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第15話「恐ろしきコルウス」

 さて、格好つけた以上まずは隙を作ってやらねばなるまい、俺は今まで一本ずつ投げていた羽根を指の間に挟み、複数同時に投げる方式に切り替える。

 これなら威力とスピードこそ落ちるものの、そう簡単に避けられるものでもあるまい。


 「そんな羽根っ! はあああ!」


 しかし、鞭女は両手の鞭を振るって自分と乗っているカラスに飛来する分の羽根だけを器用に撃ち落としていく。

 恐らくスピードを落とした影響で今度は完全に見切って撃ち落とす選択肢が取れてしまったのだ。

 そうして俺は『奴が対応できる羽根のスピード』を覚えつつ、今度は拡散投げと速度重視の一投を織り交ぜていく。


 「鬱陶しいわね!」

 「痛たたた!? アタシにも当たってるって!?」

 「ひぃ~ん! やめてください~!」


 時に範囲を絞って数を密集させ、時に回避先を予想して投げる間隔を遅らせたりしてあの女がどういう時、どんな行動をとるのかをなるべく覚えていく。

 ……一方、下で捕まっているエスキュート二人に羽根の流れ弾がガスガス当たっているが、刺さっていないし大した傷にはならないだろう、必要なことだし少し我慢してほしい。


 「あわわわわ……」

 「……あいつに集中しろ」


 隣のオーが衣装に負けないくらいに青ざめた顔で俺を見ているが、この作戦の要は君なのだ。

 俺じゃなくてあの鞭女の方を向いていて欲しい……いや、お仲間に羽根が当たりまくってるのはちょっと申し訳ないが、流石によそ向いている奴にも分かるような合図ではない。

 そんな思いが通用したのか、彼女はがくがくと首を縦に振ると、そのでかいGペンを構えて上を見上げた。


 「たああっ!」

 「あんたもっ、しつこいのよ!」


 そしてチャンスは来た、俺の投げた羽根の内、鞭女に弾かれて宙を舞っていた羽根の空間にフラムの攻撃を避けた奴が飛び込んできたのだ。

 俺はすぐさまその宙域の羽根全てに意識を集中させ、一番使い慣れた呪文の名を唱える。


 「『くらましの影』」

 「なっ!?」


 俺の呪文によって羽根の魔力が起動し、周囲に無数の羽根の幻影が舞い散って鞭女の姿を覆い隠す。

 当然、そうなってしまっては奴は周囲の状況など確認しようも無いだろう――必殺技を撃つには絶好の機会だ。


 「……今だ」

 「っ! 『エスキュート・オー・ウェーブ』!」


 俺の言葉を受け、隣で必殺技を既にチャージしていたオーの必殺技であろう虹の波動が空いっぱいに広がっていく。

 こうしてエスキュートの必殺技を見るのは初めてだが……規模も威力も規格外だ、普通の魔術師が1か月くらい金と手間を惜しまず準備してようやく一発撃てるという『戦術級魔術』に匹敵するんじゃないか?


 エスキュート一人ひとりがこの規模の技を持っているとすると少しゾッとする、まあ本人が浄化特化型なんて言っていたからこそ撃てる必殺技なのかもしれないが。


 「……や、やりましたか?」


 そんな事を考えてると隣のオーがそんな事を口走る。

 ……そのセリフが出る時って大抵上手く行ってないが、さて現実は――


 「――ふぅ、流石に今のはちょーっと焦ったかしら」

 「そ、そんなっ!?」


 ああ、うん……駄目だったらしい。

 光が晴れた中から出て来たのは、少し体から煙の出ているカラスと、多少服が汚れた程度でピンピンしている鞭女の姿だった。

 必殺技が通じないのは初めてだったのか、少し奥でフラムは目を見開いて悠々と浮かぶ奴を見上げている。


 「オーッホッホッホ! 仲間を気にし過ぎたみたいね! 下の方ががら空きだったわ!」

 「う、うぅ……」


 どうやらさっきの必殺技、仲間を巻き込まないギリギリの範囲になるように放ったらしい。

 エスキュート同士でフレンドリーファイアは起こらない、なんて都合のいいものではなかったようだ……しかし、あの鞭女も視界が防がれている中よくそんな事に気づけたものだ。

 ボガスカンを作る立場ともなると、やはり中々優秀らしい、カラスが少しボロボロになっている事から完全に回避こそできなかったみたいだが、本人は無事だ。


 ――ただし、これで終わりなら、という前提ではあるが。


 「『くらましの影』」

 「えっ!?」


 もう一度、俺は羽根の幻影を大量に放出する、今度は下のエスキュート二人に引っかかった羽根目掛けて。

 俺の十八番であるこの魔術は、落下速度現象や衝撃軽減、他にも爆風や飛んでくる小石やガラス片に対する防御にも使える――つまり、羽根には幻影なれど、質量があるのだ。

 そんな物をエスキュートを掴んでいる爪の中で急激に増やしまくるとどうなるか?


