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第11話「降りかかる責任」

 最初、魔術師たちはエスキュート関連の事件を軽く見ていた。

 使うパワーこそ強いが、魔術の魔の字も知らなさそうな小娘の集団に、相手はこれまたどこの伝承かも分からない怪物擬き。


 魔術師としての歴が短い俺が相手を倒し続けてしまったのもあって魔術師全般はおろか、退魔師たちからも『そんな大したヤツじゃないんじゃないの?』みたいな扱いだった。

 だからこそ、エスキュートへの干渉が実質俺一人に任せられている状況だったし、協会もエスキュートがその力を悪用しない限り積極的な接触はしない方針を取った。


 「おい、あの触媒どうした!? もう使っちまったか!?」

 「手袋まだ残ってます!」

 「魔導師に回せ! 解析を優先するんだ!」


 しかし、その状況は一夜にして変わった。

 どうやら昨夜俺がすやすやと寝ていた間にワルジャーンとかいう連中、ヤバそうなエネルギーを日本各地にばら撒きやがったらしい。

 幸い日本の一部の海神たちに連絡して急いで封印を行ったため、エネルギーの海外拡散は防いだ。


 しかし、その分この国がより濃い瘴気に包まれたような有様になっている、らしい――実際、俺も今日は今朝から何だか空気が重苦しく感じている。


 「各所への連絡と説明は!?」

 「混乱状態でロクに進んでません! どの窓口もパンクしています!」


 とにかく、この一件でワルジャーンの名前は全国中に広まる事となり俺のいるこの集会所もハチの巣を突いたような大騒動となっている。

 そんな中、俺は誰かと話すでもなく、仕事を手伝う事もなく自分の手に握られたやたらといい材質の紙を広げながら、格式ばった文章を読み込んでいく。


 「……エラい事になった」


 達筆な文字も相まって読み解くのに苦労したが、要約すると『任務としてワルジャーンをぶっ潰せ』である。

 依頼ではなく、協会からの正式な指令なので触媒や必要な情報の閲覧、使用魔術の登録の一時制限解除――魔術師は通常、自分の使う魔術を申告しなければならない、ただし大抵の魔術師は秘匿を是とする風潮があるので基本的に人に迷惑をかけなければどんな魔術を使っても目を瞑ってくれる。――の支援を受けられる。


 ……が、その代わりエネルギーの浄化や全国に出現の予兆がある影人間への対処、各国に対する日本封印の説明、一般市民の避難経路の作成等で人手がとにかく足りないのでしばらく一人で頑張ってね、というお達しも来た。

 つまり、今まで最悪他の人に助けを求められたエスキュート関連の案件が、本格的に戦闘は一人で何とかしなければならなくなったのである。


 「……久しぶりに、顔出すか」


 ここは一度、自分の本拠地――魔術工房とも呼ばれる、魔術関連の触媒や研究器具を置いてある場所、事前に届け出のある場所に作ると協会が損害保険をかけてくれる。――に戻らなければならないだろう、これまでの戦闘からずっと触媒を消費しっぱなしだし、自宅に置いてる触媒の備蓄も尽きそうだ。

 ……あと、そろそろ顔を出さないと本拠地の主から泣きの電話が入りそうだし。

 そんなわけで今日も暗い部屋に引きこもっているであろう『彼女』《ref》刑二にとっては残念な事に、付き合っている方の彼女ではない。《/ref》の事を重い浮かべながら、彼女が好みそうなお菓子等の差し入れを買いにコンビニに向かったのであった。



 ☽~~~☽



 俺の通う高校はお隣に仲良しの中学校がある事以外に特徴のない、地元じゃまあまあ勉強できている方の高校である。

 そんな高校だが探せば変な部分も存在し、俺の所属する『オカルト研究部』なる存在もその一つだ。


 俺が魔術を求めて入部し、そして本格的に魔術業界に入って以降、勝手に部室を魔術工房に変えているそこには一人の部長がいる。


 「い、今までどこ行ってたんですか処沢くん……部をほったらかして……」


 積まれた怪しい本の山でできた影から一人の女子生徒が顔を覗かせながら俺に非難がましい視線を銀縁の丸眼鏡越しに向ける。


 そう、この黒髪を上の方でポニーテールを結んでなお、ふくらはぎの辺りまで伸ばし、真ん中辺りででっかい髪留めで雑に纏め、猫背気味な彼女こそこの部室の主にして部長、『山彦美音(やまひこ みね)』その人だ。

