第24話「思わぬ出会い」
「ええ~~!? ひとみ先輩いなくなっちゃうんですか~~!?」
「落ち着いてちょうだい、明日から2日間だけだから……」
わたしたち6人以外誰もいない山の中、わたしの声が山彦になって帰って来る程の大きさで響く。
ひとみ先輩は申し訳なさそうな顔をしつつ、わたしの肩にそっと手を置いた。
ある日の放課後、みもり先輩も加わってついに5人のエスキュートが揃った時、ひとみ先輩はわたしたちに特訓をするように言ってきた。
どうやらエスキュラーの登場はひとみ先輩にとっても予想外の出来事だったらしく、急遽わたしたちも強くなる必要があるみたい。
それで、今日がその特訓をする日のハズだったんだけど……。
「その、ごめんなさい……ここの高校の制度を受けるためにも、行かなければならないの」
「ひとみ先輩の高校の制度と言えば……『特例部活制度』ですね?」
「……『トクレーブカツセード』? なんだそれ?」
ひとみ先輩の言葉に真っ先に反応したのはみもり先輩で、やよいちゃんが聞き慣れない言葉にきょとんとした顔でみもり先輩に尋ねる。
みもり先輩は一度わたしたちを見渡した後にお隣の高校の制度について話してくれた。
「授業の免除って……すごいことだよね?」
「ほわぁ~……ワタシもお菓子作りに専念できるかしら~……!」
制度の内容を一通り聞き終わったすいなちゃんが目を見開いて驚き、続いてのぞみ先輩が目をキラキラさせてその制度について思いを馳せていた。
……そういえば、ひとみ先輩って高校でどんな風に過ごしてるんだろう?
「でも、ひとみ先輩……部活の方は大丈夫なんですか? 条件をクリアできても、部活に顔を出せないなら問題になるのでは……」
「あっ! そうですよ! 部活はちゃんとしないと!」
みもり先輩もひとみ先輩の高校生活に思うところがあったのか、そんな事を聞き、ハッとした様子でやよいちゃんもひとみ先輩に強い口調で言及する。
……確かに、成績が良くて部活の方で結果が出ていても、エスキュート活動に気を取られていたら、何も知らない人からしたらいい気分しないかも。
すいなちゃんもうんうんと頷く中、ひとみ先輩は髪をかき上げる仕草をすると、ちょっと得意げな顔でみもり先輩を見た。
「それなら大丈夫よ、入っているだけで顔を出さなくてもいい部活があったから」
「出さなくていいって……制度を受けられる部活でそんな都合のいい所があるのですか?」
あっさりとそんな事を言うひとみ先輩に対して、みもり先輩は信じられないような顔で驚くと改めてひとみ先輩に問いかける。
ひとみ先輩はバッグから沢山のプリントが入った少しボロボロのファイルを取り出して、中のプリントをいくつかかき分けると、その内の一枚を引き抜いた。
「――ええ、『オカルト研究部』っていうの」
そう言ってひとみ先輩はわたしたちの前にプリントを広げた、どこかおどろおどろしいイラストの下には活動時間や内容が書かれていた。
そして備考欄には確かに『忙しい、来たくない人は来られなくてもOK! あなただけの青春を思う存分楽しもう!』と書いてあった。
☽~~~☽
「なー! あっち行こうぜー!」
「おれ、つまんなーい! かえりたーい!」
「えっと、その、言う事を聞いて……」
安請け合いするべきではなかったかもしれない。
元気いっぱいにフリーダムな事をやらかしだす子供たちを前に、俺は早くも後悔し始めていた。
子供だと言っても、小学5年生にもなればある程度の聞き分けは持っているだろうという俺の見通しが甘かったのだ。
「う、うう……妖精たちはみんな素直でいい子たちだったのね……」
それに加え、もう一人の引率生はこの前の白髪の後輩だったのだが、ショッピングモールの時の毅然とした態度はどこへやら、何やらブツブツ言いながらおどおどとした態度でまるで頼りにならない……いかんいかん、今の俺は他責思考に陥っている。
こういう時こそ転生者として、大人として、子供たちをきっちり導いて見本となる人間を示さなくてはいけない……頑張れ、処沢刑二!
