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第36話「勃発! 美音VSエスキュート(?)‘s」

 「あっ! あの人じゃないですか!?」


 美音さんを待つこと暫く、赤沢ちゃんが指さした方向を見ると、肩を怒らせてこちらにずんずんと歩み寄って来る女性が目に入る。

 普段見せない不機嫌に一瞬、思わず別人かと考えたが腰についている通信機の存在からその人は間違いなく美音さんだった。


 「……お待たせしました」

 「えっ、ちょっ……」


 そして美音さんはなんと、こちらに近寄るなり腕を自分の方に抱き寄せて目の前の宙銀さんに向けて思いっきりガンを飛ばし始めたのだ。

 そんな色んな意味で彼女らしからぬ行動に唖然としていると、宙銀さんもまたよく分かっていない様子で美音さんを見つめ返していた。


 「…………」

 「あ、あの……」


 そうしてしばらく宙銀さんに視線を送っていた美音さんだったが、やがて埒が明かないと思ったのか、今度は俺に向かって見上げて来た。

 その目付きは怒りというより、どこか拗ねたような感じで俺のことを責めているように感じた。


 「綺麗な後輩ですね、刑二くん……ああいうタイプが、好みなんですか……?」

 「み、美音さん……? 何か勘違いしてませんか……?」


 よもや、美音さんは俺のことを好みの女性を見つければ今遊んでいる相手を平気でほったらかす男に映っているのだろうか……?

 ともすれば心外だが、そういう誤解を招きかねない行動をしているのもまた事実、あくまでも困っている後輩をほっとけなかっただけで、他意は無いのだが……。


 「……これは一体、どういう状況ですの?」


 どう弁明したものかと思案し、ここにいるみんなも誰一人行動できない膠着状態に陥ったこの場所に困惑の声が広がる。

 首を動かしてその方向を見てみると、鮮やかな紫色の髪を左右でそれぞれロールを撒いている、いかにもなお嬢様チックな子が眉を寄せてキョロキョロと辺りを見回していた。


 「ね、ねぇすもも、あの人たち誰? なんであんなに怒ってるの?」

 「えっと……ひとみ先輩の高校の先輩なんだけど……」


 赤沢ちゃんの近くには緑色の髪の子がこちらを警戒心の高い小動物のようにチラチラと伺いながら彼女に話しかけていた。

 赤沢ちゃんは頬をかきながら緑の子に俺たちの事を説明しようとしているようだが、この状況について彼女も理解し切れていないためかなり曖昧な言い方になってしまっている。


 「あの~、すいなちゃん? どうしてこうなったのか教えていただいても……」

 「さ、さぁ……最初からこうだったとしか……」


 一方、水島ちゃんの方にはのぞみさんが困惑した様子で水島ちゃんに尋ねているようだったが、彼女も同じく曖昧な返事を返していた。

 ……しかしこうして並ぶと同じ中学生って言われても全然信じられないな、主に身体の成長具合とかで。


 「刑二くん?」

 「いえなんでもございません」


 そんな罰当たりな思考を見抜いたのか否か、腕をより強く抱き寄せてくる美音さんに返事を返しながら俺は必死に彼女が抱いているであろう誤解の解消に四苦八苦するのだった。



 ☀~~~☀



 「ええっと……あなたが、処沢さんのお友達、でしょうか?」

 「…………はい、私は山彦美音……オカ研の部長をやっています」


 私、何か嫌われるような事したかしら……?

 そんな事を考えつつ、処沢さんにしがみついたままの姿勢で自己紹介をした山彦さんに向かって、私もまた挨拶を交わす。


 「そ、そうですか……えっと、私は宙銀ひとみって言います、よろしくお願いします」

 「……よろしくお願いします」


 小さく会釈した山彦さんに合わせて、私もまた小さく頭を下げる。

 ……そこからまた少し気まずい空気が流れ、私はどう話しかけたものかと口を開けないでいると、先に山彦さんの方が私に向かって話し始めた。


 「…………あなたの事は刑二くんから聞いています、なんでも林間学校で知り合ったばかりなんだとか」

 「え? えっと、初めて会ったのはファミレスですね、喧嘩しそうなのを仲裁して頂いて……」


 思い返すと、会った最初から私は処沢さんにずっと助けられていたのだと実感する。

 この特訓でも力を貸してもらってしまっているし……エスキュートとしての活動以外にも何か彼に返せるものがあるといいのだけれど。


 「……あの時の人でしたか、ええ、確かその時は私も刑二くんと一緒に食事をしていたので、よく覚えています」

 「まあ、そうだったんですか! 食事と言えば、私も処沢さんと林間学校でカレーを作ったことがありまして」


 意外な接点を見つけた私は、これ幸いとばかりに処沢さんとの思い出を話してみる。

 私と山彦さんの共通する話題は、やはり処沢さんだ、こうして互いに話せる事から会話を広げれば、きっと彼女とも仲良くなれるだろう。


 「……そ、そうでしたか……」


 だけど、何故だか逆に山彦さんはどこかシナシナとした様子で元気を失くしてしまった。

 自分の発言が何かまずかったのかとアタフタしていると、横で話を退屈そうに聞いていたやよいが口を挟む。


 「ねぇ、そろそろ次の特訓に移りたいんだけど……」

 「……そうですね、長々とおしゃべりをするのもなんですし……確か……跳び方を教わりたいのでしたよね?」

 「は、はいっ!」


 山彦さんはやよいの言葉に顔を上げると、次にすもも達の方へと視線を向ける。

 ……処沢さんに教わる予定だったのだけれど、なんだかいつの間にか彼女から話を聞くことになってないかしら?

