいけないけどさぁ……。

 なんて考えつつ、剣を下ろして傾けた半身に隠しつつ、盾を身体の前に構えて戦闘態勢を取る。

 こうすると剣の軌道が読まれにくく、なおかつ被弾面積も抑えられてちょっと有利になるのだ。


 「随分と大きく出たわね! 後悔させてあげるわ!」

 『キュガアアア!!』


 SMプレイのS側で着てそうなコスチュームに身を包んだ女は、鞭をパチンと乗っていたイルカモドキに振り下ろすと、可愛さとは無縁の鳴き声でイルカモドキが突撃してくる。


 突撃を選ぶところパワーに優れた近接タイプ、そして突撃の速さからしてパワーに対してあまりスピードは優れてない、タフなタンク型の戦い方だ。

 突撃を間一髪でかわしつつ、すれ違いざまにその脇腹に一撃……を入れようとしたら上に乗っている女が鞭を振って攻撃してきた。


 「っ!」

 「あっはは! 少しはやるようね!」


 咄嗟に盾で防いだものの、攻撃姿勢からの無理な防御に体勢が少し崩れる。

 こちらがたたらを踏んでいる間に向きを直したイルカモドキが再び突撃してくるが、それを今度は崩れた体勢を利用したローリングで躱した。

 すれ違いざまの鞭打は距離を十分稼げたおかげで半身前の地面を削るように抉り砕いただけで済んだが、その威力の前にはさすがの俺も少し身震いした。

 いくら強化を施したコート越しとはいえこんなものまともに食らったら骨折は確実である。


 「でも残念、所詮エスキュートでない人間風情じゃボガスカンは倒せない!」

 「…………」


 いやあんたが邪魔しなかったら倒せるんだけど……という突っ込みは無粋な気がして止めた。

 というか、味方が倒されないようにするのは当然の行動なので俺がそこに文句を言う筋合いはないっちゃないが……少々困ったことになった。


 さっき体感した通り、このイルカモドキは突進しかしない――というより、攻撃機能が正面にしかないのだろう、 だから攻撃を回避しながら背後か側面に回りこめられればいいのだが、あの女が邪魔してそれが出来ない。


 加えて、今戦っている場所は水に囲まれたステージの上であり、敵はその周りをぐるぐると回っている状態で隙を消してくる……地の利も活かした厄介な連携だ。


 「さあ、どうするの? みっともなく謝るって言うなら見逃してあげるけど?」

 「……そこの少女」

 「えっ、何っ……?」


 だから、俺は相手に揺さぶりをかけることにした。

 鞭女の言葉を無視して後ろにいるいつぞやのピンク少女に振り返って声を掛ける。

 すると彼女はこちらにも警戒の構えをしつつも返事を返した……いや、前も何もしなかったじゃん、傷つくよ?


 「目と耳を塞げ、痛いぞ」

 「えっ? あのっ……?」

 「……っ! 無視してんじゃないわよ!」


 そんなボヤきを心の中でこぼしつつ、懐から一つの箱筒状の機械を取り出してスイッチを入れる、そして未だにステージの周りの水上をぐるぐると回っている敵目掛けてそれを無造作に放り投げた。


 「はんっ! 爆弾なんて水に潜れば――」


 言葉が聞こえたのはそこまでだった。

 おそらく鞭女は手榴弾でも投げたと判断して水中に逃れたのだろう、現代兵器にも理解がある点は脅威的な情報収集能力と言えるが、今回はその情報が与えた偏見が仇となった。


 「――――!?」

 『ギギイイイイイ!?』


 直後、おびただしいまでの閃光と轟音が迸る。

 バチン、バチンと音を立てて水面に走っているのは稲光、そう、俺が投げたのは爆風と金属片ではなく、電撃を撒き散らす爆弾――強力な市販のスタンガンを、すぐに壊れることを代償に更に高出力にした電気爆弾だったのだ。


 「きゃあああ!?」

 『プイイイイ!?』

 「ひいいいっ!?」


 因みに、ピンク少女とその妖精もキッチリその被害を被っていた……だから目と耳塞げって言ったのに、あと一人誰か妖精の近くにいるな、逃げ遅れたのかな?


 普通の人間なら死ぬか、よくて後遺症が残った上で病院送りだがあれほどの……今更だけど分類なんだろう、魔獣? 悪魔? 妖精? 怪異? それとも妖怪? ええい、とにかく力の強い人外を従えてるならちょっと皮膚が焦げる程度で済むだろう。


 最後に派手な音を立てて爆弾が壊れると、一つの物体がぷかりと浮かんでくる。

 そこには目を回して伸びているイルカモドキとその上に乗っかっている鞭女がいた。


TIPS


『身体強化』

詠唱:なし

触媒:なし

条件:なし

説明:基礎魔術の一つ、魔力を全身に巡らせ身体能力を向上させる、加減を誤ると身体を壊す。

力なき魔術師たちは、筋肉の代わりに魔力を用いて戦士となった。

知が力となるのだ。


刑二のコメント

「まあ、戦う魔術師なら使わない人はいないと断言できるほどの基本中の基本だな

これを極めた魔術師は拳で山を削ったとかなんとか……嘘だとは思うけど……」

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