「はいはーい! 皆さん注目してくださーい!」
なるべく威圧感を感じさせず、しかし確かに聞こえるように高さをいつも以上に上げて声を張り上げ、笑顔で手を叩いて一旦子供たちの意識を俺に向けさせる。
全員が注目したのを見計らって手を降ろすと、そのままにこやかな笑顔を維持しながら先ずは親しみを持ってもらうために自己紹介を始める、いう事を聞いてもらうなら仲良くなるのが一番だ。
「みなさん、おはようございます、僕は今回のですね、えー、林間学校で、ですね、みなさんの引率……案内をさせていただきます、処沢刑二って言います! よろしくお願いしまーす!」
喋りながら喋る内容を考えていたので、途中で噛んだり言い方を変えたりしたが、やけくそ気味に押し切って頭を下げた。
すると子供たちの大半は俺の挨拶の後に従って『よろしくお願いします』と頭を下げてくれる……よしよし、ちゃんという事聞いてくれそうだな。
下げていなかったりそっぽ向いてる奴は……あの男子たちだな、警戒リストに入れておこう。
「え、えっと……えっと……」
後輩ちゃんは未だにオロオロした様子で俺と子供たちを交互に見ている……ふむ、何とか彼らと話そうという気はあるようだ、ここはひとつ助け舟を出すか。
「そして、お隣のですね、えー、素敵なお姉さんもですね、みなさんの案内をしてくださいます! ……では、自己紹介をお願いします!」
「えっ!? えっと、私は、宙銀ひとみって言います……よ、よろしく」
突然水を向けられた後輩ちゃんは一瞬驚いたようにこっちを見たが、俺が目で子供たちの方へと促すと彼女も察してくれたのか、子供たちに向き合って何とか自己紹介を終える。
この辺では見ない美少女の挨拶だからか、今度はさっき俺の挨拶に反応しなかった奴らも含めて男子連中が軒並みぽーっとした目で後輩ちゃんを見つめていた――わかるよ、その気持ち。
とりあえず先生が来るまで待機するようにと子供たちを整列させて座らせると、俺たちは一旦その場から離れた。
……ていうかこの娘、宙銀ひとみって名前なのか、今日の同行者なのに今知ったな……
「……その、ありがとうございます」
そんな事を考えていると、宙銀さんが頭を寄せてこそっとそんな事を言ってきた。
律儀に礼を言ってきた宙銀さんに俺は少々舞い上がり、今度は心の底からの笑顔を浮かべて格好をつけた。
「いえいえ、後輩を助けるのも先輩の務めなんで……改めまして、2年の処沢刑二です」
「私は、1年の宙銀ひとみです……あの、ショッピングモールの時の人ですよね? 私が後輩だって、何故?」
宙銀さんはそう言って不思議そうな顔で俺を見る。
……今年入って来た後輩の中で一番カワイイ人だったから、なんて言えないよな……いや、言っていいか? 確か同級生の男子生徒の間でもちょっと噂になっていたくらいだし、言っちゃっても別にいいか。
「今年の後輩で、とっても可愛い女子がいるってウチの学年で持ちきりでしてね」
「そ、そうですか……」
……あ、ヤバイ、この反応はダメなやつだ。
明らかに引いている様子の宙銀さんに対し、俺は何かいい言い訳が無いか必死に頭を回した。
最悪、俺だけの印象でいい! 何か心証を回復するための言い訳を……そうだ!
「……ま、まぁ? 俺は普段『オカルト研究部』に籠りっきりなんで、あなたが噂の後輩だと初めて知ったんですけどね!」
「『オカルト研究部』?」
咄嗟に口をついて出た言い訳に、宙銀さんはきょとんとした顔で俺を見る。
あれ、何かまずい事言ったっけ? と思考を巡らせていると、宙銀さんはずずいと顔面をこちらに寄せてきて、俺は思わず寄ってきた分後ろに仰け反った。
「あなたも『オカルト研究部』なんですか?」
「え? ええそうで……『も』?」
「私も、『オカルト研究部』に所属させてもらってます……尤も、名前だけで申し訳ないのですが」
「あ、ええ、いいえ……?」
そう言って後ろに下がってペコリと頭を下げる宙銀さんに対して俺は何だか得心がいったような、そうでないような微妙な気分で同じく頭を下げた。
まさか噂の後輩が、学校内での知名度など皆無に等しいウチの部活に入部していたとは、奇妙な縁もあったものである。
「……すみません、顔も出してなかったのに、馴れ馴れしかったですよね」
「えっ!? ああ、いえいえ! 来なくても大丈夫って言ったのは俺たちですし、気にしないでください!」
というか、来られたらそれはそれで困る。
魔術の触媒については誤魔化しがきくものの、また何かの拍子で魔術が勝手に発動したとなれば今度こそ俺と美音さんに処罰が下りかねない。
まあ、部室には放課後なら常に彼女がいるしその心配は無いが、その彼女が極端な人見知りだから部室に知らん人が来るとストレスを抱えるのは確実だ――普通の来客対応ならできるのだが、部員が長期間いるとなると……うん、不安だ! いろいろと!
「あーっと……そうだ! よかったら、オカ研の話とか、聞きます? 歴史の授業っぽくて面白くないかもしれませんけど……」
「! いえ、歴史とか、文化とか、興味があるので……お願いします」
花の女子高生が興味を持たなさそうな部活の表向きの活動内容の話を振ることで宙銀さんの興味を遠ざけようとしたが、どうやら彼女は立派な歴史マニアだったらしく、俺の企みは裏目に出てしまうのだった。
この後はちょいちょい魔術師について口を滑らしかけながらも、美音さんから聞かされた研究レポートの受け売りを宙銀さんに話した。
幸い、すぐに先生が到着したため話題が尽きる事は無かったが……俺もレポートの内容を読んでカバーストーリーをしっかり覚えておく必要があるのかもしれない。
【水晶ランタン】
魔術師に支給される道具の一つ
魔力を注入するとそれに応じて発光する性質を持つ水晶をランタンとして用いるもの。
一度魔力を注入すると、消費しきるまで光が消えないので遮光対策は十分に行う事。
暗闇に行く道を照らすこの道具は多くの人に勇気を与えた。
たとえそれが気休めに過ぎないとしても。




