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「獅子帝」とその息子たちってどんな人たち?

 森が途切れ、大きな池が現れた。


 そこを迂回しつつ、こちらから皇帝やその息子たちのことを尋ねてみることにした。


 情報はひとつでも多い方がいい。教えてくれる人によって、見方や感じ方は違ってくる。噂話や真実をきかされたとしても、気の持ち方によって好意的に受け止めたりその逆であったりする。


「皇帝陛下、ですか?」

「と、その皇子たちのこと?」


 ジークとシュッツは、わたし越しに顔を見合わせた。


「あー、そうですね。可もなく不可もなく、といったところでしょうか。チカは、陛下の噂をきいていますよね?」

「ええ、ジーク。世間一般的な噂はきいています」

「『獅子帝』というカッコいい異称のことですか?」

「ええ、シュッツ。たしかにカッコいい異称ですね」


 カッコいいことはカッコいい。


 だけど、それはお話に憧れる少年にとっては、である。


 彼に関わる人は、そうは受け止めないでしょう。とくに彼の敵は。「獅子帝」だなんて、彼の敵にとっては恐怖の対象でしかない。


「であれば、その噂通りですよ。『獅子帝』という異称は、大袈裟ではありません。もしかして、同じことを将軍に尋ねましたか?」


 ジークの問いに、無言でうなずいた。


「それで、彼はなんと答えましたか?」

「噂通り、だと」

「はははっ! 彼らしい回答だな。彼は、陛下のことを嫌いだって言っていましたか?」


 シュッツの問いに、やはり無言でうなずいた。


 即座に尋ねてきたということは、クラウスの皇帝陛下嫌いは有名だということになる。


 だったら、クラウスが何を言ったかについて隠し立てする必要はない。


「彼が、陛下のことをあれだけ嫌っているのか、不思議ですよ」

「そうそう。あれだけ人を嫌うというのもどうかな?」


 ジークもシュッツも呆れている。


「あなたたちは? あなたたちは、皇帝陛下のことをどう思っていますか?」

「チカ。それは、答えにくい質問ですね」

「ごめんなさい、ジーク」

「いえ、責めているわけではないのです。そうですね。好きか嫌いかと問われれば、正直どちらでもありません。おれたちにとって、陛下は絶対的な存在です。絶対的といっても、神というわけではありません。うまく表現出来ませんが、そこにいることが当たり前すぎて、なんとも思わないといったところでしょうか」


 ジークの言いたいことは、なんとなくわかるような気がする。


 好きとか嫌いとか、いいとか悪いとかで判断や評価が出来ない存在。そういう存在は、たしかにある。


「ぼくも、めずらしくジークと同意見です。チカ、不安なのですよね?」

「ええ、シュッツ。不安ではないという方が嘘になりますよね?」

「すみません。こればかりは、ぼくらでもどうしようも出来でません。たとえぼくらが『陛下は他人ひとがうらやむような美貌で、やさしく温厚で明朗で気遣い抜群で太っ腹で望みを何でもかなえてくれる、聖人もびっくりするような人』と伝えたところで、あなたの不安は消え去らないでしょうから」


 シュッツの言い方に、思わず笑ってしまった。


「シュッツ。いまのは、あなたの願望ですよね?」


 そして、彼にツッコんだ。


「バレましたか。まったくその通りです。しかし、そのお蔭であなたの笑顔を見ることが出来ました。チカ。あなたは、笑顔が似合います」

「ああ。ほんとうに笑顔が素晴らしい」


 シュッツとジークもまた、笑顔を褒めてくれた。


 これまで笑顔だったことがないから、だれかに言われたことがなかった。それどころか、だれかがわたしのことを、気に留めることすらなかった。


 クラウスだけではなく、他にも笑顔を褒めてくれる人がいる。それなら、笑顔に自信をもっていいのかしら。  


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