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第37話「集合! エスキュート!」

 「――とうっ!」


 本題である赤沢ちゃんの特訓に戻ってから40分、美音さんの汗を拭いたり水分補給を行ったり、疲労軽減のマッサージをしつつではあるものの俺たちのアドバイスを受けて赤沢ちゃんは再び波のアトラクションに挑み、そして今まさに最後のスイッチを押したところだった。


 「やったぁー!」


 チャレンジクリアのファンファーレと共に赤沢ちゃんはバッと両手を挙げて汗と共に笑顔を弾けさせる。

 宙銀さんを始めとした彼女の仲間たちは皆一様に拍手をし、出口まで彼女を迎えに行った。


 「……あの子たち、普通に関わる分には……まあまあいい子たちですね」


 宙銀さんはまだちょっと気に入りませんが、と締めくくりながらもそう呟く美音さんに俺は思わず口が開く程の衝撃を受ける。

 てっきり出会った当初の言動を顧みるにああいうタイプの子たちは美音さんには合わないだろうとばかり考えていたから、この反応は意外であった。

 そこで、俺の頭にはある発想が浮かぶ。


 「まさか美音さん、あの子たちの人となりを確かめるためにあんな事を?」

 「…………ふふふ、どうでしょうか?」


 目を閉じて静かに微笑みながらそういう美音さんの姿は、最早答えを聞くまでもなく俺の考えを肯定する――あれ、なんか冷や汗かいてないか? いや、でも、日差しが暑いだけなのかも……いやどっちだ? この顔どっちなんだ!?

 と、肯定とも否定とも取れない彼女の態度にプチ混乱を巻き起こしつつも、立ち上がろうとする美音さんの手を引く。


 「さて、おかげさまで疲れも取れてきましたし……私たちは行きましょうか」

 「そうですね、最後に挨拶してから――」


 ズボンの汚れを払いつつそういう美音さんに同意しつつ、宙銀さん達に声を掛けようとすると、突如としてまだ青い空が毒々しい紫色へと変化する――ワルジャーンが襲撃してきた証だ。


 「! 美音さん!」

 「ぐぇあっ!?」


 影人間の出現を危惧して咄嗟に美音さんを抱えて近場の茂みに身を隠す、ちょっとお腹を押してしまったが緊急事態だ、仕方がない。

 俺の行動で一瞬目を回していた美音さんだったが、紫に染まった空を見ると、すぐにはっと顔つきが引き締まった。


 「これがワルジャーンの……!」

 「美音さん、とにかく今はここを離れますよ! こっちに影人間が押し寄せる前に!」

 「…………いえ、待ってください! あそこを……!」


 俺が美音さんの手を引こうとすると、彼女はそれに逆らって空いている方の手である方向を指差す。

 その方向に顔を向けると、なんとスカムが乗っているであろうUFOとそれに対峙する宙銀さん達の姿が見えた。


 「宙銀さん達!? 逃げないのか……!?」

 「……疑念が確信に変わるかもしれません、少しだけ見守りましょう」


 すぐさまコルウスの格好になって助けに飛び出そうとした俺を美音さんが再び制止し、彼女もまた懐から1つの花のつぼみを取り出して、それをぎゅっと握る。

 すると次に彼女が手を開いた瞬間、花びらと共に角のように突き出た一本の枝の先に花が咲いている白い木造の模様の掘られた仮面を取り出し、それを顔に付けた。

 ――彼女が魔術師として活動するにあたって、協会から贈られた仮面である。


 「……持ってきていたんですか、美音さん」

 「今は『ペルティカ』と呼んでください、コルウスくん」


 ……確かに、これからオペレーターとしても活動してもらう以上、どうしても危険な現場に近づく事もある。

 そのためにも今日はここに体力づくりも兼ねて来たのだが……何も今じゃなくてもいいだろうに、内心で溜息を吐きつつクリーム色の毛糸で編んだような魔術師の装束に身を包んでいく美音さん改め、ペルティカさんを見た。


 「……あと、人前では敬語もなしでお願いします、聞いている限りの振る舞いだと、そっちの方がコルウスくんっぽいと思うので……」

 「…………わかった」


 ペルティカが準備を進めていく間にも、スカムと宙銀さん達は何かを話している。

 ここからでは会話内容は聞き取れないが、声の感じからして決して穏やかではないだろう。

 万が一に備えていつでも助けられる位置にこっそり近づいていくと、宙銀さん達一斉に懐やらズボンのポケットから何かを取り出すのが見えて――それに俺は驚愕した。


 「あれは、エスキュートの――!」

 『エスキュート・メークアップ!』


 呟きの途中で彼女たちの姿が一斉に光に包まれて、直視できない程に強まっていく。

 咄嗟に手で目を庇った俺が次に手を降ろせるほどに光が収まる頃には、6人の少女たちがそれぞれ見覚えのある……いや、やっぱり紫の娘は初めて見る……とにかく、派手なドレスに身を包んでいた。

 まじかよ、関係者どころか、ドンピシャじゃねえか……!!


