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第02話「魔術師の戦い」

 くぅ~っ! 我ながらカッコよく決まった!

 やっぱりクール路線で行くのは正解だったな! 最初は某セーラーの助っ人みたいな紳士然とした態度で現れようと思ってわざわざ羽根を投げて派手に出て来たが、途中で変えたのだ。


 よくよく考えたらあんなキザなセリフがスラスラ出てくる程俺の語彙力は高くないし、それにこのペストマスクはどっちかっていうとミステリアスな魅力が詰まっている。

 ベラベラ喋ってしまったら興醒めだろう、ていうか迂闊に何か喋れる立場でもないしな、俺。


 悩んでる間に銀髪ちゃんの問いかけを無視ってしまったのは申し訳ないが、これもクールキャラの一環って事にしよう。


 『ええい、生意気なやつめ! やれいボガスカン! ヤツを引き裂け!』


 変な蛇男の指令に合わせて魔人が炎を吹き出す真っ赤な爪をこちらに振り下ろしてくる。

 しかし先程の戦いをこっそりと見ていた俺は焦らずに左手の中に隠し持っていた枝をへし折った。

 それにより、術を解除された物質――ヒーターシールドが俺の左腕に展開され、魔人の爪を受け止めた。


 『プイっ!? いつの間に!?』

 「隠し持てる場所なんてなかったハズ……!?」


 長いタレ耳の妖精みたいな生き物とズタボロのピンク少女が驚愕に目を見開くが、もちろんこれにも仕掛けがある。


 そう、事の発端は作った装備をどう外に持ち運ぶかだった、まさか妖しい薬やら武器をそのまま待つわけにもいかないし。

 最初は召喚術を使おうとしたが……まあ手間とか燃費とかの理由で無理だったから予め小さい枝なんかに変化させて使う時に元に戻すようにしている。


 「いや、それよりも……!」

 『バカなっ!? たかが人間の、たかが薄い金属の板で我がボガスカンを!?』


 受け止められている理由に関してはもっと簡単だ、この盾は水の加護を得られるように付与魔術(エンチャント)を掛けてもらってある。

 相性有利に持ち込めれば魔術で強化しただけの人間でも魔人の通常攻撃程度なら難なく……と、言うには押されているが、まあ受けられるというわけだ。


 ……でもちょっと腕がジンジンしてきたな、そろそろ流そう。


 「フッ……!」


 一息吐いて、全身の力を一瞬だけ脱力させる。

 そうすることで先程まで俺の抵抗に合わせて腕を押していた魔人のバランスが崩れ、前につんのめる。

 俺はその隙を逃さずすかさず全身に再び力を籠めると、瞬発力に溢れた肉体が腕ごと身体を後ろへと捻らせ魔人の転倒を決定づけた。


 「っ!!」


 回転の勢いのままに腕を脇にやってホルスターに差してあるナイフを引き抜く。

 そして倒れ込んでいる魔人が起き上がる前に全体重を込め、倒れ込むようにその首筋へとナイフを突き立てた。

 急所に深々と突き刺さったナイフに魔人は苦悶の声を上げるも、その腕を振るって俺を思いっきり弾き飛ばす。


 後方へ吹き飛ばされつつも受け身を取って立ち上がった俺が目にしたのは、ナイフを抜き捨てて傷口を再生させる魔人の姿だった。


 『クククク……シャーッハッハッハ!! 残念でしたね! このボガスカンはあくまでダークエナジーだけで生まれたもの! 人間の急所なんて通じないのでス!』


 蛇男は勝ち誇ったようにばか笑いしてこちらを見下している、しかし俺は焦らない……というよりも、予想通りだった。

 なんせ俺はどこまで行っても『人間』、様々な小細工を弄しても、いい装備がない限りそもそも生物としての出力量が違う相手に一撃で有効打を与えられるかは難しい。

 といか無理だろう、だって今さっきまで戦っていた女の子二人、パワー面なら普通に俺より強いし。


 ……でもまあ、せっかく頑張って用意してもらったあの短剣だって結構な品なのに、全く駄目ってのは悔しいかな。


 「そんな……」

 「私の剣が通じない以上、ただ闇雲に戦っても無駄だわ……!」


 少女たちは悔し気に拳を握りしめ、銀髪の少女に至っては庇っている自分の腕を憎々し気に見下ろす。

 きっとこの場で戦えない自分に苛立っているのだろう、健気で良い子である。


