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若き将校たち

「レディ、落ち着きましたか?」


 右側の青年が尋ねてきた。


「ぼくの台詞をとられた」


 左側の青年がつぶやいた。


「はやいもの勝ちだ」

「そうなの? では、レディ。ハンカチは、ぼくのを使って下さい」

「いいえ。レディ、おれのをどうぞ」


 二人は、両脇から馬ごとぐいぐい迫ってくる。


「やめろっ! レディが困っているぞ」

「ならば、きみが控えるべきだ」

「おまえが控えろ」

「きみだ」

「おまえだ」


 二人は、とうとうケンカをし始めてしまった。


 わたしを間にはさんで。


「ありがとうございます。では、お言葉に甘えてお二人のハンカチをお借りします」


 まずは左側の青年のハンカチを受け取り、左側の目を拭いた。それから、右側の青年のハンカチを受け取って右側の目を拭いた。


「レディ、やさしいのですね。ですが、そんな奴に気を遣う必要はありませんよ」

「レディ、彼の口車にのってはダメです」


 左側の青年が言い、右側の青年がやり返した。


「レディ。おれは、ジークヴァルトです。ジークと呼んで下さい。バーデン帝国軍の参謀を務めています。それで、そっちの脳筋バカはシュテハンです。剣を振りまわすことしか能のない副将軍なのですよ」

「ふんっ! 机上の空論野郎が。レディ、ぼくのことはシュッツと呼んで下さい」

「守りに徹しまくるシュッツってわけです」

「うるさいっ」


 なんなのこの二人? めちゃくちゃ仲が悪いんですけど。


 ジークヴァルトは、ヤンチャ系の美貌で筋骨隆々なのに参謀なのね。そして、やさしい美貌で長身痩躯のシュテハンが剣士なわけね。


 二人とも、外見と中身があっていない気がするわ。


「あの、チカ、です。チカ・シャウマンです」


 二人とも、なぜか名前しか教えてくれなかった。だから、わたしもそうしようと思った。でも、チカだけだとあまりにも簡単すぎるし短すぎる。ちゃんと名乗った方がまだ恰好がつく。


「チカって呼んでもいいですか?」

「嫌ならはっきり嫌って言えばいいのです」

「おまえなぁ、おれにケンカを売っているのか?」

「そのままそっくり返してやる」

「あの、すみません。チカって呼んで下さい。もちろん、お二人とも」

「やはり、チカはやさしいですね」

「ジーク、近寄りすぎだよ」

「おまえこそ、近づきすぎだ」

「やめて下さい」


 思わず、叫んでしまっていた。


 叫んでしまってからハッとした。


「ご、ごめんなさい。つい……。せっかく迎えに来てくださったのですから、いろいろ教えて下さいませんか? その、お二人にいろいろ教えていただきたいのです」


 こんなこと、言うつもりはなかったのに。

 だけど、ケンカは嫌よね。


 これまで、レディどうしの醜い争いや男性どうしのくだらないケンカをたくさん見てきた。争いやケンカほどつまらないものはない。


 いまのわたしの言い方、ちょっときつかったかしら。


 だって、二人ともピタリと口を閉じてしまったから。


 二人が静かになると、また森に静けさが戻ってきた。


 ただ、彼らが連れている兵士たちが追いついてきた。複数の馬の蹄の音が、だんだん近づいてくる。


「チカ、失礼いたしました。さっ、まだ先は長い。参りましょう」


 彼らがまた馬を進めるので、それにならった。


 二人が仲が悪かったりケンカしたりということには驚いてしまった。だけど、その後は二人とも気さくにいろいろ話をしてくれた。


 この国のこと。帝都のこと。美味しい食べ物やお酒、気候や名所などなど。


 話題は多岐に渡り、それはクラウスの話や彼との会話を思い出させてくれる。


 しかし、彼らもまたクラウスと同様に、皇帝とその息子たちのことはいっさい話題にしない。


 皇帝たちのいる別荘に連れて行ってもらっているのにもかかわらず、である。


 まるでその話題を避けているかのようだわ。


 そう考えざるをえない。




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