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年上夫は照れ屋さん

「まぁこういうのですが、いい人はいい人です」

「『獅子帝』のとんでもなく強面の噂は、事実もありますが誇張だったりもします」

「ですが、これだけはいえます。お義母かあ様、あなたに対してはその噂はあてはまらないということです」

「こんな陛下は、いままでにありませんでした。彼のこのイジイジでメロメロな状態は本物です。お義母かあ様、彼のあなたへの愛は相当なものです。それだけは忘れないで下さい。それから、信じてあげて下さい」


 ジーク、シュッツ、リタ、ゾフィの順番で言われてしまった。


 不思議なもので、何度も何度も繰り返し言われると少しずつだけどその気になってくる。


 もしかして、暗示かなにかなのかしら?


「いや、ちょっと待ってくれ」


「獅子帝」と異名を持つ皇帝は、隣でモジモジしている。


「ラインハルト・ザックス、だ、です。クラウスは、好きな作家の名なのです」


 皇帝は、隣で体ごとこちらに向けて言った。


 唐突すぎる自己紹介に、わたしも一応姿勢を正して上半身を捻じ曲げた。


「陛下。わたしは、チカ・シャウマンです。あの、陛下。敬語はおやめ下さい。いままでどおりで結構ですので」


 一応、自己紹介し返す。


 ほんとうにいまさら、だけど。


「ああ、そ、そうだな。その、チカ。きみの、きみの気持ちなのだ」

「はい? わたしの気持ち?」

「そう。きみは、その、おれに嫁ぐようルーベン王国から来たわけだろう? きみの意思に関係なくだ。だから、イヤな相手に嫁ぐ必要などない。そのように思うのだ」


 わたしの緊張がほぐれてくるのと同じように、彼もじょじょに緊張がほぐれているみたい。


 こんなふうに感じることが出来ているだなんて。

 もしかして、わたしっていま余裕があるってこと?


「無理矢理妻にするつもりはない。きみを不幸にしたくないから。いまのうちにきみの気持ちをきいておきたい。もちろん、イヤだからといってきみをルーベン王国や他の国に送ったりなどというつもりは毛頭ない。きみがそれを望むのなら話は別だが。きみの、そうだな。きみの望むようにするつもりだ。これまで苦労してきたのだ。これからは、望むままゆっくりすごせばいい。きみのしあわせが、おれのそれでもあるから。もしもおれにチャンスをくれるのなら、うれしいのだが。だってほら、まだちゃんと付き合ってはいないだろう? おたがいを知るには、付き合う時間が必要だ。それには、いっしょにいなければならない。いますぐ決めることなど出来ないなら、すぐに返事をくれとは言わない。考えてくれればいい」


 彼は、一方的に言いきった。


 たった一度の息継ぎもなく。すごい肺活量ね。シンプルに驚いてしまう。


 ジークたちは、いきなり饒舌に語りきった彼に拍手を送っている。


 だけど、残念ながら内容は支離滅裂すぎてよく理解出来なかったけれど。


 それでも、わたしのことを考えて言ってくれたということはわかる。


「陛下、まわりくどすぎます」

「そうですわ。男だったらたった一言でいいのです。『四の五の言わず、おれについて来い』、これだけです。あとは、お義母かあ様を愛しまくって大切にしまくるのです」


 ゾフィとリタが諫め始めた。


「たとえいま、お義母かあ様が陛下のことを『大嫌い。死んじまえ』って思っていらっしゃったとしても、女心は絶えず揺れ動いています。しかも、一途な愛と情熱とやさしさには弱いのです」

「リタ、忘れているわ。金貨、もよ。レディによっては不変の地位も条件に加わることがあるけれど」

「そうだったわね。金貨は一番大切かもしれないわね。とにかく、男らしく『おれの妻になれ。一生贅沢三昧でしあわせにしてやる』とおっしゃって下さい。あとは、どうにでもなります」

「そうです。どうにでもならないときには、お義母かあ様はあなたの前から去るだけですから。お義母かあ様はまだお若いのです。いくらでもやり直しは出来ます。あらたなスタートをきることが出来るのですから」


 ゾフィ、それからリタ。


 あなたたち、強すぎるわ。それから、スマートすぎる。


 なにより、あなたたちはそのつもりでジークとシュッツと夫婦でいるのね。


 心から尊敬するわ。


 レディとして、これだけ強かったら素敵よね。


 わたしにはとうてい持っていない強さを、彼女たちは持っている。


 わたしもいつかこんな強さを持つことが出来るのかしら?


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