表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

29/84

もちろん、答えはイエスです

「あの、陛下?」

「ほんとうに? チカ、ほんとうにいいのか?」

「もちろんですとも。陛下が気がかわらないかぎり、あなたに嫁ぎたいのです」

「やったあっ!」


 彼は、まるで少年みたいにはしゃぎはじめた。


 その様子が微笑ましすぎる。


「チカ、ぜったいにしあわせにする。この世のどんなしあわせ者より、ずっとずっとしあわせ者にする。そして、愛をいっぱいいっぱい注ぐ。愛して愛して愛しまくる。重いと思われようとチカがおれを嫌いになろうと、おれは生涯きみだけを愛し続ける。それから、何よりも大切にする。いつもやさしくするし、気を遣う。どんなことからも守るし、かばいもする」


 そして、また抱きしめられた。今度は、先程とは違ってやわらかく。ちゃんと加減してくれている。


「チカ、心から愛している。全身全霊をもってきみを愛している」


 抱きしめられたまま、皇帝はささやき続ける。


義母はは上。これでおれも義母はは上を慕うことがかないます」

義母はは上。陛下、いえ、父ともども義母はは上を大切にし、守ります」

「お義母かあ様のことは、わたしたちにお任せ下さい」

「お義母かあ様。大切にしまくりますから、覚悟なさって下さいね」


 これまで家族に縁のなかった亡国の王女のわたしが、たらいまわしにされた挙句に行き着いた先。


 それがここ。ここが終着地点。そして、ここが出発地点。


 二十五歳離れた夫。それから、三歳年長の双子の義理の息子たちとその嫁たち。


 夫は、「獅子帝」と異名を持つ大国の皇帝であり大将軍。義理の息子たちは、大国の強軍の参謀と副将軍。その嫁たちは、暗殺専門の元諜報員。


 すごすぎる家族だわ。すごすぎてピンとこない。


 だけど、家族にかわりはない。


 無為で無感情で無知で、人生を諦観していた。終わりだと思っていた。


 それなのに、それなのに……。


 こんな人生の転機があるのね。つくづく不思議でならない。


 これが、わたしの第二の人生の始まりなのね。




「あらためて、チカ。誕生日おめでとう」

「ありがとうごさいます、陛下」


 リタとジークがお茶を淹れ直してくれた。それから、クッキーの追加を運んでくれた。


 すっかり落ち着いた皇帝は、いまはもうクラウスのときのように堂々としているように見えなくもない。


 わたしもまた、彼がクラウスだったときと同じようにリラックスしている。


「われわれの家族になってくれたあなたに、いまからいろいろ話をしなければならないのです。その前に、誕生日の贈り物のことを伝えておきたいのです」


 ジークは、ヤンチャ系の美しい顔にやわらかい笑みを浮かべた。


「プレゼントなどと、そのお気持ちだけいただいておきます」

「陛下、あなたが伝えますか?」

「いや、ジーク。まだドキドキがおさまらない」


 ジークは、わたしにウインクしてから皇帝に尋ねた。


 まだドキドキがおさまらないですって?


 堂々とした態度と内面は違うのね。


「では、おれが。義母はは上。先程も伝えましたが、あなたの贈り物のことはみなでいろいろ案を出し合いました。やはりイヤな物をもらっても、それはただの押し付けにしかなりません。それで、全員一致で出た案があります」


 彼は、そこでいったん言葉をきった。


 なにかしら? すごく気になる。


 というか、つい先程気持ちだけいただいておくって言ったのに、すっごく期待しているじゃない。


 ど厚かましすぎやしないかしら。


 だけど、贈り物なんてもらったことがない。贈り物をもらったら、人ってどんな気持ちになるのかしら。


 ワクワク? ドキドキ?


 すくなくとも、いまはすごくワクワクしている。


 こんな気持ちも、ほんとうに小さい子どものときには経験があるのかもしれないわね。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