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義理の息子たちとその嫁たちの馴れ初め 1

「お義母かあ様。わたしたち、こう見えても公女なのですよ」

「なんですって? あっ皇女、それとも公女? というか、とにかく驚きだわ」

「グルーバー公国という、一般的にはあまり知られていない公国があるのです。もともとはバーデン帝国の貴族がつくった国です。つまり、バーデン帝国の従属国というわけです。ですので、大きいわけでも人口が多いわけでもありません。有名な観光地や特産物や名産品があるわけでもありません。それから、農業や産業や林業や漁業といったものに従事している者はいません。あら、お義母かあ様。口です。口を閉じ忘れてらっしゃいますよ」


 ゾフィが、クスクス笑いつつ指摘してきた。違うのよ。いまのは口を閉じ忘れているのではなく、ふさがらないの。


「グルーバー公国は、暗殺や諜報や工作や傭兵やテロなど、そういうヤバい活動を財源として成り立っているのです」

「それは……。まるで小説の中の話だわ」

「そうですね。ですが、現実なのです。しかも、一応国としてやっていけています。建国以来、バーデン帝国に一度たりとも支援や庇護をしてもらったことがありません。活動はこの辺りの国々だけでなく、はるか遠くの大陸にある国々にまでおよびます」

「つまりそれだけ需要があるということよね、リタ?」

「お義母かあ様、その通りです。それはともかく、わたしの方が姉なのですが、わたしたち姉妹も物心ついたときから暗殺術や諜報や工作や傭兵といったあらゆる技術を身につけ、仕事をこなしてきました。ああ、お義母かあ様。身勝手なのですが、倫理観とか同情とかは抜きにしてきいていただけますか? わたしたち、それが当たり前と思って生きてきました。他人ひとを殺したり傷つけたりということがどういうことなのかは、それを行ったことのない人たちや非難や軽蔑をする人たち、それから神よりも承知しています。それと、そんな環境で育ってかわいそうというような同情心については、それんな環境が当たり前でしたのでどうも思っていないので必要ありません。朝起きて食事をして夜眠ったりだとか、息を吸ったり吐いたりするのと同じことなのです。ですので、そんな環境がつらかったとか悲しかったということは、いっさいありませんでした」


 リタの言葉に無言でうなずくしかなかった。


 情報が過多すぎて整理しきれていないけれど、リタの言いたいことはなんとなくわかる。


「ということは……。仕事というのは、ジークとシュッツは依頼人ということかしら? いえ、陛下が依頼人で彼らが同席していたというわけね」


 口を潤したかったけれど、特製ドリンクのコップはとっくの昔に空になっている。


「いいえ」


 ゾフィが美しい顔にさわやかな笑みを閃かせた。


「二人を殺しに行ったのです」

「……」


 もう声も出ない。


「こんなわたしたちですが、一応レディです。年齢相応になって、そろそろ結婚なんてどう? って話をしていたのです。ですが、優秀な血筋を残す為には、少なくともわたしたちよりも賢くて強くてタフで機転がきいて演技力抜群でメンタルが最強でなければなりません。一番いいのは公国内の現役の男なのですが、残念ながらわたしたち姉妹以上の男がいなかったのです」

「そうなのね」


 リタの説明に、そう答えるしかなかった。


 ここは「すごいわ」とか「さすがね」とか、二人を褒め称えるところなのかしらと思いつつ。だけど、いったいだれと比較していいのかわからないし、そもそも褒め称えるべきか否かもわからない。



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