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侍女のイルマ

 ラインハルトたちが調練が戻ってくる日は、リタとゾフィと三人で朝から遠乗りに出かける予定にしていた。


 ラインハルトがクラウスと名乗っていた際、帝都に向いながらいろいろな場所に連れて行ってもらった。道中、風光明媚な場所を訪れたり美味しい物を食べに連れて行ってくれたのである。そういう場所は、かならずしも道が整っているわけではない。かえって整備されていないところの方が多かった。わたしの為にと準備してくれていた馬車では、そういう場所は行くのに困難である。というわけで、彼はわたしに軍馬を貸してくれた上で乗馬を教えてくれた。


 乗馬の練習は、いまでも続けている。リタとゾフィがみっちり教えてくれるので、自分ではかなりうまくなったのではないかと思っている。


 愛馬は、最初に借りた牝馬をそのまま乗らせてもらっている。名前を「ロートハ―リック」、通称ローと呼ばれていたので、わたしもそう呼んでいる。

 彼女は、名前通り赤色の毛並みの美しい馬である。


 わたしの乗馬の腕が上達したというよりかは、彼女がわたしをうまく乗せてくれるているというのが真実である。それなのに、わたしが勘違いしているというわけかしら。


 だけど、彼女との乗馬は楽しすぎる。野原や森を駆け抜けるあの爽快感は、表現のしようもない。


 これまでたらいまわしにされてきたどこの国でも、散歩すらままならなかった。ましてや乗馬など、小説やお話で読んでその光景を脳裏に思い描くくらいであった。それこそ、馬に触る機会すらなかった。


 それがいまでは、馬といっしょに楽しい思いをさせてもらっている。


 人生ってなにが起こるかわからない。


 あらためて、そのきっかけを与えてくれたラインハルトに感謝してしまう。



「あの、妃殿下」


 続きの間を掃除してくれている侍女のイルマ・グレーニングに呼ばれた。


 彼女は、先日のお茶会でディアナに足をひっかけられてあやうくケガをするところだった。


 そのことで彼女が気に病んで辞めてしまうのではと、ワガママを言って専属の侍女にしてもらったのである。


 すると、彼女とわたしは同年齢で、しかもおたがい読書好きだということがわかった。彼女も嫌がらないでお喋りに付き合ってくれるので、仲良くしてもらっている。


 彼女は、赤色のおさげ髪が可愛らしい。自分では頬にあるにきびが気になると言っているけれど、それほどではない。


 田舎には、両親と弟や妹たちがたくさんいるらしい。彼女は、その家族の生活費の足しにするのと弟たちの学費を貯める為帝都に出てきて働いている。


 皇宮での職が見つかったのは、幸運以外のなにものでもなかったらしい。というのも、お給金がいい上に希望者は皇宮内にある使用人用の宿舎に入ることが出来るという。そこでは、家賃だけでなく食事も無償で提供される。仕事には制服があるので、衣服もそうたくさんいるわけではない。ということは、お給金を少しでも多く仕送り出来るというわけ。


 彼女はすでに五年ここで働いていて、皇族付きに抜擢されたのは最近のことだったらしい。


 あのお茶会が、皇族にもっとも近づいた初めてのことだったとか。


 それで緊張していたのね。


 とはいえ、あれは仕方がなかった。


 それは別にして、イルマは皇族付きに抜擢されただけある。彼女は、控えめにいっても万能すぎる。仕事っぷりはもちろんのこと、こちらを読んでくれる。だから、気をラクにしていられる。


 侍女についてもらうなどということは、いまだに慣れない。そんな感じだから、皇宮に来たばかりの頃は気を遣いすぎてヘトヘトになっていた。だけど、彼女についてもらってからそんなことがなくなってしまった。


 そういう意味では、イルマと結び付けてくれたディアナに感謝しなければならない。


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