 因みに、部員は俺を除けば全員幽霊部員のためこの部屋には彼女しかいない。


 「処沢くんがいなきゃ、誰が私の世話をするんですか……?」

 「自分でやるってのは……すいません、やりますって」


 二言目にもうダメ加減が知れる発言に対して、俺が苦言を挟もうとしたが直後にぎろりと睨まれたので発言を撤回する。

 山彦部長は好成績に物を言わせてこの部屋と顧問を勝ち取ったらしく、部の結成に必要な部員も顧問を通して名前だけ貸してもらったらしい。


 「……あの、せめてゴミはゴミ袋に入れてくれません? カップ麺放置はまずいっすよ」

 「……処沢くんがほったらかすのが悪いんです」


 そして後からノコノコ入って来た俺をこうして小間使いの如くこき使い、彼女は悠々と自分の趣味である読書とオカルト研究にいそしんでいるというわけだ。


 しかし、かつて寮にもロクに帰らず、誰とも会わずに部室に引きこもって食事も殆ど摂らない生活であったことを考えると、今の山彦部長は大分進歩している……人をこき使わなければ完璧なのだが。

 と言っても、彼女が俺をそう扱っているのには正当な理由がある。


 「わ、私をあんな危ない目に合わせたんですから……処沢くんにはキリキリ働いて貰いますからね……!」

 「分かってます、分かってますって」


 そう、俺は過去魔術関連の事件に山彦部長を巻き込んでしまったやらかしがあるのだ。

 具体的には、俺が勝手に部室に触媒を置いて彼女がそれを使って悪魔を召喚したというもの、幸い当時のほぼ素人の俺でも対処できる下級悪魔だったため何とかなったが、この一件で危うく魔術協会に二人ともども処罰されかけた。


 なんとか事情を説明して実刑判決は免れたものの、俺たちはお偉いさんにめっちゃ怒られて魔術業界についてのイロハをみっちり叩き込まれ、俺は『退魔師』に、山彦部長は『祈禱師』に強制的に所属となったのである。

 元々非日常を望んでいた俺は渡りに船だったが、引きこもり志望の山彦部長は堪ったものではない、怒り心頭の彼女をなんとか宥めて言い渡された処罰がこの雑用だったのだ。


 「とりあえずそのゴミ纏めたら、ご飯作ってください……今日は煮込みハンバーグがいいです……それが終わったら、洗濯もしてもらって、それから――」

 「いっぺんに言わないでください」


 ……でも、俺にあれこれ我儘を言っている時の山彦部長は最初にあった時に比べてとても楽しそうに見える。

 それならまあ、いい事なのだろう、特に魔術を使う事件の前日辺りなんかはかなり思い詰めていたようだし、俺に雑用させるだけで気を抜けるなら安いものである。


 「と、ところで、処沢くん、その……今日、どうです……?」

 「……? 何がですか?」


 そんな事をぼんやり考えながら机の上のゴミを片付け終えると、ちょうどそのタイミングで山彦部長が挙動不審な様子で何かを尋ねて来る。


 当然、読心術を持たない俺にはこの主語のない問いが何のことかさっぱり理解できず、首を傾げて彼女に聞き返す。

 すると今度はチラチラと目線を向けたり外したりしながら両手の人差し指をもじもじと合わせ始めた。


 「私、最近はちゃんと処沢くんに言われた通りに、身綺麗にはしていますよ……」

 「そうですね、ちゃんと髪の手入れまでできていて凄いっす、超サラサラ」


 以前は『もうちょっとこう……見た目の手入れとか、しません? ……いえ、醜いとかじゃなくて、えー……ほらっ、せっかく元がカワイイんですし、もったいないです』と言ったせいで髪の手入れや髪型のセット、スキンケアまでやらされていた。


 だが、流石に年頃の娘の髪や肌を彼氏でもない男がベタベタ触るのもいかがなものかと思い、自分でやるようにお願いしていたのだ。

 そして今、目の前にいる山彦部長は俺の願い通りに毛先まで艶があり、枝毛一つ見当たらない、あんな長い髪をよく自分で手入れできるなと感動すら覚える。


 「ウへへへ……っは!? わ、私にかかれば当然です……」

 「いや本当に凄いですよ、流石です」

 「そうでしょう、そうでしょう……他には?」


 ここでようやく、俺は山彦部長の言いたい事を察した。

 要は、彼女はちゃんとこっちのお願いを聞いた事に対して褒めて欲しいのだ。

 唐突な振りに自分の額に冷や汗が流れるのを感じながら、思いつくままに言葉を重ねていく。


 「……髪も肌もメッチャ綺麗! カワイイ! 美人! 成績優秀で努力家! 秀才!」

 「うひ、うひひひひひ……」


 すると彼女は両手を頬に当てて口をだらしなくほにゃりと弛ませるとくねくねと身体を揺らしながら変な笑い声を上げた。

 人と接する機会の少ない彼女の事だ、こんなありきたりな言葉でも嬉しいのだろう……それでもチラッとこっちを見る仕草をする辺り、まだ褒められ足りないようだ。


 「えーっと、知的な感じが素敵! 声も綺麗! それから……あっ! たくさんモテそう!」

 「いや……それはあんまり嬉しくないです……」

 「えーっ!?」


 頑張って誉め言葉をひり出していたが、唐突に冷めた山彦部長のあんまりな宣告によりこの流れは終了となった。

 最初は乙女心の複雑さ故か、と思ったがよくよく考えてみると人見知りの山彦部長に『モテる』と言っても確かに嬉しくないかもしれないなと反省するのだった。

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