 「元気いっぱい燃える炎! エスキュート・フラム!」

 「勇気育む大海原! エスキュート・オー!」

 「優しさ包む大地! エスキュート・テーレ!」

 「正義が轟く疾風! エスキュート・ヴェント!」

 「知恵が拡がる無限の宇宙! エスキュート・シエル!」

 「悪を貫く銀の一閃! エスキュート・シルバー!」


 そんな風に驚いていると、彼女達6人はなんと各々が前口上を述べて武器を構えたりして決めポーズを取り出したのだ。

 ポーズを決めた瞬間に光がもう一度弾け、演出としては中々いいんじゃないだろうか?


 「…………??」

 『…………何をやっているのでしょうか? あの人たちは……』


 …………いやいやいや待て待て待て、そんな場面一回も見た事ないぞ俺、なんで急に――いや待て、そういえば彼女たちが変身するシーンはこれまでハッキリと見たことは無かった。

 つまりアレか? 変身する度あんなことやってんの? ペルティカも通信機越しに呆れてるじゃないか……それとも、魔術的な儀式みたいな意味のある行動なんだろうか。

 そんな風に驚愕と困惑に頭を満たしていると、彼女たちの変身を見届けたスカムが自信満々といった様子で大笑いする。


 『シャーッハッハッハ! また人数が増えたようでスが、こちらも今日は新しい力を持ってきたのでス!』


 そう言ってスカムはUFOのアームをUFO下部に持っていき、そこから落としたものを掴むと、エスキュート達に見せびらかすようにそれを持ち上げる。

 するとシルバーの様子が目に見えて狼狽え、震える指でそれ――四角い岩を模ったような宝石がはめ込まれたアクセサリーを指差した。


 「エ、エスデコル! 本物の宝物庫にあったのに、ゴールドが守っていたのに、どうして……!」

 『どうしてもなにも、奪ったからここにあるのでス』


 どうやら会話内容から察するに、あのアクセサリーは宙銀さんのお仲間が守っていたエスキュートの宝物のようだ。

 ……ひょっとしてあの時、協会に引き渡してしまったアクセサリーもそうだったりするのだろうか、だとしたら多分、かなりマズイ事しでかしたかな、どうしよう……。


 「みんなは……ゴールドは!? レインボウ女王は!? どうしたの!!」

 『さぁ……どうなったんでスかねぇ……』

 「答えてっ!!」


 俺がそんな風に考えている間にも、彼女たちの話は進んでいく、宙銀さんは仲間の安否をスカムに問いかけているが、あの口ぶりからして少なくとも無事には済んでいないだろう。

 最悪、既に殺されているかもしれない、そんな予想が宙銀さんにもあったのか、剣を握りしめる手が力み過ぎるあまりぶるぶると震えだしている。


 『シャッハハハハ! 知りたければ自分で調べる事でス! ……エスデコルよ! 今こそ闇と一つとなれ!』

 『……これは! あのアクセサリーにダークエナジーが集中し始めています!』


 一通り宙銀さんを嘲り笑ったスカムは、エスデコルを掲げると、ペルティカの言う通りそこに周囲から具現化した粒子状のダークエナジーがあのエスデコルに纏わりつくと、どんどんその体積を膨らませていく。

 ある一定の大きさまで膨らんだ後に、次第に角ばった人型を形成し始めると表面に金属の質感を伴い始め、最後に頭部に当たる部位から鋭い一対の目が光り、両手を振り上げて咆哮した。


 『ボガスカァァァン!!』


 その叫びと共に地面に降り立った奴の身体は、とてつもない振動と音を伴い、奴の身体の重さを俺たちに示すには十分だった。

 ……あの時と同じタイプなら、エスデコルってやつを引っこ抜けば無力化できるかもしれないが、正面切ってぶち抜くのはムリそうだ。


 『ただのエネルギー体でこんなに質量を伴うなんて……戦闘に入るなら、打撃攻撃には細心の注意を払ってください……!』


 ペルティカの警告を心に刻みながら、俺は奴に不意をいつでも突けるように物陰から物陰への移動を開始した。

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