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第27話「致命的な失言」

 『クエエエ!』


 俺は改めて目の前で足を上げて鳴き声を発する目の前の鳥を見る、最初はいつものボガスカンかと思ったが、どうも様子がおかしい。

 まず、動物にダークエナジーでも注入したにしてはあの鞭女はもちろん、蛇男さえも近くにいる気配がないのだ。

 加えて、ボガスカン化して狂暴になった動物たちは皆大型化して見た目が変わるという変化こそ起こるが、全体的なシルエットというか、輪郭は元の生物の形から大きく逸脱することは無い。

 しかし、目の前の鳥には通常の鳥には見られない特徴があった――


 「……4つ足」


 そう、鳥類の足は基本的に2本、だが俺の目の前にいるこの影は確かに四肢を地に付けて敵意を向けて来る。

 纏うエネルギーの特徴からワルジャーンの手の者であることは明らかだが、こいつは他のボガスカンとは明らかに違う――もしや、最初の魔人と同じ純エネルギー体のボガスカンか。

 もしそうであるならば、銀の短剣が手元にない今の状態では勝てないかもしれない。


 『ガアアア!!』

 「っ!」


 そんな俺の不安を他所に奴は突撃を開始し、戦いの火蓋が切られた。

 奴の突撃は一瞬で俺の目の前に迫るほどのスピードを持っていたものの、見切れない程ではなく、加えて途中の木が邪魔して奴の勢いを削いでいたため俺は真横に身を投げ出す事でその攻撃を回避した。


 「くっ!?」


 しかし、躱したはずの身体に幾多もの鋭い衝撃が走り、強化しているはずのコートの表面に切り傷が生まれる。

 受け身を取って着地しつつ相手を観察すると、奴の周りには小さなつむじ風が渦巻いており、巻き込んだ砂や土を細かく刻んでいた。

 恐らく奴は突撃の際にあのミキサーみたいな風を飛ばして身体の幅以上の範囲を攻撃するに違いない。


 『グェェエエ!』

 「!?」


 そう考えていた直後、奴はその翼を大きく広げ、木に当たるのもお構いなしに何度も羽ばたいた。

 嫌な予感がした俺は咄嗟に近場の木に身を隠すと、さっきまで立っていた場所の地面が捲り上がり、次に土塊が粉々に解体されていった。

 解体されて煙になった土が辺りに充満し、周辺に広がっていく、顔をくまなく覆うペストマスクだから平気なものの、もしこれがロクに粉塵対策も出来ていない状況だったらと思うとぞっとする。


 「奴め、風を飛ばすこともできるのか……」

 『グアアアア!!』


 しかし、どうやら奴の知能はそこまで高くはないらしく、さっきの攻撃でやたらめったら土煙を煙幕のようにばら撒いたせいで視界が利いていないらしく、また手当たり次第に風を飛ばして俺を仕留めようとしているみたいだ。


 「瓶は……残り3個」


 あの風は厄介だが、目が利かないならやりようはある、俺は懐にある黒石の粉末瓶の数を確認し、音を立てないように慎重に奴に近づいていく。


 「……………『暗視』」


 枝を避け、なるべく体と地面を近づけて僅かな布擦れの音さえも抑制していく、そうしてミミズのように這っていると、やがて煙の中でも奴のシルエットを視認できるほど接近する事が出来た。

 そこでより詳細な状況を確認しようと瓶の一つを取り出してマスクのレンズに黒石の粉末を塗りたくり、『暗視』の魔術を唱える。

 レンズに付着した黒い粉が消滅し、魔術が無事発動したことを確認するが、『暗視』はあくまで暗闇の中での視界を確保する魔術、土煙を見通す効果は無い。


 「……フンッ!」


 そこで俺は空になった瓶を奴のいるであろう方向に投擲する、地面に落ちた瓶はちょうど木の根にでもぶつかったのかぱりんと派手な音を立てて砕け散った。


 『グェェエエ!!』


 その音に反応した奴は再び羽ばたいて自分の周りの風を手当たり次第にその場所に飛ばしていく。

 土煙の流れから奴の周りに展開していた風が無くなっていくのを見て、今が好機だと俺は立ち上がって一気に近づいていくと、今度は中身の入った瓶を見えてきた奴の頭頂部より少し高い場所まで投げ、投擲した羽根でその中身を破壊して土煙の中に黒い粉末を混ぜていく。


 「『黒煙』!」

 『クエッ!?』


 そして俺が呪文を唱えると薄く混じっていた粉末はその濃さを増していき、見る見るうちに膨れ上がって俺と奴を覆い隠していく。

 俺は『暗視』の効果で今度は視界がハッキリと晴れていくように奴を視認できるが、その視界の中の奴はやはり暗闇で目が見えていないらしく、辺りを見回す仕草で状況を把握しようとしていた。