 しかし、俺は転生者、肉体こそ大差ないが、年長者として格好悪いところは見せられない。

 そう、奴に勝つための算段なら既についている……というより、この方法で倒さないと気が済まないだけなのだけれど。


 『今度こそ! バラバラにしてやるのでス! ボガスカン!』


 蛇男が再び命じると、魔人は咆哮を上げて襲い掛かって来る。

 俺は奴の動きを十分観測できるよう距離を取りながら戦い、時にはステップで、時にはローリングで、そして時には再び盾で攻撃を受けて致命傷を避けていく。

 そして中々攻撃を当てられない事に怒りを覚えたのだろう、魔人が俺ごと地形を吹き飛ばそうと大口を開けて炎を吸収し始める。


 『あれは!? フラムをやっつけた攻撃っプイ!?』

 「逃げて!」


 警告が飛んできたが俺は構わず突っ込む、何を隠そう大技を撃とうとするこの瞬間を待っていたのだから。

 走り出している途中で捨てられていたナイフを蹴り上げて柄を空中で掴み、そのまま魔人の口へ投擲した。

 寸分違わず魔人の口に放り込まれたナイフは、そのままじゅっと音を立てて溶けていく……ああ、せっかくの贈り物が……。


 『シャーッハッハッハ! 無駄、無駄! チャージ中のボガスカンの口内は地球の金属程度、あっという間に溶かスでスよぉ!』

 「……だろうな」


 このまま無視して攻撃してもいいが、何時までもあの蛇男にいい気にさせるのも癪なので一言だけそう言い返した。

 俺の言葉を聞いた蛇男は当然、言葉の意味を考えようと首を傾げるが、その前に俺の盾越しのアッパーカットが魔人の口を無理やり閉じるのが先だった。


 『あッ!?』

 「えっ!?」

 「なっ!?」

 『プイっ!?』


 この場にいた俺以外の全員の口から驚愕の声が漏れる。

 発射直前に口という発射口を塞がれた魔人のエネルギーは当然、体内を駆け巡り、そしてエネルギーに耐え切れなくなった身体が爆発した。


 「クッ!」


 そしてその爆風の近くにいた俺の身体も当然吹き飛ばされ、限界を迎えた盾が真っ二つに割れてその破片が俺と一緒に地面を転がった。

 流石にここまで強烈な吹き飛ばしでは受け身も取ることが出来ず、全身に鈍痛が走るのを感じながら何とか身体を起こす。


 『……っス、素晴らしいぃぃぃ!! 素晴らしいでスよ、我がボガスカン!!』


 そこには上半身が丸ごと焦げても尚、炎を取り込み身体の再生を行う魔人の姿、蛇男も流石にこの復活は予想外だったのか狂喜乱舞といった様子で魔人の周りをくるくると回った。


 「あれだけしても、倒れないなんて……」

 「どうすればいいの……?」

 『プイィ……』


 少女と妖精は最早意気消沈といった様子で俯いており、蛇男はそんな少女たちを敵とすら見なくなったのか気にした様子もない。

 再生した魔人をこちらへと歩ませている、ゆっくり絶望を実感でもさせるつもりなのだろうか?


 『終わりでス、少々手こずりましたが……フンッ、所詮人間でス』

 「確かに終わりだ……」


 蛇男の投げた言葉には一部同意できる点があったので頷き返しておく。

 この戦いにおいて最早俺が魔人に打つ手はない、それは事実だ、もっとも――


 「()()()()()()()


 打つ必要が無くなっただけなのだが。


 『何を……ッ!?』


 蛇男が何か言いかけた途端、魔人は身体を抑えて苦しみだす。

 体からは蒸気が上がり、皮膚が喉を中心に焼け爛れ始め、ドロリと液状化して地面に溶け落ちた皮膚があった場所からは、真っ黒な筋繊維が見えた。

 ……こうして見ると単なるエネルギー体の割には結構凝った肉体構造である。


 「()の味は初めてか?」


 ごちゃごちゃと説明するのはキャラじゃないのでこれだけしか言わない、もっとも異世界から来たっぽいこいつらに伝わるかは微妙だが。

 そう、魔人に溶かされたナイフは銀製――魔物とか悪魔退治に用いられる事で有名なあの銀である。

 それもただの銀じゃない、毒物で有名な水銀で呪いをかけた事で悪魔とかに対する毒性がクッソ高い特別製だ。


 この魔人はどうやら飛び散った自分の炎を回収して再生するみたいなので、それに溶かした銀を混ぜて毒殺のような現象を引き起こそうとしたが、まさかここまで上手くいくとは。

