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「獅子帝」の噂

「皇帝陛下の噂を信じているかどうかということでしたら、信じているかもしれません。それしか情報がありませんので、せめてその情報をもとに皇帝陛下がどのような方かを想像するしかありませんので。皇帝陛下のことをどう思っているかについては、そうですね。正直なところ、怖れを抱いています。怖いですし、不安でもあります」


 正直に伝えた。


 クラウスもその噂の内容を知っているのなら、「会うのが楽しみ」とか「ワクワクしています」とか言ったところで嘘ってバレバレだから。


「ですが、噂を鵜呑みしているわけではありません。出来るだけ先入観を持たないように、とは思っているのです」

「すまない。生まれて初めて訪れる国の皇帝に嫁ぐのだ。どのような皇帝であれ怖いだろうし、不安だろう。そんな当たり前のことを尋ねるとは、おれもデリカシーがないな。だが、そうだな。皇帝は、イヤな奴じゃない。それだけは言っておこう。とはいえ、おれ自身は彼が大っ嫌いだが」


 クラウスは、そう言ってからウインクをした。


 そのおどけた様子に、思わず笑ってしまった。


「やはり、きみは笑顔がいい」


 彼の渋い美貌に、やわらかい笑みが浮かぶ。


「遅くまで付き合わせて悪かった。疲れているはずだ。ゆっくり休んでくれ」

「ありがとうございます。そうさせていただきます」


 お言葉に甘え、自室に戻ってお風呂に入ってからふっかふかの寝台でぐっすり眠った。



 気がついたのは朝、というよりかは昼頃だった。


 目が覚めたのが、という意味である。


 カーテンを開けてテラスに出てみると、太陽が頭上でギラギラ輝いている。


 これって早朝じゃないわよね。それどころか朝、でもなさそうよね。


 認めたくはないけれど、一度も目を覚まさないままだったのね。勝手にお昼になったというわけかしら。


 目が覚めなかったのだから仕方がない。


 開き直ることにした。


 洗面台で顔を洗った。


 蛇口からお水が出てくる。


 さすがはバーデン帝国ね。


 ムダに感心してしまう。


 バシャバシャと水を飛ばしながら、豪快に洗った。


 これまでは、たいてい水桶に汲まれているのをチマチマと使っていた。だから、贅沢に使えるのでうれしくってならない。


 準備してくれているタオルで顔をこすりつつ、眼前の鏡を見つめた。


 レディと呼ばれるにはほど遠い「おサルさん」がボーッと見える。


 メガネをかけた。「メガネザル」になった。


「きみは、笑顔がいい」


 昨日、クラウスが何度か言ってくれたっけ。


 彼もお愛想を言ったりして、大変よね。


 笑ってみた。


 いろいろな笑い方をしてみた。


 これまで、笑うことなどあまりなかった。彼に出会い、久しぶりに笑った。すくなくとも、人前で笑ったのがいつだったか、まったく記憶にない。


 そのわりには、昨日はよく笑ったわよね。


 自分でも不可思議でならない。


 だけど、笑うことっていいことだわ。


 健康にいいらしいし。なにより、気分がよくなる。


 もう一度、笑ってみた。


 サルっぽい顔なりに、なかなかいけるかも。


 そうね。真面目とか不愛想な顔より、まだマシじゃない?


 媚びた笑みなんて、小説に出てくるセクシーな女性はよくするけれど、わたしにはそんな笑い方はムリ。だけど、フツーに笑うことだったら出来る。


 お愛想でも褒めてくれたんだし、心機一転、これからは笑顔でいようかしら。そうすれば、気分も明るくなって前向きになれるかもしれない。


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