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アタシの彼氏は宇宙人、……かもしれない。

作者: くまきち

 アタシ、大嶋美咲おおしまみさきの彼氏はもしかしたら宇宙人なのかもしれないと疑っている。


 疑わしいこと・その1


「おっはよー、美咲ちゃん!今日も銀河一かわいいね!」

「……おはよ」


 『いつでもアタシを褒める言葉が宇宙規模』


 疑わしいこと・その2


「やっぱり日本っていいよねえ。美咲ちゃんはいるし、ご飯は何食べても美味しいし」

「アンタ、白米のおかずに白米でもイケるって言ってたね」

「うん!地球サイコー!」


 『日本生まれ日本育ちのはずなのに、やたらと日本や地球を褒める』


 疑わしいこと・その3


 これが実は、一番の疑いポイントなんだけど……


 彼氏の名前が『星野昴ほしのすばる』。




「いやいやいやいや。じゃあ何か?流星りゅうせいくんは流れ星なのか?超新星はビッグバンなのか?ちがうでしょ?」

「そうだけど……」


 っていうか、昴も星の名前だしね。


 だから、ちがうだろうと美乃梨みのりにツッコまれても、一度疑い出したら気になってしょうがないのだ。


「つーか、こっちは別れたばっかなんだからノロケはいらん。宇宙規模の絶賛する彼氏なんて羨ましいじゃん」

「……うらやましい」

「星野はただの宇宙オタクで、美咲のことが大好きなだけでしょ。ついでに、日本好きの日本人ってけっこーいるから」


 はい、この話は終わりと勝手に切り上げられたら、アタシの疑問はそこらへんに放り投げられてしまった。


 日本好きの日本人はそりゃあたくさんいるだろうけど、なんというか、昴の”好き”はちがう気がするんだよね。




「お昼だね、美咲ちゃん!」


 やっほーと、今日も二つ隣りのクラスから駆け寄ってくる昴。


「アンタ、友達いないの?」

「友達よりも美咲ちゃんと一緒が良いよ」

「あっそう」


 臆面もなく言うかな。フツーの日本人だったらさ。


 今日もニコニコしている昴は、なんでも美味しそうに食べていく。


「そういえばさ、もうすぐ付き合って一ヵ月だけど、なんかする?」


 昴とは中学からの知り合いだけど、なぜだかずっと告られ続け、とうとう高校まで一緒で、アタシが根負けした結果、付き合うことになったのだ。


 初対面でひざまずいて、「初めて見た時からブラックホールに吸い込まれるような気持ちになったよ!付き合ってください!」とか言う謎の告白に引かない女子はいないだろう。


「……」


 っていうか、ブラックホールに吸い込まれるような気持ちってなんだよ。


 例えがおかしいのは最初からだったことを思い出して、ちょっと頭が痛くなってきた。




 結局、一ヵ月記念はお互いに考えておくということでお昼が終わっていった。


「ねえ」

「うん?」

「アンタ、手くらい繋ぎたいとか思わないの?」


 宇宙規模に絶賛してくる毎日だけど、中学から告ってきた子、つまりアタシがこのたび彼女になったというのに、そろそろ一か月経つというのに、コイツは手すら繋ごうとして来ないのだ。


 それを一ヵ月記念日にでもするかと提案したら、ものすごい勢いで全身が真っ赤になった。


「え、ええ~、そんな……」

「イヤならいいけど」

「イヤじゃないよ!」


 被り気味に「イヤなわけがないだろう!」と力いっぱい訂正されてしまった。あっそう。


「だってさ、美咲ちゃんはまだそんなにボクのことが好きなわけじゃないでしょ?その時まで待っていようと思ってて……」

「……」


 なんだコイツ、乙女か。


 そうしてもじもじしたままの乙女は、恥じらいながらとんでもないことを言っていった。


「美咲ちゃんがボクのことをいつでも想って考えて意識してくれることが最低限だけど……。なんならボクがいないと生きていけないくらいに好きになってくれたら嬉しいなって思ってるよ!」


「…………あっそう」


 ニコニコと満面の笑みを浮かべながら、恥ずかしそうにしながらなんてことを言うんだ、コイツは。




「それって侵略じゃん!?もはや侵略する気なんだよ!」

「美咲を侵略して得するのって星野だけじゃん。つーか、ノロケんな」

「ノロケてない!」


 やっぱり宇宙人なのではと、グラウンドに向かう途中の美乃梨を捕まえたら、うっとうしそうに「しっし」と手で雑に追い払われてしまった。


「ただ単に、自分と同じくらいに好きになって欲しいってことでしょ。それ以外なら独占欲強いってだけではい終わり!ほら、チャイム鳴るよ」

「聞いてよー!」

「うっさい!」


 やっぱり根負けしたのは早まったことだったのではと、後悔してももう遅い。


 だってきっと逃げられない。あんな重い、愛には。




「美咲ちゃん、帰ろー!」

「うん……」


 友人には考え過ぎだと言われたので、今日のところはこれ以上、考えないことにしようか。

 なんか疲れたし。


「はあー、今日の夕日も綺麗だねえ。あ、もちろん美咲ちゃんの美しさには負けるからね!」

「あっそう」


 太陽と張り合う気はないのに、「安心してね!」とか言われても……。


「隣りに美咲ちゃんがいるってだけで、なんでも綺麗に見えるねえ」


 真っ赤に染まった空と落ちる直前の太陽を、瞳をキラキラ輝かせながら、飽きもせずに今日も繰り返し見つめている。


「……」


 名前よりも何よりも、この時の表情が、なんだか帰りたいと思っているような。

 そんな、郷愁って言うのか、そんな風に見えてしまって困っている。


 だって宇宙人なら、かぐや姫みたいにいつか故郷に帰ってしまうのかもしれないし。




「どうしたの、美咲ちゃん?」


 思わずうつむいて、そのまま立ち止まってしまったアタシを置いて行ったことに気が付いた昴が振り返る。


 振り返った昴の瞳に夕日が反射して、少しだけ夜の空の、宇宙のような濃い紺色に見えてしまった。


「どうしたの、大丈夫?」


 ちっとも動かないアタシに駆け寄ったら、覗き込んで無邪気に訊いてくる。


「大丈夫じゃない!」

「あ、ごめんね。置いて行ったから怒ったの?」

「ちがう!アンタはアタシの隣りにずっといるって決まってるんだからね!」


 だから宇宙になんて行かないでと、我ながら頓珍漢なことを言ってしまった。




「宇宙?」

「はっ」


 突然、わけのわからないことを言われたら、そりゃあ誰だって固まるよね。


 っていうか、宇宙人なのかもって疑ってるのアタシだけだし……。

 言われた昴はとっても呆然として、……って、当たり前だ。


 それでも何かを考えるように上を見たら、いつもの笑顔を見せて言った。


「それなら大丈夫だよ、美咲ちゃん。ボクは美咲ちゃんの隣りにずうっといるからね!」

「……」


 何を根拠にとツッコみたいけど、なんかもう疲れたし、コイツはずっとこのままなんだろうなってわかったから、もういいや。


「フン。クラス離れたくせに」

「それは仕方なくない!?」


 ……とりあえず、アタシの彼氏は宇宙人かもしれないけれど。


 アタシのことが好きだから、ずっとこのまま地球の日本のアタシの隣りにいてくれるんだろう。


 短いですが、ここまでお読みいただきありがとうございます。

七夕ということで浮かんだ話をまとめてみました。

 少しでも笑ってもらえたら幸いです。

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