豪快な食事
「すごく豊潤な味わいですね」
葡萄酒の感想は、小説のこういうシーンで登場人物がいう台詞を借りた。
「そうだろう。きみの口にあってよかった。さあ、食べよう。話はあとまわしだ」
「はい」
そうね。まずは食事よ。
馬車の中であれほど食べたのに、お腹がペコペコだなんて信じられないわ。
意気込んでテーブルを見下ろしてみたものの、料理が豪快すぎてなんと評していいのかわからない。
とにかくすごい、としか言いようがない。
まずは、元はなんという動物なのかわからない肉の塊に目を惹かれた。しかも、骨付きだわ。それから、ジャガイモ、ニンジン、タマネギ、トウモロコシ、ピーマン、キャベツなどの野菜を、ざっくり切って焼いたもの。それらが、大皿の上に雑然と並んでいる。
ドーンとかバーンっていう表現がぴったりね。
その大皿の横に、小ぶりの皿に入ったつけだれっぽいものが添えられている。
それとパンね。馬車内のときと同じように、三種類のパンが中央に置かれている。
しばし呆然と眺めていると、クラウスは将校服の上着を脱いでそれを椅子の背もたれにひっかけた。シャツの第一ボタンを外すと、ナプキンを広げて胸元にひっかけた。つまり、赤ん坊のよだれかけみたいな感じにした。
「豪快に食う方がうまい。きみもドレスを汚さないよう、同じようにナプキンで胸元を覆った方がいい。さっきも言ったけど、おれたちだけだ。マナーなどいっさい気にせず食ってくれ」
小さく頷くしかない。
もちろん、勧めには応じた。
とりあえず半分にぶつ切りにされたジャガイモを、フォークで突き刺した。ここからどうしていいかわからない。上目遣いで向かいのクラウスを観察してみた。
彼は、メインディッシュの横に添えられているソースらしきものにタマネギをくぐらせた。それから、それを口に放り込んだ。
だから、わたしもそうしてみた。
「美味しい」
ジャガイモじたいは、焼く前に茹でたようだ。それを半分に切り、塩コショウで味付けしただけみたい。
ソースらしき物は、やはりソースだった。フルーティーでちょっと甘め。甘みとニンニクの風味が、口いっぱいに広がる。
「これをつけても美味いよ」
クラウスは、パン用のバターをこちらによこした。
「皮つきのジャガイモを、そのまま茹でたり焼いたりするんだ。茹でたてや焼き立てのジャガイモの上に、十字に切り込みを入れる。そこにバターをのせ、食うのがうまいんだ。じゃがバターという、簡単だが美味い料理さ」
「それなら知っています。たしか、小説で主人公が食べているのを読んだ記憶があります」
「では、食ったことはないんだ」
「はい」
「このジャガイモは、茹でたてでも焼き立てでもないからバターがとけないがね。それでも、この地域でとれるジャガイモは、ホクホクしている。さめた状態でも、バターを塗れば美味いはずだ」
彼の勧め通り、さっそくジャガイモにバターを塗ってみた。
「美味しいです」
言葉では言いあらわせない美味しさね。
これでも美味しいのに、茹でたてや焼き立てのジャガイモだったらどれだけ美味しいかしら。
想像しただけでしあわせになれる。
「明日は、じゃがバターを食えるようにしよう。さあ、他も食ってくれ」
「はい」
ニンジン、タマネギ、ピーマン。どれもただ焼いただけなのに美味しすぎる。ソースもいい仕事をしているけれど、素材のそのままの味がいいのね。
野菜ってこんなに美味しかったかしら。
これまで与えられるものといえば、残り物とか腐りかけたものとかがほとんどだった。だから、野菜など原形をとどめていなかったり、味がかわってしまっていた。
「野菜より、肉がメインだ。ほら、こうして食うんだ」
彼は塊肉の骨の部分を両手でつかむと、なんの躊躇もせずにかぶりついた。