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ディアナ嬢は乗るレッスン中

 しばらく皇宮内の森を巡っていたけれど、ゾフィがあることを思い出した。


「今日は、ディアナが乗馬のレッスンを受ける日です。彼女、定期的にレッスンを受けているのです」

「ああ、レッスンね。ちょうどいいわ。なんなら、本人に事情をきいてみましょう。どうですか、お義母かあ様。ロイター公爵家の厩舎は、皇宮と隣接しています。森を抜ければすぐです」


 リタに勧められた。たしかに、あれこれ思い巡らせるよりも本人に直接尋ねた方がいい。というわけで、さっそく向かうことにした。


 木々の間に見え隠れしている護衛の親衛隊の隊員たちは、わたしたちがいきなり馬に拍車をかけたものだから慌てている。


 それでも、わたしたちは速度をゆるめることなく森を疾駆した。



 ディアナは、たしかに厩舎にいた。そして、乗馬大会で毎回優勝をしているというエーデン伯爵子息とレッスンをしていた。


 リタとディアナは、馬場ではなく厩舎内にある休憩所に向かった。


 休憩所といっても、それはもう立派な建物である。二階建ての小さな屋敷といっても過言ではない。


 ちゃんとエントランスがあって、居間や食堂や寝室もある。厩務員たちの宿舎棟は別にあるので、ロイター公爵家の人たちが休憩する為だけにつくられたもののようである。


 さすがはバーデン帝国で三家ある公爵家の筆頭だけのことはる。


 ムダに贅を尽くしている。


 それはともかく、ディアナと乗馬の先生エーデン伯爵子息は、その小さな屋敷にいた。


 リタとゾフィは、階段を上がっていった。二階はすべて寝室になっていて、階段から近い寝室の前に立った。


 リタが、ノックもなしに扉を開けた。


「ちょっ、突然何事なの?」


 途端に金切り声が上がった。


 そのきいたことのある耳障りな金切り声は、ディアナのものに違いない。


 ゾフィが驚いているわたしの腕をひっぱったので、いっしょに室内に入った。


 な、なんてこと……。


 それを見た瞬間、顔が爆発してしまうのではないかというほど熱くなった。


 メガネがよく見えるようになったことを、いまほど後悔したことはない。


 なんと、ディアナが男性と寝台の上で鍛錬を行っているのである。しかも、しかも真っ裸で。


「い、いったい、何事なの?」

「な、な、な、な……」


 ディアナもだけど、男性の方は驚きすぎて言葉もでないみたい。


 それはそうよね。


「ディアナ、エーデン伯爵子息、レッスン中失礼します」


 リタは、まるでこの光景が正常な状態であるかのように冷静に言った。


「あら、あなたに乗るレッスンが必要なのかしらね。あなたなら、どんな牡馬でも乗りこなせるのではなくって?」


 つぎはゾフィがさわやかすぎる笑顔とともに口を開いた。


「し、失礼ね。失礼すぎるわ」


 ディアナは、金切り声を上げ続けている。


 ええ、ディアナ。わたしも同感よ。


 だんだんと落ち着きを取り戻してきた。わたしが、である。


「エーデン伯爵子息、お疲れ様でした。本日のレッスンは終了よ」


 ゾフィがきれいな手をひらひらさせつつ告げるも、伯爵子息は寝台の上で上半身を起こしたままかたまっている。


「伯爵子息、言葉にしなければならないかしら? 出て行ってちょうだい」


 リタが言った。それでも、彼は動かない。いいえ。動けないでいる。


「はやくしてっ!」


 リタがキレて怒鳴った。


「は、はい」


 気の毒すぎる伯爵子息は、転がり落ちるようにして寝台からおりた。


「ほら、乗馬服っ! いくらなんでも、エーデン伯爵邸からここまで真っ裸で来たわけではないでしょう?」


 ゾフィが手を鳴らしながら言うと、気の毒すぎる伯爵子息は床上に放り投げられている衣服をつかんだ。


 その裸体を直視出来るわけがない。


 思わず、目を伏せてしまった。


 ドタドタと駆けて行く音がする。すぐ横を、彼が駆け抜けていくのを感じた。


「伯爵子息、すでに噂になっているわよ。火遊びもいいかげんにしておかないと、婚約者の耳に入ったら大事になるのではなくって? いいえ。もう入っているかもしれないわね」


 ゾフィが忠告をしたけれど、当然返事はなかった。


 なんてことなの。伯爵子息には婚約者がいるのにディアナと浮気を?


 とうてい信じられないわ。


 わたしの感覚っておかしいのかしら。


「ディアナ、あなたも服くらい着たらどうなの? いくらなんでも、妃殿下の前なのよ」

「あなたたちの方が失礼でしょう?」

「いまさらだし、いい大人のあなたに、人間としての道理やレディとしてのたしなみ云々を説くつもりはないわ。だけど、ロイター公爵家という名門の子女なんだから、そこはきちんと……」

「妃殿下、この間はごめんなさい」


 はい?


 ゾフィが教師のように諭している最中、ディアナは突然謝罪してきた。


「その、わたしが、そう、わたしが悪かったわ」


 彼女、いくらなんでもわが道を爆走しすぎていないかしら?


「謝罪の意味もこめて、手紙をしたためたの。読んでくれたかしら?」


 ディアナは、真っ白なシーツに両手の平をつけ上半身だけ身を乗りだしてきた。

 真っ裸のまま、である。




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