バースデープレゼントですって?
「美味しいわ。甘さ加減がちょうどいい」
「それはよかった。お茶もどうぞ」
シュッツに促され、紅茶を飲んでみた。
ローズティーね。
気持ちが落ち着くだけでなく、優雅な気持ちになる。
わたしが満足しているのを確認してから、四人もクッキーを食べたりお茶を飲みだした。
そして、ワイワイと話をしているときである。
不意にリタとゾフィが立ち上がった。
「陛下がお戻りのようです」
「裏口からお戻りになるなんて、陛下らしいですわね」
リタに続いてゾフィが言った。そして、二人で居間を出て行ってしまった。
なんですって? そんなことがわかるの? 気配とかでってこと?
だとしたら、さすがは元諜報員ね。
そうだわ。そのことについてもきいてみたい。
いまは、ムリだけど。
それよりも、ついに皇帝に会えるのね。
心臓が早鐘を打ち始めだしたみたい。
リタとゾフィは、しばらくしてから戻ってきた。
「お義母様、陛下がもうしばらくお待ち下さいとのことです」
「着替えて食事をしてからお会いになるそうです」
リタに続いてゾフィが言い、二人はもともと座っていた位置に座り直した。
「例の件、手配出来たそうよ」
「おお、そうか。それはよかった」
「はやいな。さすがは陛下だ」
リタがジークとシュッツに謎めいた報告をすると、二人は手を叩いてよろこんだ。
「詳細は後程になりますが、あなたの誕生日の贈り物をみなで考えたのです」
ジークに言われ、心の底から驚いてしまった。
「わたしの誕生日の贈り物ですって?」
思わず叫んでしまった。
誕生日の贈り物だなんて……。
これまで、そのようなものには縁がなかった。というよりか、存在すら忘れていた。
もらったことはあると思う。まだ国がなんともなかった、まだほんの幼い子どもの頃に。
残念ながら、幼すぎてまったく記憶にない。
そういえば、前にいたルーベン王国では、国王のヴァルターが正妃や側妃に贈り物をしていたわね。機嫌をとる為に、誕生日以外でも何かと贈り物をしていた。
彼は、わたしの名前すら知らなかった。というわけで、当然わたしは除外されていた。彼の贈り物をする対象者リストにはのっていなかった。
まぁ、ヴァルターだけでなく、他の国でもたいていそうだったのだけれど。
とにかく、わたしにとって縁もゆかりもなかった贈り物をしてくれるというの?
「お義母様の好みがわかりませんので、下手に準備するのもどうかなって話をしていたのです」
「そうなのです。好みでない物を贈られても迷惑なだけですから」
「どれだけ迷惑なことか。迷惑きわまりないのに、にっこり笑って『ありがとう』とか『これは素敵だ』とか、お愛想をしなければならない」
「ああ、あれは苦行だな。でっ、一度か二度は、贈ってくれた人の前で着用したり使用したりしなければならない」
ゾフィ、リタ、シュッツ、ジークの順に言い、同時に溜息をついた。
そういうものなのかしら。なにせ贈られたことがないからわからない。
でも、迷惑な贈り物なのに、ちゃんと着用したり使用したりするのね。
彼らのような地位の人だと、ふつうなら捨てたり家臣などに譲ったりしそうなものなのに。
「だから、直接『何がほしいか』と尋ねたとします。義母上、なんと回答されますか?」
「それは……。おそらく『欲しい物はありません』とか『お気持ちだけいただきます』、ですね」
実際、尋ねられても答えられない。もちろん、贈り物をしてもらうなんてとんでもないという理由が一番だけど、ほんとうに「ない」のである。
急にきかれても思いつかない。というよりか、欲しいと思わないようにしている。
どうせ手に入らないのだし。
「ですよね」
ジークが言い、四人は同時にクスクス笑いはじめた。
「笑ってすみませんでした。ですが、お義母様らしくって」
「そうです。お義母様なら、きっとそうおっしゃるかと」
リタに続き、ゾフィがわたしの手を握ってきた。
「お義母様は、謙虚でいらっしゃいますから。ですが、いずれご自身の気持を素直におっしゃって下さいね」
「え、ええ」
ゾフィの言うことはよくわからないけれど、とりあえずそう答えておいた。
「そういうわけで、陛下も含め五人でいろいろ考えたのです。そうして、ある結論にいたったわけです」
「おーい、ジーク。それ以上はやめておいた方がいいよ。それは、陛下が告げるべきだからね」
「おっと、そうだった。あーあ、おれが言いたかったよな」
「それでしたら、わたしだって言いたいわよ」
「わたしも」
「ぼくだって」
ジークに続いてリタとゾフィとシュッツが言い、四人で笑いだした。
この四人、ほんとうに仲がいいのね。
四人を見ていると、こちらまでほっこりしてしまう。
「まっ、楽しみにしていてください」
ジークがこの話題に終止符を打ち、違う話でしばらく盛り上がった。




