始まりの合図は強制的に
「これで完璧……のはず、多分」
僕の家には代々受け継がれている悪魔召喚儀式がある。
事細かに説明した魔書なるものは僕の曾曾曾祖父さんあたりが誤って焚き火の糧として燃やしてしまったらしい。
後に謎の節々の痛みに悩まされたみたいと、むしろそのくらいで済んだことが奇跡だろうに、てか何故そんな大層な物が燃えるんだ。悪魔って言うぐらいなんだから普通は魔素とかなんらかの力で燃えない仕組みになってないのか!?
と、幼心ながら諸々に同情したのを覚えている。
「……大きな丸描いて、四隅にまた丸描いて………そんで真ん中に確か星……あれ星って五角形でいんだよな?六角?……まぁいっか。そんでなんか周りに悪魔さん来てください〜みたいな英文だろ?ちゃんと書いたし、僕には読めないけど。親父も覚えてた音通りに単語当てはめたって言ってたっけ?………うん、大丈夫だろこれで」
父から言われた通りに地面に書き殴った結果、見た目はなんかそれっぽい。正直なんで外?って思うほど今日の気温は体を刺すほどに寒い。マジで寒い。
「…あー寒い、何で僕が……。いやほんと今更だけどなんで僕がやらないといけないんだよ……、年齢か…年齢のせいか!!!」
この悪魔召喚には年齢に応じて成功率があるらしい。
これも言い伝えではあるが、過去に成功させた人はたった1人だそうだ。召喚して契約交わしてそのままお帰りになったみたいだけど、召喚した理由も不明って恐怖しかない。失敗時には特に何もないって言ってたけど、今ではそれも本当かどうか分からないのだ。
「ただ確認したいがためだけに我が子にやらせるか普通?」
14歳になった今日、親父から突然言われたのだ。
あの爽やかな笑顔は今でもムカつく。
『今日中に悪魔召喚できたら小遣いやろう。ちなみに拒否権はないぞ?ほら、この通りにやればできるから多分』
この多分が最高にイラッとした、殴りたかった。
多分ってなんだよ、正直信じてすらいないけど多分はないだろ。魔書無くなったなら紙にでも書いとけよ!なんで伝言ゲームみたいになってんだよ!!
「……失敗してなんかあったら何倍もたかってやる」
だが、この時の僕はもっと考えるべきだったのだ。
全ての負の根源とも言われている悪魔がそれだけで終わるはずがないと。どういう経緯で僕の家系が悪魔召喚の儀式に関与していたのか、その魔書を消失させてしまった代償がどれほどのものなのか、召喚印がそんなに簡単な物のはずがないとか。
そしてなにより、
ーーーー親父の言うことに良い思い出がなかった、と。
「いでよ!!悪魔!!!」
中心の星に立ち、掌を合わせてそれっぽい言葉を叫んだ。
すると召喚印の上空が曇り始め黒い影が視界を覆った。まだ明るかったはずの風景が一気に黒く染まる。周りの木々は不自然に静止し、住宅街の喧騒がシーンと静まり返ったように無音の世界に包まれた。
「なんか……ぽい、かも」
呑気にしたり顔を浮かべたその瞬間、ドーンと言う音と共に浮遊感に包まれた。
「浮い……………っ!!」
浮遊感は浮遊感でも体が浮き上がった訳じゃなかった。
地面が抜けてる。
そう、文字通り抜けたのだ。五角形の星形の部分がごっそりと。
「え、は?…ま、」
人間最高潮に驚くと固まるのは本当らしい。
何も言葉が出ない、現在進行形で死と隣り合わせなはずなのに悲鳴も助けを呼ぶ声も喉を通らない。
支えが無くなった今、重力に逆らうことができずそのまま体は落下していく。咄嗟に手を伸ばすこともできず反射的に左手で腕に縋って握りしめた。
痛みがある。
夢じゃない、これは現実だ。
「……これ、……終わった」
現実逃避のように薄れていく意識の末に、思い浮かんだのは親父の爽やかな笑顔だった。