 そんな疑問を抱きつつも、山彦さんの論理的な話し方はいつの間にか私たちの頭にスッと入って来たのだった。


 「それでは、今の話を踏まえて刑二くんにもう一度やってもらいましょう……お願いします」

 「分かりました、美音さん!」


 山彦さんの呼びかけに処沢さんはぐっと気合を入れるポーズを取ると、またな波のアトラクションに並び、今度は更に高難易度の高さも楽々クリアした。

 なるほど、彼の上手さは山彦さんのアドバイスもあってなのだと理解する……二人であの技術を生み出したのだと思うと、何故だか心が少し重たくなったような気がした。


 「おぉー……! ホントにあれだけ変わるなんて! ひょっとして山彦先輩もあれぐらいできたりするんですか!?」

 「…………ま、まぁ? 少し練習すればできると思いますよ?」

 「えっ?」



 ☽~~~☽



 「ふんぬぬぬぬ……!」

 「ま、負へまへんよぉぉ……」


 どうしてこうなった――最早呂律すら回らない程ヘロヘロな美音さんを横目に頭を抱える。

 きっかけは緑の子こと風森やよいちゃんが美音さんに俺と同じことができるか、という問いかけだった。

 彼女の問いかけに美音さんは冷や汗をかきつつも、後輩兼『エスキュートの関係者候補』の前で弱みを見せたくなかったのか、ついできると答えてしまったのだ。


 『うぅっ……』

 『……えーっと、どんまいです! 美音先輩! すっごく頑張ってたと思いますよ!』

 『その、私もそんなに運動は得意ではありませんから……』


 しかし、結果は散々なもので、両手を地面について汗を垂らす美音さんに赤沢さんと水島さんが慰める結果となった。

 美音さんは『どうすればいいか』を分かっていても、それを実現するための身体能力が足りておらず、ただ台の下をウロウロするだけとなったのだ。


 『ぎゃんっ!?』

 『み、美音さんー!!』


 ……しまい目には、台の縁に思いっきり額をぶつける始末、幸い台には衝突対策に柔らかい素材が使われていたため怪我は無かったのだが、美音さんのプライドは大きく傷ついた。


 『……から』

 『えっと、どうされましたか~?』

 『他の競技なら……上手くやれますから……! ちょっと、これは初めてだったので失敗しただけです……!』


 美音さんはそう言ってぐっと立ち上がったのだが、ほんのり涙目な辺り言い訳と強がりであるのは明らかだった。

 しかしそれを真に受けてしまった風森ちゃんがとんでもない事を言い出してしまったのだ。


 『よーし! それじゃあ折角ですので他のアトラクションであたしたちと勝負してくれませんか!?』

 『ち、ちょっとやよいさん? 流石にそれは――』


 ロールヘアーの紫の子――柴田ちゃんが風森ちゃんを止めにかかってくれるが、その前に美音さんもまたその提案を受けてしまったのだ。


 『い、いいいいいですよ……受けて立ちましょう……!』

 『いや、美音さん、止しましょうよ!?』

 『大丈夫です、手はありますから……!』


 ただでさえ体力がないのに、ロッククライミングと波のアトラクションで回復した体力を消耗してしまった美音さんでは勝負にならない。

 そう思って制止したのだが、自信満々にそう言ってきたので見守っていたのだが……。


 「ま、また負けちゃった……」

 「ど、どうれふか……!? わらひにかかれはこんあものれふ……!!」


 タイヤ引き競争でまたしても美音さんは勝利を収めた、途中まで赤沢ちゃんがかなりいい勝負をしていたのだが、追いつかれそうになった辺りで急に彼女のスピードがまた跳ね上がったのだ。

 滝のような汗を流すほどに消耗しきった、ヘロヘロの体力でもそんな芸当ができる手段はただ一つ――。


 「『身体強化』……お、大人げない……」


 仮にも女子中学生相手に魔術まで使って本気になり過ぎである、一体何が美音さんをあそこまで駆り立てているのだろうか?

 ……いや、今まで殆ど俺以外の誰かと関わっている姿を見た事ないし、集団の中だと案外ああというか、負けず嫌いな人なのかも?


 「特訓の話はどこに行っちゃったのかしら……」


 と、美音さんの新たな一面について思考を巡らせていると、俺の横で目を丸くして呆然としている宙銀さんに目が行く。

 そうだ、たしか赤沢ちゃんのアドバイスを頼まれていたんだっけ……そろそろ本懐を果たさねば。


 「美音さーん! そろそろ赤沢ちゃんの特訓に移りませんかー!?」

 「……そ、そうれふね……ここまれにひまふか……」


 次の競技を何にしようかとワイワイ話し合っていた彼女たちから、美音さんがいの一番に反応してお開きとなる。

 強がってはいたが本当に限界だったんだろう、すぐさま食いついてきた。

 こうして、突発的に勃発した美音さんと彼女達の競い合いは一旦の落ち着きを見せたのだった。

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