 「あっ!?」

 「きゃあ~!」

 「うわっ!」


 当然、羽根に押しのけられて掴めるサイズではなくなる、加えて間に滑らかな羽毛の付いた羽根を挟むものだから二人の身体はするりと抜ける。

 そして、後に残された大量の羽根――必殺技を避けるために高度を下げた今なら、俺の転移魔術であそこに飛ぶことができる。


 「『引き寄せ』」


 その呪文を唱えた俺の身体は、次の瞬間にはカラスの足を掴んでぶら下がっていた。

 そして誰かが反応する前に、俺は剣をカラスの胴体に突き刺し、そのまま根元まで刺し込んで貫通させる。


 「なっ!?」

 「ハァッ!」


 上で鞭女の驚愕の声が聞こえるが、俺はすぐさま剣を振り下ろし、首元から胴体半ばまでを裂き開いた。

 そこまでされると流石のボガスカンも飛行を維持できなくなったのか、バランスを崩しみるみる高度を下げていく。


 「くっ!? よくもっ!」


 鞭女がそんなセリフを残すと同時、上からの体重のかかり方に変化が生じたのを感じた。

 どうやら墜落前に飛び退いて逃げる算段らしい、しかし当然俺がそんな事を許すはずもない。

 先程貫通させた穴から腕を突っ込むと、ちょうどすぐ傍にあったらしい奴の足を掴んだ。


 「ああっ!?」

 「――逃がさない」


 次に穴を押し広げて俺の上半身を穴から押し出し、ようやく鞭女と距離を詰める事が出来た。

 ……しかし、ダークエナジーとやらは随分とドロドロしてるな、マスクのレンズまで真っ黒になって視界が悪い、転移したせいか『暗視』も途切れてしまっている。

 このまま掴んだ足を頼りに奴を叩くしかなさそうだ。



 ☀~~~☀



 「いったたたた……」

 「ヴェントちゃん、大丈夫!?」

 「うん、なんとか……ありがとっ、フラム」


 わたしは落ちてきたやよいちゃんに駆け寄ると、そのまま手を差し出して彼女を起こす。

 やよいちゃんもまたわたしの手を握り返すと、自分が無事であることをアピールするためか白い歯を見せてニカッと笑った。


 「テーレ、無事?」

 「うう、はい~……」

 「い、いま回復しますね!」


 ちょっと向こうで目を回しているのぞみ先輩はひとみ先輩に肩を貸してもらう事でなんとか立てている状態だった。

 と言っても、すいなちゃんの回復を受ければすぐに元気に歩くことができるだろう。


 「ごめん、ヴェントちゃん、遅れちゃって……」

 「いや、いいんだよ、アタシが突っ走ったのが悪いんだから……そうだ、テーレ先輩にも謝んないと」


 服の汚れをパンパンと叩いたやよいちゃんはのぞみ先輩の元へと歩こうとする、わたしもそれについて行こうとすると後ろの方でドカンと大きな音がした。


 「っ! 構えて!」

 「な、なにっ!?」


 その音の方に振り向いてわたしが驚いていると、すぐさまひとみ先輩が前に出てきて剣を構える。

 その姿を見て私も拳を構え、他のみんなも自分の武器を持ち直して未だ何かを叩きつける音のする土煙の方を見た。


 「……え?」


 そして煙が晴れ、わたしはその音が何なのか見た、見てしまった。


 「がっ! ぎっ!? ぶべっ!!」

 「…………」


 まず、最初の大きな音の正体はあのカラスのボガスカンが壁にぶつかったものだというのが分かった。

 ……壁のヒビの中心、首が折れて、裂けた体からダークエナジーが漏れているボガスカンのからっぽの目が、わたしを見つめ返している。


 「う、うえ……!!」


 すぐ後ろで気分の悪そうなすいなちゃんの声を聞きながら、次に今も鳴り続けている音の方を見る。


 「な、なんだよ、あれっ……!」

 「ひっ……!?」


 音の正体は、コルウスが手に持ったものを思いっきり振り回して、それを地面に叩きつけている音だった。

 そして、のぞみ先輩は息をのんで、やよいちゃんは震えた声でそれを見ていた。


 「…………やっぱり、彼は……!」


 剣を持つ手をカチカチと震わせながらひとみ先輩は目の前の光景に対して苦し気な声を発する。

 しかし、みんながそんな反応をするのも仕方ないだろう、何故ならその光景は――


 「ぐげぇっ!?」

 「危険よ……!!」


 黒いエネルギーを全身に浴びたコルウスが、まるで物でも扱うようにあの鞭の女の人を何度も振り回しては地面に叩きつけていたのだから。

【カラスの羽根】


主に夜や不吉、病に関連する魔術の触媒として用いられる触媒。

協会が育てているカラスから採取したものは十分な硬度を確保しており、投擲武器としても用いることができる。


古来より、黒は闇と関連付けられて忌み嫌われていた。

黒い羽根を持つ生き物が忌避の対象となるのは当然の事だった。

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