 まあ、思い入れのある逸品を溶かしたのだ、これぐらいの効果がないと困る。


 『ボガスカン!? どうした、ボガスカン!?』


 蛇男は必死に魔人に呼びかけるが、こうなった以上この魔人に助かる術はない。

 魔人は最後に焼け爛れた喉で微かな声を上げてこちらに手を伸ばす、そのまま放っておいても全身が溶けて死ぬだろうが、念入りにトドメは刺しておこう。


 「じゃあな」


 魔人の爪を躱しながら物質強化した手袋で体内に腕を突っ込む、溶けかけて柔らかくなっていた身体に俺の腕はあっさりと入り、適当な内臓を掴んで引きずり出すと同時に魔人の全身が液状化した。


 掴んでいる腸らしきモツ含め、一部の内臓はまだ残っているらしく、目玉がころころと地面を転がっていくが純エネルギー体ならすぐに消滅するだろう……あ、爪は残ってる! ラッキー! 回収しよっと!


 『う、ぐぐぐぐ……!! お、おのれ! おのれ!!』


 持ってた内臓をポイ捨てし、いそいそと爪を回収していると、頭上から蛇男が忌々し気にこちらを睨んでる。

 ……さて、次はこいつだと言いたいところだがさっきの戦いで割と全力出して消耗してるし、全身痛いし疲れているので勝てるかは不安である、しかも飛んでるし。


 『コルウス! その名前、覚えましたよ!』


 などと考えていると蛇男は何やら捨て台詞を吐いて何処かへと飛び去ってしまった。

 ホッと胸を撫で下ろす反面、今後あんな魔人を送られ続けたら流石にまずいかなと対策を考えなければいけない事に頭が痛くなってくる。


 だが、今は他にやるべきことがあると俺は少女たちの方へ向き直る、彼女らにも使命があるかもしれないが、それでもあんな奴相手に戦ってくれたのだ。

 魔術師の事なんか知る由もないだろうが、ここは一言お礼を――あれ、なんか震えてね?


 「ひっ……!」

 「こ、来ないでください……!」

 『プ、プイィ~!』


 さっきまで俺を応援してくれてたはずの少女たちは青ざめた顔で必死に後ずさりしながら俺と距離を置こうとしているし、妖精は目の前で手を広げてまるで俺から彼女たちを守ろうとするかのように睨んでくる。


 え、なんで? ――と考えたところで自分が差し出そうとしていた手が目に入ってすぐに答えが分かった。

 さっき内臓引きずり出してトドメを刺した際に全身に返り血を浴びまくってしまったのだ。

 その内蒸発して無くなる血とはいえ、確かに今の俺の格好は汚いの一言に尽きるだろう。


 『プ?』


 次に会う時は身綺麗にしなければと反省した俺は、背を向けてこの場を立ち去る事にする。

 せめて去り際はこう、背中で語る漢みたいな堂々と前を向いて――あ、目玉踏み潰しちゃった。


 「『くらましの影』」


 最後まで締まらない恥ずかしさを誤魔化すべく、俺は自分を羽根で隠すとそのまま逃走して彼女たちの前から姿をくらました。

TIPS


『くらましの影』

詠唱:呪文名のみ

触媒:カラスの羽根

条件:なし

説明:影の魔術の一つ、使用したカラスの羽根を一時的に魔力で大量に複製する魔術、身を隠す以外にも羽で鋭い破片を塞ぎ、落下衝撃を和らげる効果もあり応用性が高い。

この術で暗殺・諜報活動を成功させ続けた魔術師たちによって、カラスは不吉な動物という位置づけを確かなものにした。


刑二からのコメント

「俺の十八番で、最初に覚えた魔術だな! 色々便利だし、触媒も用意しやすいし、消費魔力がほぼ無い、無いと困る魔術だ!」

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