チカ、密かに決意する
「陛下、お待ちください」
「陛下っ!」
「陛下っ!」
リタとゾフィと三人で、ラインハルトをひきとめなければならなかった。
ディアナが盗み聞きした内容を伝えた途端、彼は無表情のまま寝室を出て行こうとしたのだ。
静かなる怒り、というのかしら。ぞっとするほどの殺気が、背筋に冷たいものを走らせた。
それは、リタとゾフィも同じだったみたい。いいえ。そういう世界で生きてきた彼女たちの方が、殺意や害意に敏感である。
ラインハルトは、もう少しでロイター公爵家に乗り込むところだった。乗り込んで、オリーヴィアとヨルクをどうにかするつもりだった。
リタとゾフィでおさえきれなかったので、ジークとシュッツに助けを求めた。だけど、彼らも怒っている。説得どころか、ラインハルトを煽りだしてしまった。
ついにリタとゾフィがキレた。その凄まじいキレ方は、ラインハルトを正気付かせてジークとシュッツを打ちのめした。
そうして、騒動はとりあえずおさまった。
そのあと、何時間もかけて話し合った。
ラインハルトは、わたしを寝室の外に出さず、自分がずっと側についていると言い張った。
皇帝であり大将軍である彼が、まさかずっと自室にひきこもっているわけにはいかない。とくにいまは、宰相交代の時期である。閣僚、軍の幹部、ともに水面下でいろいろ起こしていたりやっていたりする。そんな中、わたしの為にラインハルトの手を煩わせたくはない。ジークやシュッツにしても同様である。
例の別荘に逃れる、という案も出た。しかし、ラインハルトが「せめておれの目の届くところにいてほしい。何かあった際に、別荘だとすぐには駆けつけられない」と拒否をした。
たしかにその通りである。
それに、わたしも逃げたくはない。
逃げたくない?
自分がそんなふうに思っていることに驚いてしまった。同時に、強くなったなと感じた。
それはともかく、密かに決意したことがある。
襲撃者に襲ってもらえばはっきりする。襲撃者たちを捕まえ尋問して黒幕をあぶりだせば、ラインハルトたちはぜったいに有利に立てる。
うまくいけば、彼だけでなくジークとシュッツの地位も揺るぎのないものになるかもしれない。
もちろん、ディアナのきいたことが間違いではないことが前提である。間違いなければ、いっそ襲ってくれた方がいい。
それならば、彼らへのご恩返しに囮になって襲撃されよう。
あさはかな思いつきであることはわかっている。こういうのって、まるで小説に出てくる勘違い系のヒロインそのものだから。
勝手に爆走してピンチに陥り、結局ヒーローに迷惑をかけてしまうアレである。
わかってはいる。わかってはいるけれど、いまのわたしに何かが出来ることがあるとすれば、襲われることくらいしか思い浮かばない。
当然、ラインハルトたちにそんなあさはかな計画は話せない。話そうものなら、とんでもないことになってしまう。
だから、ラインハルトが「ぜったいに一人にはならない」、「何があってもムチャはしない」、「異変を察知したら人を呼ぶ」等々、覚えきれないほどの注意や決まり事を並べたてている中、神妙な面持ちできいていた。