 「ッ!」

 『グァア!?』


 この機会を逃さず俺はすかさず一閃、剣を奴の左後ろ足に振り下ろすと一瞬の抵抗の後、ぶつりと奴の足が胴体と泣き別れし、消滅していく。

 どうやら身体の硬さはそれほどでもないようだ、やはり元が単なるエネルギーである以上、何かしらを依代としないと大した強度を保てないらしい。

 ――しかし、それは言い換えれば急所となる箇所が存在せず、何かしらの決定打が無いと止めを刺せないタイプでもある。


 『グエッ!』

 「おっと」


 攻撃されたことで俺の位置を大雑把に掴んだ奴が前足の爪を振りかぶって反撃してきた。

 それを半ステップで躱すと、次に剣を上に掲げて大ぶりの振り下ろしを奴の頭蓋に叩き込む、剣は奴の頭から首元まで進んでいき、奴の頭から首はチーズのように裂けてしまった。


 『グ、ガッ……グガガッ!』


 普通の生き物なら即死だが、奴は血の代わりにエネルギーを吹き出させながらも生きており、その傷口を再生させ始めていた。

 ……首から治しているな、なるほど。


 「フッ――!!」

 『ギィッ!? ガッ! ガァァ!?』


 今度は反撃も許さない程の連撃で奴の身体にお返しとばかりに切り傷を刻んでいく、俺は剣を通す時の抵抗感や付いた傷の深さ、傷の治りの速さなどを逐一観察し、記憶していった。


 「そこか……!」


 そして、奴の身体の一番再生の速い箇所――翼の付け根同士の、ちょうど真ん中に奴の身体を形作る何かがあると踏み、それを破壊するべく剣を握る手に力を籠め、跳躍する。


 「はぁぁーーーっ!!」

 「何っ!?」


 しかし、ここで俺にとって予想外の出来事が起こる。

 女性の声が辺りに響いたかと思うと、突如として俺と奴を取り囲んでいた暗闇が吹き飛ばされてしまったのだ。


 『! グオオオ!!』

 「ぐはっ!」


 暗闇も土煙も晴れた視界で、奴は正面から飛びかかっていた俺に向かってその嘴を突き出してくる。

 空中で両手に剣を握っていた俺はガードする事も出来ずにその一撃を腹で受け止め、吹き飛ばされ地面を転がっていく。


 「……あなた、コルウス!? どうしてここにいるの!?」

 「奇遇だな……同じことを、思っていたぞ……ゴホッ」


 痛む腹を抑えながら身体を起こすと、奴を挟んだ正面に俺に驚いた表情を見せるエスキュート・シルバーがそこにいた。

 大方、このワルジャーンの怪物の気配を感じてここにやって来たのだろうが……些かタイミングが悪すぎる。


 「っ、いえ、今はそんなことどうでもいいわ、あなた、ここでだれか見なかった!?」


 そんな風に自分の運の無さを嘆いていると、シルバーはどこか焦った様子でそんな事を尋ねて来る。

 ……田中の事だろうか、どうやら彼女はこっちの事情を知っているみたいだが、すれ違ってしまったようだ。

 しかし、今はあの影鳥野郎がこっちを見ているのだ、勘弁して欲しい。


 「後にしてくれ!」

 「答えてっ!」


 えっ? これでも聞くってマジ? 今まさに突進されて――いってぇ! あいつなんか風のコントロールが上手くなってないか!? 最初に躱した時よりめっちゃつむじ風を叩きつけられているんだけど!?

 突風に再び地面を転がされながらも、俺は途中で身を起こして地面に足をつけザリザリと地面を削りながら減速した。

 ちょうどシルバーの横で勢いが止まると、膝を伸ばして彼女の隣で剣を構える。


 「子供が一人逃げた! それ以上は知らん!」

 「もう一人高校生がいたはずよ、どこ!?」

 「何故俺に聞く!?」

 「あの人はあの子を逃がすためにあいつに立ち向かったもの! あいつの近くにいたはずよ!」


 それ俺のことなんだけど!? 今まさに立ち向かってるんだけど!?

 と言いたいが、まさか正体を晒すわけにもいかず、どうしたものかと逡巡する。

 しかし、強敵を目の前にして上手い言い訳なんて咄嗟に思い浮かぶわけもなく、早く戦闘に集中したいのとできれば協力して欲しい一心で彼女の問いかけをさっさと否定する事にした。


 「ええい、知らんものは知らん! そんな男の事など!」

 「……どうして男の人だって知ってるの?」


 俺の返答にシルバーは何故か怪訝な顔をして俺に振り向いてくる。

 どうしても何も、彼女が言っている高校生っていうのは、この俺『処沢刑二』の事で――


 「………………あっ」


 そこまで考えたところで、俺はようやく自らの失言に気が付いた。

【火炎瓶】


 可燃性の液体を詰めた瓶に、その中身まで浸っている布を瓶の外まで伸ばしたもの。

 魔術協会が販売しているものは物理的肉体を持たないものにも対抗できるように簡易的な魔術付与を行っている。


 人々は自らが罪人に石を投げるだけでは飽き足らず、その身を炎で包んでしまおうと考えた。

 あるいは、罪という穢れを浄化せんという考えだろうか。

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