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毒殺

 ゾフィは、ローテーブルの向こう側の長椅子に座りながらしきりに封筒のにおいを嗅いでいる。


「どう、ゾフィ?」

「リタ、大丈夫よ。毒のにおいはしないわ」


 彼女は、リタに封筒を渡した。


 リタは、それを受け取ってから乗馬服のズボンのポケットからハンカチを取り出した。どうするのかと見ていると、彼女はハンカチをうまく使って封筒に直接触れないように封筒を開けた。


 そして、封筒の中から手紙を取り出した。


「やはり、毒は仕込まれていないわね」


 リタもまた、においを嗅いだ。


「お義母かあ様。暗殺の手段として、手紙に毒を仕込む方法があるのです。たとえば、毒針や毒刃を仕込むのです。受け取った者が、封を開けた際に毒針が刺さったり毒刃で切れたりします。猛毒なら、即死します。それ以外にも、毒を塗りこんだ手紙を使うこともあります。ほら、乾燥肌の人や不器用な人がいるでしょう? そういう人は、紙片をめくるのに指先をなめて湿らせることがあります」

「それは知っているわ、ゾフィ。ミステリー小説で読んだことがあるの。手紙ではなく、古書だったけど。頁に毒を塗りこんで、読んだ人、そのミステリー小説では大富豪だったかしらね。とにかく、その大富豪は即死してしまったわ。実際にそんな方法が使われるのね」


 てっきり創作の世界だけかと思っていた。


「お義母かあ様、また口が開いたままですよ」


 リタに指摘されてしまった。彼女は、ゾフィと二人でクスクス笑い始めた。


「どうも口のしまりが悪いのよ。だから、眠っているときよだれがすごいの」


 自分のよだれが水たまりになり、その冷たさと不快さで目が覚めるときがある。だから、枕の上にタオルをかぶせて眠るようにしている。


 よだれのことなどささやかな悩みにすぎないわよね。二人にとってはとくに重要でも危険でもなく、くだらない話題だったのに違いない。そのことについては、二人ともなんのリアクションもなかった。


「お義母かあ様、手紙をこのまま見てもいいですか?」

「もちろんよ」


 リタにうなずいてみせると、彼女はさっそく手紙を開けた。


「あなたの命を狙っている者がいる。気をつけることね」


 リタは、なんの感情もこめずに読んでくれた。


「あなたって、わたしのことね」


 当然のことだけど、一応確認しておいた。


「匿名のはずなのです」

「匿名のはず?」


 リタの謎めいた言葉は、まるでミステリー小説に出てくる言葉みたい。


「なんてことかしら。彼女、手紙まで残念すぎるわね」


 リタの手元の手紙をのぞきこんだゾフィは、大笑いし始めた。


「この手紙には、二匹の蛇の紋章が入っています」


 リタが言った。


 二匹の蛇の紋章……。


「リタ。それって、もしかしてロイター公爵家の紋章?」

「お義母かあ様、そのとおりです」


 ラインハルトが見ていた招待状に、二匹の蛇が絡み合っている紋章が入っていた。そのときに彼に教えてもらったのである。


「しかも、この筆跡はディアナのものです。わたしたちは、一度見た筆跡はいくらかえても見抜くことが出来ます。筆跡というのは、根本的なものは変えることが難しいからです。もっとも、彼女は筆跡をかえようともしていませんが」

「ディアナが? どうしてわたしに忠告を? だいいち、どうして彼女が知っているわけ? もちろん、彼女が狙っているのなら話は別だけど。でも、彼女はそういうタイプではなさそうな気がするの」


 ディアナが美貌であるという噂は、たしかにそう。だけど、才女という噂はかなり盛りすぎている。正直、彼女は顔だけである。つまり、頭の中は残念なくらいお花畑である。


 そんなディアナは、ターゲットを単純に虐めたりいやがらせをしたりというダイレクトに個人攻撃をすることはあるでしょう。それで、自分は優越感に浸ったり勝者として誇りたいという感じがする。


 だけど、彼女はだれかを雇ったり計画を練ったり、という複雑なことはしそうにない気がする。



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