やっぱり夕食は豪快なのね
メニューは、クラウスとよく食べた野菜や肉をシンプルに焼いたものである。それに、タマネギのスープやチーズが添えられている。
こってり系、さっぱり系、あっさり系のソースが添えられていて、そのどれもが野菜や肉によく合う。
彼らは、皇子と皇子妃たちとは思えないほど豪快に食べている。しかも、無言で。
だれもが胸元にナプキンをぶら下げ、口のまわりをギトギトてかてかにして。
ついつい食べてしまう。肉も野菜も尽きることはない。食材をどれだけ準備し、焼いたのかしら。
ガツガツと食べながら考えてしまう。
そうして、食事が終わった。
苦しい……。
男性用の乗馬ズボンをベルトをしめてはいているけれど、そのベルトを緩めたい。
そのときになってやっと、「獅子帝」というよりかは夫のことを思い出した。
わたしってば彼に嫁ぐ為にやって来たのに、彼よりも食事に気をとられるなんて。というよりか、忘れてしまうなんてどういうこと?
ウジウジ考えていると、四人が後片付けをし始めた。手伝おうとしたけれど、居間で座っていてくれと言われてしまった。そういうわけにもいかず、いっしょにくっついて行くことにした。
手伝わなくてよかった。四人は、手際がよすぎるのである。
しかも、絶妙な連係プレーであれよあれよという間に片付けていく。
わたしがくわわったら、ぜったいに足手まといになったに違いない。
厨房は、広々としている。広いログハウスにしたって、これだけ広々とスペースをとっているのはめずらしい。
きけば、みんなで調理をしたり後片付けをしたりするらしい。そして、たいていは食堂ではなく厨房のテーブルで食事をとることが多いという。
というわけで、もともと物置部屋だったところを付け足し改築したらしい。
だからこんなに広いのね。
その厨房のテーブルは、六名が座れるようになっている。その一つの椅子に腰かけ、テキパキと動く四人を眺めている。
ジークとシュッツの仲がすごくいいことに気がついた。仲がいいというか、おたがいに思いやり、気遣っているという感じかしら。
二人の仲は、こちらがほんとうなのだと直感した。
それにしても、リタとゾフィが暗殺が主体の諜報員だったということには驚きだわ。
驚き? だれだって驚くわよね。
だけど、よく大国の皇子の妻になれたわよね。
わたしの想像などまったく及ばない彼女たちの特殊な正体もだけど、皇子妃であることも驚きだわ。
そして、彼らのわたしに対する態度へと考えが移っていく。
やはり、不可思議すぎる。
わたしに親切とかやさしくしたって、なんのメリットもないのに。
あれやこれやと考えているうちに、彼らの後片付けが終ってしまった。
リタが焼いた野菜と肉をのせた大皿を、ゾフィがパンの入ったバスケットとスープ入りのポットを持って来た。
「陛下の分です。もう間もなく戻ってくるはずですから」
「お義母様、紅茶を淹れましたので居間でくつろぎましょう」
リタとゾフィに促され、居間に行った。
すでにローテーブルの上に紅茶とクッキーが準備されている。
大人三人が余裕で腰かけられる長椅子に座ると、シュッツとゾフィがわたしを間にして座り、向かい側の長椅子にジークとリタが腰かけた。
「このクッキーも手作りですか?」
「今回は、ゾフィとぼくとで。ぼくらは、プレーンやチョコチップを作ることが多いのです。ジークとリタは、レーズンやアーモンドを入れたり、ジャムを煉りこむクッキーを作ることが多いですね」
シュッツのやさしい美貌には、やわらかい笑みが浮かんでいる。
驚くのに飽きてきたわ。
それが現時点での正直な感想。
「食べてみて下さい」
「ええ。いただきます」
つい先程、あれだけ食べたばかりなのに、まだ余裕で食べることが出来そうなのが驚きね。
「スイーツは、また別のところに入るんです」
わたしの心を見透かしたかのように、リタが笑いながら言った。
「そうです。スイーツ用の胃袋がありますから、いくらでも食べることが出来ます」
そして、ゾフィも言った。
まるでそれが世の常識であるかのように。
だけど、彼女たちのお蔭でわずかな罪悪感が払拭された。




