出逢い
おはようございまーす、みんなのアイドル、まことくんです!真実の真に、楽器の琴で真琴。名前だけでも覚えていってね〜。ただいまの時刻は、えーと、わかんなーい、てへっ。寝て起きても相変わらず真っ白なんだもの。時計も無いし、時間なんてわかるわけないじゃんね。ということで、待っても何も起きないってわかったし、また歩いていくよ。みんな、応援してねー!
…はぁ、1人でなにやってんだろ。
真琴は歩き始めた。何か少しでも変化が現れるのを願って。黙々と、ただひたすらに……なんてことはなく、歌を歌い、たまにはスキップしてみたりしながら。そうして1時間は過ぎたと感じ始めた頃、”それ”は現れた。
えー、なにあれ。絶対何かあるよね、今まで真っ白だった世界に灰色っぽいものがぽつーんと。周りが光ってるせいで距離感がなぁ。どれぐらい離れてるかわかんないや。あっちに行くか行くまいか。しばらく様子を見るか?
いきなり現れた、この白い世界に似合わぬ灰色の物など怪しすぎる。でもさっきまで無防備に寝ていて襲われたりしなかったのだから、生き物だとしても敵ではないかも。いやいや、よくわからない物にはしっかりと警戒すべきだ。そう考える間にも真琴の足は”それ”へと向かっていた。頭ではごちゃごちゃ考えようとも、真琴の本能は変化を求めていたのである。
100メートル、200メートルと近づくにつれて”それ”の形が見えてきた。太い首に、短い手足。さらに近づくと大きさも見えてきた。大体自分と同じぐらいの身長だろうか。さらに近づいてはっきり見えるようになると、真琴は膝から崩れ落ちた。
こないだ買ったウチワシュモクザメのぬいぐるみ(原寸大)じゃん…!硬めで表面がすべすべで、サイズ感が抱き枕にちょうどよくて、フェルトの歯がギザギザでちょっと痛い…まんま自分が買ったやつじゃん…!!
これはたぶん落ちてるってことでいいよね。近くに誰もいないし、持っていってもいいよね。大丈夫、落とし物を拾っただけ。置いてあるものを勝手に持って行くわけじゃない。
よし、この子連れてこう。
両腕でしっかりと抱きしめて歩いていく。少し歩きにくいけれど、それが気にならないぐらい心が軽い。こんなよくわからない場所でも相棒がいるだけで楽しくなってくる。
…また何か落ちてる。さっきの場所から30分は歩いたかな。今度は黒くて、ウチワシュモクぬいぐるみより随分小さく見える。
これは、このフォルムは…!僕が抱きしめるには少し小さいぐらいで、丸い顔に楕円っぽい体、そこから伸びる幅2センチぐらいの棒状の手足。手は長くて足は短く、頭には三角形の耳がちょこんと。これは…猫だ…!
しかもお腹がぺったんこで背中にチャック、開けると中に空間が。顔には白い糸でまん丸の目と逆三角の鼻、への字の口。生地は少しふわふわして気持ちいいけど、中に綿がしっかり詰まってるから硬め。これは…これは、完全に、僕がちっちゃい頃から大事にしてるぬいぐるみだ…。
猫だから「にゃーちゃん」って呼んでるあの子。名付けたのは誰だっけな、僕かお母さんか。ちっちゃい頃の僕はにゃーちゃんを全然離さなかったらしい。隙をついて洗濯しても、干してあるのを見た瞬間にギャン泣きして大変だったとか。
にゃーちゃん本人(本ぬい?)じゃないにしても、抱きしめるとなんだか安心する。この子も連れていっていいよね。ウチワシュモクと一緒に抱きしめて歩き出した。
あれ、何か落ちてる。またぬいぐるみ?この子も連れて行こう。
あれ?また何か落ちて…
にゃーちゃんを見つけてから2時間は歩いただろうか。真琴の腕には大量のぬいぐるみが抱きしめられていた。
どうしよう、歩きにくいし落としそう。ウチワシュモク、にゃーちゃん、もちもちのちっちゃいサメ、枕サイズのふわふわベルツノガエル、◯◯を抱えて、首に緑のヘビを巻き付けてって、持ちすぎだよぉ。でも置いていくなんて無理だし!なんでこんなに落ちてるのさ。しかも!全部!僕が持ってるぬいぐるみ!!
はぁ、もう意味わかんない。最初から意味わかんなかったけど、更に意味わかんない。わからんのフィーバータイムだよ。…何いってんだ僕。
もう流石にこれ以上出てこないよね。これ以上出てきても絶対持てない。いや、持てるけど確実に落とす。僕の持ってるぬいぐるみは出尽くしたから、次はガチャガチャのフィギュアか、僕の知らないぬいぐるみか。とにかく何も出ませんように。…フリじゃないからね?
あぁ、またなにか見える。もしぬいぐるみだったら置いていくって選択肢は無いし、見つけてしまったからには無視するって選択肢も無い。もっと近づいてから考えるか。とりあえずは気にしなーい、気にしない。
えーと、なにこれ。いや、えっ?うん、なにこれ。ぬいぐるみではないからよかったけど。ざっくり言うと、広場に家具を色々置きましたーみたいな光景。しかもほぼ全部僕の家にあるやつ。なぜか昔に捨てた服とかもタンスからはみ出してるし、テーブルにはいつもの朝ご飯が載ってる。あと宿題のプリントも。
家具の間を通り進んでいると、声が聞こえてきた。
「あ、やっと着いたんですね。こんにちは」
いや、誰だよ。知らない子出てきたんだけど。10歳ぐらいかな、腰まで伸ばしたミルクティー色の髪に金の瞳、袖なしの白いワンピース。めちゃくちゃかわいい。歩くたびに髪がふわふわ揺れて、かわいい。2次元から飛び出してきたみたいなかわいさ。正直推せる。ゲームにいたら貢ぎたい。あぁ、ちょっと困った顔になった。かわいい。…あれ、困った顔?あぁそうだ、話しかけられたんだった。なにか言わないと。
「…かわいい」(こんにちは)
「えっ?」
あー、違う、間違えた!ほら、あの子困惑してるよ。早く言い直さないと。…ゴホンッ
「こんにちは」
ギリセーフ…!まだ土曜日だ!
毎週土曜日に投稿するつもりです。
話のストックなんぞないので、今日みたいに変な時間に投稿されてたら「アイツまたギリギリに書いてやがるw」って笑ってやってください