いままでとは何もかもまったく違う
豪華絢爛な馬車の車内もまた、豪華なつくりをしている。とはいえ、居心地を重視しているので派手さはまったくなく、落ち着いた空間になっている。
大きな窓から外をうかがうと、森の中をひた走っているので木しか見えない。
バーデン帝国とルーベン王国とを結ぶ街道は、長い間多くの商人や旅人たちに利用されている。
ということを、王宮にいるときに図書館にある資料で読んだ。
わたしがこの街道を通るのは、当然のことながら初めてである。
そういえば、どうしてバーデン帝国の皇帝に嫁がされることになったのかしら?
これまでは、貢物とか贈り物とか、国どうしのやりとりのちょっとした「品物」がわりにまわされることが多かった。
今回も、そのパターンかしら。
ルーベン王国の国王ヴァルターは、とくに何も触れなかった。とはいえ、物扱いしているわたしに説明なんて必要ないのでしょうけど。
「チカ、座席の上の布を取ってみるといい」
クラウスが白馬を寄せてきた。窓越しに、スラリとした指が車内の座席の上を指している。
バスケットらしき物がのっていて、布がかぶされている。
彼に言われるまま、布を取ってみた。
「わあっ!美味しそう」
思わず、感嘆の声を上げてしまった。
二つのバスケットに、数種類のパンやチーズやハム、それから果物やパイがたくさん入っている。しかも、瓶詰めの水まで入っている。
これは、叫ばずにはいられないわよね。
「腹が減っているだろう。居城までいましばらくかかるから、ゆっくり食うといい」
「グルルルル」
クラウスが勧めてくれている間に、わたしのお腹の虫が騒ぎだした。
いまの音、彼にきこえたかしら?
きっと馬車の音できこえなかったよね。
そう願わずにはいられない。
「おれがどうでもいいことを言っている間に、きみの腹の虫が反乱を起こすといけない。はやく食うといい」
そう勧めてきたクラウスは、笑いをこらえているみたい。
なんてこと。彼にはっきりきこえていたのね。
恥ずかしさで顔が真っ赤になっているのを感じる。
とはいえ、空腹には勝てるわけがない。
せっかくだから、いただくことにした。
途中、一度だけクラウスが窓から顔をのぞかせた。
彼は、わたしが食べている様子を見てやわらかい笑みを浮かべた。そして、馬車から離れていった。
その後は、ゆっくり堪能した。
どれもこれも美味しかった。
こんなにたくさんの食糧を準備してくれるなんて……。
もしかして、ドラゴンや魔獣に捧げられるのかしら。いいえ。獅子かもしれないわね。いずれにせよ、餌付けして太らせようとでもしているの?
こんな待遇は初めてだわ。だからこそ、猜疑心を抱いてしまう。
ついつい子ども向けのお話みたいな筋書きを思い描いてしまう。
緊張もそこそこにとれてお腹がいっぱいになれば、つぎは睡魔に襲われてしまった。
それに抗うことが出来ず、そのまま眠ってしまった。
目が覚めたら、目的地である居城に到着していた。