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うわあ、ついにやってきた

 もう大分と遅い時刻だというのに、多くの使用人たちが出迎えてくれている。


 さすがは大国の皇宮だけのことはある。使用人たちの数も半端がない。


 馬車から降りたのは、宮殿の前。目の前に多くの人たちが居並んでいて、それだけで圧倒されてしまった。

 お辞儀をする人たちの向こうに、三十段ほどの階段がある。その奥に重厚な大扉が聳え立っているのが見える。


 執事らしき人が近づいてきて、うやうやしくお辞儀をした。


「陛下、おかえりなさいませ」

「ヴォルフ、かわりはないか?」

「はい、陛下。万事つつがなく」

「きみは? きみももかわりはないか?」

「はい、陛下。わたくしめもかわりなく」


 ラインハルトは、その初老の紳士にうなずいた。


「彼女は、訳があって妻になった。チカ、だ」


 老紳士は驚いた様子もなく、わたしにやわらかい笑みを浮かべた。それから、ラインハルトのときと同様にうやうやしく頭を下げた。


「皇妃殿下。執事長のヴォルフ・ランケでございます。この度は、おめでとうございます。使用人一同を代表いたしましてお慶び申し上げます」

「ありがとうございます。チカ・シャウマン。いえ、チカ・ザックスです。よろしくお願いします」


 ヒヤヒヤものだわ。


 執事長といったら、相当出来る人よね。それに、彼は初老。そのようなすごい人にエラそうなふるまいが出来るわけがない。というよりか、そのような度胸はない。だけど、出来るだけエラそうにしなくてはならない。


 だから、妥協できる範囲でエラそぶってみた。


 うまく出来た気はしないけれど。


 そんなわたしの焦りをよそに、ラインハルトはみずからわたしのことを発表してくれた。


 出迎えてくれている人々の祝辞は、歓声となって宮殿前の広場を包み込んだ。


 ラインハルト、いいえ、「獅子帝」の噂では、使用人などにも厳しく容赦がないということだったけど、それは誇張なのね。先程の執事長に対する態度も、そこまでではなかった。


 それはそうよね。だって、ラインハルトなんですもの。



 歓声がおさまらない。歓声を背中で受けつつ、やっと宮殿に入ることが出来た。


 部屋は、ラインハルトと同じらしい。だけど、さすがは皇帝の寝室。主寝室とは別に続き部屋があり、そこにも大きな寝台と浴室とトイレがあるらしい。わたしは、その続き部屋を与えられた。


 宮殿の最奥部に皇帝や皇子たち皇族の部屋があるのも、他の多くの王族や皇族たちと同じである。


 大きくて広くて長い廊下を歩きながら、そのすごさに圧倒されまくった。


 絵画や彫刻がいたるところに飾られ、大きな窓の上部はステンドグラスになっている。


 廊下だけでもこんなにすごいのですもの。広間や庭園等、見てまわったら素敵に違いない。


 ワクワクが止まらない。


 いままでだったら見てまわることが出来なかったし、そんな気にもならなかった。


 だけど、いまは違う。


 是非とも見てまわりたい。好奇心や探求心をおさえることが出来ない。いいえ。おさえるつもりもない。そんな積極的かつ前向きな自分に、もう驚くことはない。


 やはり、少しずつかわってきている。


 そう思うとうれしくなってくる。


 見学は明日以降ということで、この日は自分の部屋で軽い夕食を食べ、休むことにした。


 ちなみに、皇帝の主寝室と続き部屋は、大きくて広いけれども機能性重視なので過度な装飾はいっさいない。それから、ムダに豪華な調度品や家具もない。


 ただ、主寝室にはラインハルトが描いた絵が飾られている。装飾品といえば、その絵だけ。


 彼が別荘で言っていたその絵は、馬の絵である。疾走している馬は、生命力と躍動感にあふれている。別荘の池の絵同様一目惚れした。すると、ラインハルトはすぐに続きの間に飾り直してくれた。


 彼の絵を見ながら眠り、目覚めたらまた見ることが出来る。


 なんて素敵なのかしら。

 最高の気分である。


 ラインハルトの絵だけではない。続きの間は、落ち着いていてとても静かである。すごしやすすぎてひきもってしまうのではないかと心配になる。


 

 帝都にやって来たこの夜もまた、いつものようにトレーニングを行い、そしてぐっすり眠った。



 これまでいろいろな国の宮殿や屋敷ですごしてきた。あいにく、そのほとんどが使用人以下の扱いだった為、あてがわれた部屋は物置小屋レベルのひどいものだった。それでも、同じ敷地内のどこかに豪華な部屋はある。だから、それを想像して雰囲気くらいは味わっていた。皇妃や皇太子妃というレディがうらやむような極上の生活は、小説や物語などで読んで知っている。そういう極上生活がどういうものなのか、わかっているつもりだった。


 バーデン帝国の皇宮での生活は、そんなわたしのささやかな夢や想像を土台から崩し去ってしまうようなものだった。


 それこそ、奇想天外という言葉がぴったりなほどである。


 わたしの乏しい知識や想像力は、根底から覆されたといっても過言ではないと思う。






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