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ちんまりレディはがんばっています

「おおっと、そうはいかないぞ」


 玄関口から二名の男が現れた。やはり、どちらも雇われ給仕人の恰好をしている。


 それはそうよね。彼らも金貨で雇われている身。あらゆることを想定しているわよね。


 が、そのまま突進した。


 現れた二人の表情が「えっ!」って感じになったのが、うす暗い中でもわかった。


 このままぶつかる勢いで突進し続けると見せかけ、通りかかった部屋に倒れこむようにして入った。人間って危急の際にとんでもない力を発揮すると、ラインハルトからきかされていた。それは、まさしくいまのわたしのことである。


 ディアナをひっぱったというよりかは投げ飛ばすようにして、その部屋の内にぶん投げた。


 そして、間髪入れずに扉を閉めた。


「くそっ!」

「ちんまりしたレディだからと油断した」

「あのちんまりレディ、バカ力だな」

「感心している場合かっ! 扉をぶち壊してちんまりをひきずり出せ」


 男たちは、廊下で大騒ぎしている。扉をはさんで向こうから、必死に扉を叩いたり蹴ったり体当たりしている。だから、それはいつぶち破られてもおかしくない。


 強引に扉を開けられないよう、全体重をかけてそれにもたれかかっている。もたれかかりながら、室内を見渡した。


 ここは、居間であった。ローテーブルと長椅子のセット、壁際には普通のサイズの人の腰くらいの高さのラックが並んでいる。どうやら、酒類を保管する為のラックらしい。


 わたしの力では、扉を破られるのも時間の問題。すぐにでも家具類をバリケードがわりに置かないといけない。


「妃殿下、妃殿下」


 必死にいい方法を考えていると、ディアナが呑気に呼びかけてきた。


 さっき居間の中にぶん投げたけど、どこも打たなかったかしらね? まぁピンピンしゃんしゃんしているみたいだから、問題ないとしておきましょう。


 自問自答して、彼女は何でもないと結論する。


「わたしは、ちんちくりんの方がピッタリだと思いますよ」

「はい?」


 さすがは「わが道爆走レディ」ね。いまのは、このタイミングで言ってくるような事なのかしらね。


「ちんまりって表現も可愛くって妃殿下にはピッタリだと思います。ですが、やはりちんちくりんです。公式にもなっているようですし」

「はいいいいい?」


 調子が狂うわ。


 ちんまりでもちんちくりんでもいいのよ。どちらにしても「小さい」という表現なんだし。


 それに、ちんちくりんは皇族公式のワードではないわ。いまのところは、だけれど。


「ディアナさん、ありがとう。だけど、いまはそれどころではないの。家具を、なんでもいいから運んで下さい。バリケードを築きたいのです」


 扉は、ドンドンばんばんと叩かれたり蹴られたり体当たりされすぎている。それがまた、扉じたいが奇妙な悲鳴を上げているようにきこえる。


「バリケード?」


 彼女は、官能的な唇に指を一本あてた。


 落ち着くのよ、わたし。そうだわ。三歳児に言いきかせるつもりになればいいのよ。


「ディアナさん、廊下から男たちが入ってこれないようにしたいのです」


 全力で扉にもたれかかりながら、幼児に対するように諭す。


「ああ、そういうことですね」


 うす暗い中、彼女の美貌に何かが閃いた。


「ですが、妃殿下。それはムダですわ」

「ムダかもしれませんが、やるだけのことはしないと」

「だって、ほら」


 彼女がわたしの視界からどいた。


 すると、四名の男たちがこちらに向って歩いてきている。


 もちろん、居間の中をである。


 どういうこと?


 その男たちごしに、ヒラヒラと何かが風に揺れ動いているのを認めた。


 カーテン?


 脱力してしまった。


 じつは、この居間にはデッキかテラスへと続く扉があるのね。


 冷静に考えれば、通常はそうよね。たいていは、居間にガラス扉が設置されている。


「諦めろ」


 左頬に傷のある男が、こちらにゆっくりと歩いてきながら言った。


 先程顔面に投げつけた酢漬けキャベツの酢の痛みはおさまったらしい。


 そして、扉からどいてしまったせいでそれの支えがなくなった。背後でそれが開いたのを感じた。


 残りの男たちが居間の中に入ってきたみたい。


 これで万事休すね。


 逃げ場がなくなってしまった。


「ちょっと、だから金目の物はないって……」

「レディ、だまっていろ」

「だまらないわよ。だいたい、あんたみたいな野獣にレディなんて言われたくないわ」

「なんだと、クソ女っ。おとなしくしていれば調子にのりやがって。痛い目にあいたいのか?」


 ディアナ、ディアナ、どうして煽るのよ?


 いろいろな意味で「もうおしまいね感」でいっぱいになってしまった。


「あら、わたしならそっちも大丈夫よ。だけど、どちらかといえば痛い目にあわせる方が好みなんだけど。妃殿下は、どうですか?」


 ディアナに訳の分からないことを問われてしまった。


 しかも彼女、すごくうれしそうに笑っている。


「陛下は、ああ見えて結構痛い目にあわされる方がよかったりして。いやだ。想像してしまいました。そうですよね。ちんちくりんの妃殿下が、強面デカブツおっさんの陛下をムチでぶったり縄で首を絞めたりだなんて、想像しただけでゾクゾクするわ」


 ナディア、どうしてうっとりするの? いま、そういう場合ではないわよね?


 襲撃者たちを見ると、彼らもなにやら空想か想像かをしているみたい。


 揃って下卑た笑みを浮かべている。


「『獅子帝』ってそうなのか?」


 左頬に傷のある男がきいてきた。


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