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明るい笑顔

「チカ。その笑顔と明るい心があれば、だれだって心を開いてくれますよ。おれたちだってあなたのその笑顔を見ると、あなたに意地悪なことを言いたくともその気が失せてしまいます」

「ええっ? ジーク、そんなつもりだったのですか」

「チカ。ジークは、意地悪この上ない参謀ですからね。だれに対しても意地悪なのです」

「なんだと? おまえは、脳筋バカで能天気なだけだろう」

「おっと、ジーク。またチカに叱られるからやめておこう」


 二人はまた言い合いをしそうになってすぐにやめた。


「クラウス様に、いつも笑顔でいればいいと教えていただいたのです。これまで、いろいろあって笑うことを忘れていました。この国に来てクラウス様に出会い、彼が笑うことを思い出させてくれたのです」

「それでしたら、あなたは自分の笑顔に自信を持って大丈夫ですよ。彼がレディにそんなことを言うなんて、まず考えられませんから。それどころか、レディと会話することじたいめずらしい。彼は、よほどあなたのことを気に入ったに違いない」

「ジークの言う通りです。チカ、あなたは彼のことをどう思います?」


 シュッツに問われ、なぜかドキッとした。それから、やましい気持ちになった。


「その……」


 自分でもクラウスのことをどう思っているのかわからない。

 ドキッとしたりやましい気持ちになったことの意味が、よくわからないでいる。


「シュッツ、そんなデリカシーのないことを尋ねるか? チカは、陛下に嫁ぐんだぞ。それを、他の男性のことをどう思うかって……。尋ねられて、『不躾だから不愉快でした』とか『態度が気に入らないから嫌いです』とか答えられるか?」


 ジークは、呆れ返ったようにシュッツに指摘した。


「チカ、すみませんでした。たしかに、ぼくの質問は気の利いたものではありませんでした。お蔭で、ジークの本音をきくことは出来ましたがね」

「はあああ? チェッ、おまえだってそう思っているだろう?」


 二人は、顔を見合わせ舌を出した。


 また笑ってしまった。


 二人は仲が悪いと見せかけて、じつは息がピッタリ合っている。そんな気がする。


 わたしを笑わせようと、わたしの不安を軽減しようと、わざと言い合いをしているように感じられる。


 二人は、クラウスと別れた直後にグズグズ泣いていたわたしの様子から、だいたいのことを推測しているはず。わたしがクラウスのことをどう思っているのか、わざわざ尋ねなくてもわかっているに違いない。


「どちらにしても、あなたも彼のことを悪くは思ってはいないということですよね。よかったです」

「はい?」


 シュッツの最後の「よかったです」の意味が、よくわからない。


 何がよかったのかしら?


「あ、いえ。彼もよろこびますよ。あっ、そうそう。皇子たちのことも知りたいということですよね?」


 シュッツは、唐突に話題をかえた。


「ええ、そうですね。これまで何度か側妃として嫁いだり婚約者になったりということはあるのですが、じつは正妃として嫁ぐのは初めてなのです」


 皇子たちのことを知りたいのかという質問からずれてしまうけれども、彼らのことを知りたい経緯を説明したい。

 

 ジークとシュッツには、クラウス同様話しやすさがある。


 迷惑かもしれないが、話をきいてもらいたい。


 だから、手短に自分のこれまでのことを話した。


 やさしい二人は、そんなわたしのくだらない過去の話を辛抱強くきいてくれている。


 手短といっても、そこそこ時間がかかったかもしれない。


 話し終った時、両隣から鼻をすすり上げる音がきこえてきた。


「あ、いえ、ここら辺りの木の花粉に弱くて。なあ、シュッツ?」

「ええ、ええ。この時期は、花粉が飛びまくっていますから」


 二人とも、急に鼻をかんだり目元を手でこすったりし始めた。


 いまは、森の中の道なき道を進んでいる。




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