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抱いて……

(お義母かあ様、いまこそ彼の愛をたしかめるときです)

(お義母かあ様、このタイミングで彼に抱いてもらうのです)


 そのとき、リタとゾフィの声がきこえてきた。


 心の声、みたいな?


(陛下、いまこそ彼女を抱くのです)

(陛下、このタイミングで彼女の身も心もモノにするのです)


 なんですって? ジークとシュッツの声まできこえてきた。


「押すなっ!」

「うわあああっ」

「きゃあっ」

「まああっ!」


 ガラス扉がふっ飛んだかと思った。


 なんと、ジークたち四人が室内に倒れこんできたのである。


 彼らは、開けっぱなしのカーテンの隙間からのぞき見していたのだ。


「不安や恐怖を抱かせてほんとうにすまなかった」


 ラインハルトとわたしに散々叱られた四人は、早々に自室に引き取った。それをしっかり確認した後、ラインハルトはあらためて謝罪してきた。


 わたしも、いまは寝台から出て彼と向き合っている。


「ガマンしているんだ。最初からずっと」


 彼は、真っ赤になりながら告白した。


「だが、きみはまだその心構えが出来ていない。無理強いはしたくない。ましてや、命令や強制なども。だが、これだけはわかってほしい。おれは、チカ、きみを愛している。ずっと前から愛している。肉体的なつながりなどより、心のつながりの方が大切だ。そうは思わないか?」


 小さくうなずいた。


「もしもきみが嫌でなかったら、今夜からいっしょに眠らないか? いや、何もしない。自然な流れでそういうことになると思う。焦る必要などどこにもない。いっしょの寝台で眠れば、何かがかわるかもしれない。おれは、きみとただ並んで眠るだけでもしあわせだ」


 およそロマンチックとは無縁の武闘派の彼の誠意は、充分伝わってくる。


 正直なところ、完全に不安と恐怖が拭いきれているわけではない。だけど、将来彼に嫌われたり飽きられてポイっと捨てられるようなことになってもいい。つねにその覚悟をしておけば、そのときがきても最低最悪な心の状態にはならないはず。


 その日がくるまで、彼に尽くしてせいいっぱい笑顔でいればいい。彼を全力で愛すればいい。


 そう決意しても、やはりしょっちゅうウジウジ悩むのよね。


 ダメダメ。メンタル面、強くならなくては。何があってもいいように。


「チカ? いっしょに眠るのが嫌なら、いままでどおり……」

「陛下、いっしょに眠って下さい。ただ、わたしは口のしまりが悪いのです。ですから、ヨダレをよくかきます」

「ヨダレ? それは、また可愛いな」


 ラインハルトの渋い美貌に、少年のような笑みが浮かんだ。


 彼の金色の瞳にわたしが映っている。彼の瞳の中のちんちくりんの「メガネザル」は、控えめにいっても滑稽すぎる。


「陛下。わたし、臭くないですか?」


 お風呂に入っていないことをふと思い出した。


 だけど、お風呂に入るにはもう時間が遅すぎる。


 すでに汗臭いままラインハルトの寝台で眠ったから、いまさらだけど。


「かまうものか。風呂は、早朝の鍛錬後に入ればいい。もう遅い。今夜はもう寝よう」


 彼が右手を差し伸べてきた。月光の中、そんな彼が男らしくて素敵すぎる。


 そのとき、また頭の中にモヤモヤした映像があらわれた。


 なんなの? またデジャブ?


 たしかに、昔だれかにこうして手を差し伸べられたことがある。そういう気がする。


 だけど、思い出せない。


 いいえ、違うわね。


 これって、思い出さないといけないのね。何か重要なキーワードなのよ。


 少なくとも、小説の中ではそうですもの。


「チカ?」

「申し訳ありません。陛下があまりにもキラキラされていますので、つい見惚れてしまいました」


 慌てて彼の手を取った。


 この夜、初めてラインハルトといっしょに眠った。


 彼は、ずっと腕枕をしてくれた。


 そして、その腕枕にヨダレをたらしてしまった。


 皇帝陛下の腕枕にヨダレをたらすなんて。

 ほんとうにこんなちんちくりんでもいいのかしら。


 早朝の鍛錬中、はやくも不安になってしまった。



 そんなこんなで、いよいよ今夜わたしたちはロイター家のパーティーに出席をする。


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