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皇帝を取り巻く状況

 当然、第一皇子が皇帝の座に就いた。


 その第一皇子は、現皇帝ラインハルトの腹違いの兄にあたる。


 なんでも、第一皇子というのは第一皇子かれが暗殺した父帝がまだ皇帝になる前の子どもだったらしい。だから、ラインハルトとの年齢の差は、三十歳近くあったという。


 ラインハルトの実父が暗殺されたのは、彼がまだ赤ん坊のときだった。


 しかも、ラインハルトかれは、父帝のお手つきの子らしい。


 侍女たちを束ねる侍女長として仕えていた伯爵令嬢が、彼の母親だという。


 その伯爵令嬢は、ラインハルトを産んですぐに亡くなった。いかにもありがちな急死であった。

 皇帝の正妃や側妃に暗殺されたのではないか、当時まことしやかにささやかれていたらしい。


 それはともかく、亡くなった伯爵令嬢の父親は将軍の地位に就いている武人であった。ラインハルトは、伯爵からすれば娘の一粒種になる。伯爵令嬢も一人っ子だった。だから、伯爵はすぐさまラインハルトを引き取った。そして、大切に育てた。


 そういうわけで、ラインハルトは祖父の背を見て育った。彼は、年頃になるとなんの迷いも疑いも持たず軍の幼年学校に入学した。それから、剣や格闘術を祖父から学んだ。


 ラインハルトが軍人として大成した頃、バーデン帝国は国境を接する三つの国、つまり連合軍を相手に苦戦を強いられていた。皇帝はもちろん、他の皇子たちも奮戦する中で、ラインハルトだけが次々に武功を立てて大活躍した。彼の孤軍奮闘で、バーデン帝国軍はかろうじて勝つことが出来た。


「獅子帝」という異名は、この頃につけられたものらしい。


 それはともかく、その戦争で皇帝が戦死した。


 暗殺されたという噂もある。いまだにそれは噂ではなく、真実だとも言われている。


 だけど、対外的には戦死と発表された。一応皇帝という立場から、身をもって国を救った英雄として崇められ、葬られた。


 他の皇子たちは、軍属ではあるけれどもお飾りにすぎない。


 あっという間にラインハルトが皇帝の座に就いた。


 彼自身、望みもしないのに。


 とはいえ、皇帝になってしまったからには重責を担うしかない。


 彼は、政治的には心もとない育ての親である伯爵に相談しながら皇帝としての一歩を踏み出した。


 ちなみに、育ての親である伯爵は、連合軍との戦勝終結後に将軍だけでなく軍そのものから退役した。


 皇帝の座に就いたものの、ラインハルト自身もずっと軍属に身を置いていたため政治的なことはわからない。それを補佐するのが宰相だけれど、その宰相が尋常でない野心の持ち主である。日常茶飯的にラインハルトを始末しようとあの手この手で攻めてくるらしい。政治的にではなく、物理的に。かみ砕いていえば、暗殺者を差し向けてきたというから驚き以外のなにものでもない。


 が、ラインハルトは強い。将軍として軍を指揮する強さもある。それ以上に剣士としての腕前はこの帝国の一番か二番といっても過言ではない。


 現在、その最強剣士と首位争いをしているのがシュッツらしい。


 そういうわけで、たとえ暗殺者が大挙して押し寄せようと、ラインハルトにかなうわけがない。


 彼は、次から次へと刺客を撃退してしまう。


 宰相は、違う手段に訴えることにした。


 彼を殺すということから、彼の種をもらおうということに方向性をかえたのである。


 宰相は、自分の長女を無理矢理嫁がせた。


 いまこの時点で皇帝をどうにかすることは出来なくても、その血があれば皇帝の座が転がりこんでくる。


 宰相は、そう考えた。


 彼の娘は、双子の男児を産んだ。


 それが、ジークとシュッツである。



「彼女は、突然死んだ」


 皇帝が言った。その渋い美貌には、微妙な表情が浮かんでいる。


「彼女は、粗野で不愛想なおれのことが大嫌いだった。彼女が嫁いできたとき、最初に宣言された。『陛下の子種が欲しいだけです。ですから、愛するつもりはありません。そのつもりでいて下さい』、と。二十五年以上経っているいまでもはっきり覚えている」


 彼は、小さく溜め息をついた。


 気がついたら、彼の右手を両手で握っていた。


 彼は、ハッとしたようにわたしを見た。


「ありがとう。情けない男だろう?」


 こんなときに言葉はいらない気がする。だから、小さくかぶりをふった。




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