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笑顔

 年上旦那に年上息子たち。ついでに年上嫁たち。


 彼らにとってわたしは、流浪の亡国の王女にすぎない。しかも、見てくれがメガネザルで年下である。そんなわたしのことを、かれらがなめてかかってくるのはわかりきっている。それに対抗するのに、明るく笑顔でいるというのも意表をついていていいかもしれない。


 慣れるまでは疲れるでしょう。心が折れてしまうかもしれない。


 だけど、これを機にかわってみるのもいいかもしれない。もうすぐ二十二歳の誕生日迎えることだし。


 これって、絶好の性格改善のタイミングじゃない?


 決意をあらたにし、思いっきり笑顔で洗面所を後にした。



 バーデン帝国軍とともに帝都に向けて国境近くの居城を発ったのは、二日後だった。


 道中、クラウスはあれやこれやと世話を焼いてくれた。クラウスだけでなく、将兵たちも親切にしてくれた。

 クラウスは、行軍途中にある町や村や素敵な景色やめずらしい場所などに連れて行ってくれた。


 そういう場所へ行きやすいよう、乗馬を習った。


 初めての体験だったけれど、乗馬が大好きになった。性に合うのか、軽く駆ける程度までならすぐにマスターすることが出来た。


 貸してくれた牝馬が賢いからかもしれない。それから、クラウスの教え方がうまいのもある。


 乗馬が出来るようになったお蔭で、ごたいそうな馬車では行けないような場所でも連れて行ってもらえた。


 バーデン帝国は、広くて美しくて豊かである。それを心から感じた。


 クラウスの案内は申し分なく、そのお蔭で堪能出来るのかもしれない。


 食べる物も最初の豪快な料理同様豪快なものばかり。だけど、美味しくてお腹いっぱい食べてしまう。


 はやくも太ってしまったような気がするのは、わたしの気のせいだと信じたい。


 クラウスと二人っきりで食べることもあれば、将兵たちと食べることもある。どちらもお喋りをしながら楽しく食べるので、ついつい食べ過ぎてしまう。


 なんとなくだけど、兵士と同量食べている気がする。それが気のせいでなければ、どう考えたって太るわよね。


 これだと、「メガネザル」ではなく「おデブザル」になるかもしれない。


 体型を気にしはじめたとき、軍は駐屯地で一夜を明かすことになった。


 ちゃんとした宿舎が何棟もあり、わたしも部屋で眠ることが出来るらしい。


 だけど、案内されたのは立派な屋敷だった。


 どうやら、皇族が所有している屋敷のひとつらしい。


 そこの客間を使わせてもらうことになった。


 そして、いつものように豪快な夕食をとった後、クラウスに呼ばれた。


 行ってみると、書斎だった。


 彼は、葡萄酒を準備して待っていた。


「帝都はもう目の前だ。こうしてゆっくり話をするのもあとわずかの時間。もうしばらく、おっさんに付き合ってくれればうれしいのだが」

「そんな……」


 彼の表現にはいつも笑わせられる。


 いまも思いっきり笑ってしまった。


「何十回と伝えているが、きみは笑顔が一番だ。最初は緊張や不安で笑顔もかたかったが、いまは素晴らしすぎると讃えたいほどのいい笑顔だよ」

「ありがとうございます。『メガネザル』のわたしでも、クラウス様のお蔭で笑うことを思い出しました。笑ったり笑顔でいることの大切さを教えていただきました」

「いや……」


 彼はグラスを傾け、葡萄酒を口に含んだ。


 今夜の葡萄酒は、この地域特産のロゼである。フルーティーな味わいで飲みやすい。


 バーデン帝国の名産のひとつに、葡萄酒があるなんて知らなかった。


 葡萄酒のことも、彼から学んだ。


 最初は、正直なところ心から美味しいとは思わなかった。飲み慣れていなかったからに違いない。だけど、道中にいろんな地域や種類の葡萄酒を飲むうちに、だんだん味わい方がわかってきた気がする。


 風味や香りに慣れてきたように感じる。


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