ロイター公爵家のパーティー前夜
ロイター公爵家のパーティーに招待されてから、よりいっそう鍛錬がハードになった。
万が一のとき、自分で自分の身を守ることが出来るようにならなければならない。
ラインハルトとたちが、出来るだけついていてくれる。とくにリタとゾフィは、男性が立ち入ることが出来ないような場所でもついてくれることになる。
それでもなお、どんなことが起るかわからない。
わたしを暗殺するという計画がほんとうにあるのなら、実行犯はあらゆる手段を使ってわたしを殺そうとするはず。そうすると、なにがなんでもわたしをみんなから引き離して一人ぼっちにするでしょう。
かんがえてみれば、殺されるかもしれないだなんてすごいことだわ。まるでハードボイルド系のヒロインみたい。
不謹慎だけど、自分が重要な人物になったみたいに思えてくる。
そんなバカな思いはともかく、とりあえず一人になったときに襲われても対処出来るよう、鍛錬が厳しくなった。
六人での鍛錬もだけど、そのあとラインハルトの主寝室で行われる鍛錬もまた、厳しさを増した。
最初、鍛錬のたびに体のあちこちが痛くなった。
これまで、自慢ではないけれどまったくといっていいほど運動をしてこなかった。最低限歩く程度だった。だから、これまで使ってこなかったあらゆる筋肉が悲鳴をあげた。そして、筋肉痛に襲われた。だけど、それも毎日の厳しい鍛錬をこなしているうちになくなってしまった。
それなのに、鍛錬が厳しくなってからまた筋肉痛に襲われるようになった。
わたしが選んだ遠い東の大陸にある国の小刀を使いこなすのに、これまで以上に筋肉を酷使した結果である。
「これはもう苦行ね」、と言いたくなるほどの苦しみに耐えなければならなかった。
それでも、ラインハルトの期待に応えたい。強くなって彼を安心させたい。すくなくとも、殺されるようなことにはなりたくない。
彼を悲しませたくない。
そう強く願うからこそ、食らいつくようにしてがんばっている。
その苦しみが終ると、ラインハルトがマッサージをしてくれる。それがまた気持ちがいい。
ラインハルトの寝台の上にうつ伏せになる。当然、メガネを外すわけだけど、メガネのない顔を彼に見せるわけにはいかない。
別荘にいたとき、メガネをとったことがあった。その際、彼におもいっきり不快な思いをさせてしまった。
だから、彼がオイルを準備するのに背中を向けている瞬間にメガネをとり、そのままうつ伏せになるようにしている。
じつは、マッサージをしてもらうようにと勧めてくれたのがリタとゾフィなのである。
なんでも、彼女たちもそれぞれジークとシュッツにしてもらったとか。もちろん、いまもしょっちゅうしてもらっているらしいけれど。
だから、その勧めにしたがっている。
勧めてもらったその夜、ラインハルトにマッサージをねだってみた。すると、彼は快くやってくれた。それがあまりにも気持ちよかったので、それ以降やってもらっている。
ラインハルトとジークとシュッツは、遠い国のマッサージ師から直接そのテクニックを伝授してもらったとか。
だから、めちゃくちゃ上手なのである。
この夜もやってもらった。
明日、例のパーティーに参加することになっている。本来の意味でのパーティーへの参加のことはともかく、もしかするとパーティーじたいが罠かもしれないのである。
だけど、そのことについてあまり自覚がない。自分の命が狙われている、という危機感が持てないでいる。
ラインハルトが側にいるから、すっかり安心してしまっているのかしら。
そうとしか考えようがない。
「いよいよ明日、パーティーだ。チカ。わかっていると思うが、ぜったいに一人っきりになってはいけない。例の計画が嘘でなければ、連中はあの手この手できみをおれたちから引き離そうとするはずだ」
「はい、陛下。承知しております」
枕に顔を埋めたまま、モゴモゴ答えた。




