表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

30/84

家族からの誕生日プレゼント

 無意識の内に、ジークの方へ上半身を乗りだしていた。


 いまのわたしの表情って、きっと期待に満ち満ちているわ。


 全員に「厚かましい」って思われていないかしら。


 そんなふうに葛藤していると、ジークがこめかみのあたりをトントンと指先で叩いた。


「えっ、こめかみ?」


 頭痛とか目の疲れとかに効く薬草か何かかしら?


 それをこめかみに貼る、みたいな?


 みんながいっせいに笑った。


「お義母かあ様、可愛いですわ」

「ええ、とってもキュートな反応でした」


 リタとゾフィが、なぜか褒めてくれた。


「メガネですよ、義母はは上。メガネはいつからかけているんです? というのも、度数が合っていないのではないでしょうか。陛下から、ときどき見えにくそうにしているとききました。たしかに、ときどきですが目を細めたりしています。まずは目の医師に診てもらい、ちゃんとしたメガネを処方してもらった方がいいと思います。陛下がすでに目の医師を手配してくれています。陛下、明日ですよね?」

 

 ジークが尋ねると、皇帝はひとつうなずいた。


「視力が合っていないだけでなく、メガネの枠も合っていないかもしれません。目に合ったメガネを装着しないと、よりいっそう視力が悪くなってしまいます。目そのものによくありません。それに関連して、頭痛や肩こりが起こる可能性もあります」


 ジークの説明に、なるほどと納得してしまった。


「それが、気がついたらこのメガネをかけていました。枠が歪んだりネジがとれたりするのを、自分でどうにかしてだましだまし使っています。ジーク、あなたの言う通りです。たしかに、見えにくいときがあります」

義母はは上、メガネを外したときに周囲は見えますか?」

「シュッツ、そうですね。眠るときや洗顔やお風呂に入るときに外すくらいですが、ボーッとしている気がします。たとえば、鏡に映る自分がボーッとしている感じです。どれほど見えるか、そういえば試したことがないかもしれません。ほら、わたしって「メガネザル」ですから、メガネが体の一部という感じですし」

義母はは上。差し支えなければ、メガネを外してもらってもいいですか? 裸眼で、ぼくとゾフィは見えますか?」


 シュッツがそう尋ねてきた。彼とゾフィはローテーブルをはさんだ向かい側の席ではなく、すこしだけ離れた椅子に座っている。


「もちろんですとも。だけど、「メガネザル」がもっとひどいおサルさんになるだけだと思います」


 お茶を飲もうとカップを持ったタイミングだったので、とりあえずカップを受け皿の上に戻した。


 そのタイミングで、皇帝がカップを持った。


 そういえば、人前でメガネを外したことがないような気がする。


 そんな機会、あるわけなかったのですもの。


 両手でメガネのつるをつまみ、そっと外した。


 皇帝は何気ない感じでカップに口をつけているけれど、わたしを見つめているのを感じる。


 どうせひどい顔だから、笑ってもらうのも一興かもしれないわね。


 そんなふうに思いついた瞬間、「ブフッ!」と音がした。


 具体的には、皇帝が隣で紅茶をふきだした音である。


 シーンと静まり返った。


 静かだった居間が、よりいっそう静かになった。


 はい? 


 ひどい顔というのはわかっているけれど、反応がないよりかはいっそ大笑いしてくれた方がいいのだけれど。


 だって、無反応だといたたまれないから。


義母はは上、ほんとうに自分の顔を鏡で見たことがないのですか?」

「お義母かあ様、ほんとうに? ほんとうに鏡の中の自分が見えないのですか?」

「お義母かあ様、なんてことなのかしら」

義母はは上、とんでもないことですよ」


 ややあって、シュッツ、リタ、ゾフィ、ジークの声がきこえてきた。


 向かいの長椅子に座っている、ジークとリタ。それから、椅子に座っているシュッツとゾフィ。彼らの姿はボーッとしている。


 ジークとリタは、なんとなくそこにいるということはわかる。だけど、少し離れているシュッツとゾフィは、人間ひとというくらいで男性かレディかの区別もつかない。


 というか、わたしの顔ってそんなにひどいのかしらね?


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