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夕食

 夕食は、彼の部屋のバルコニーでいただくらしい。


 彼の部屋といっても、わたしの隣の部屋だった。バルコニーじたいは、わたしの部屋から続きになっている。


 将軍付きの兵卒が、テーブルのセッティングしてくれたみたい。バルコニーから直接クラウスのバルコニーへに行くと、すでに彼が待っていてくれた。


 わたしの姿を見ると、彼は椅子をひいてくれた。


 躊躇してしまったけれど、それも一瞬だった。


 こんなわたしでも、一応はレディ。お礼を言ってから着席をした。


 テーブルは、真鍮製でバルコニーに置くにしては大きい。真ん中にはロウソク立てが置いてあり、三本のロウソクがテーブル上を照らしだしている。


 バルコニーの手すりの向こう側には、城壁がボーッと浮かび上がっている。ところどころ灯火が見える。


 見張りの兵士が配置されているのに違いない。


「本来なら、前菜からということになるが、なにせ兵士の作る荒っぽくってシンプルな料理だ。調理場からここまで運んでいる間に冷めてしまっているし、味も保証出来ない。だが、調理兵たちがきみの為に心をこめて作ったスペシャルメニューだ。楽しんで食ってくれたら、彼らもよろこぶだろう。もちろん、おれもだが」


 クラウスは、葡萄酒の瓶を持ち上げながら言った。


 わたしの為に……。


 その言葉は嘘ではないはず。なぜか嘘や誇張だとは思えない。


 だからこそ、グッときてしまった。


 それを隠すようにグラスを持ち上げたけれど、手が震えている。


 彼に葡萄酒を注いでもらう間、それがバレやしないかと気が気でなかった。


「チカ、ようこそバーデン帝国へ。本来はこの席には皇帝が座していて、憎たらしい表情と態度でグラスをかかげているのだろうが……。いまは、おれでガマンしてほしい」


 クラウスの言葉でハッと顔を上げ、かかげるグラスの向こうの彼を見た。


「こんなわたしにロマンチックな演出までしていただいて感謝いたします。皇帝陛下は、憎たらしいのですか?」


 憎たらしい表情と態度……。


 きいている噂のこともあって、ますます怖ろし気な人物に思えてくる。


「陛下? ああ、そうだった。きみは、陛下に嫁ぐのだったな」


 彼は一瞬、わたしから城壁の方へ視線を移した。


「まずは葡萄酒を飲もう。この地方は、葡萄酒の名産地でね。とくに赤は最高だ。今夜の料理によく合う。それに、きみはまだ緊張している。というよりか、不安や警戒をしている。チカ、おれが怖いかい?」

「いえ、怖くなど……。男性と二人っきりですごすことがないものですから。それどころかだれかにこんなに親切にしてもらったり、話をしたりすることじたいほとんどありませんでした。あの、クラウス様?」


 わたしを見つめたままで反応のない彼に呼びかけた。


 えっ、涙ぐんでいるの?


 彼の目尻に涙が溜まってるように見えるのは、きっと灯りのせいね。


「ああ、すまない。この辺には、夜にだけ咲く花があってね。おれは、その花粉のアレルギーなんだ。とにかく飲もう。いいかげん腕が疲れた」

「は、はい」


 アレルギーって大変よね。


 気の毒に思いつつ、グラスを傾け葡萄酒を口に含んだ。


 んんんんんんん?


 馬車の中にあった葡萄酒もそうだったけど、正直なところ味なんてわからないわ。


 きっと、飲み慣れていないからね。


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