S博士の道路案内
「あー、クソ、また道に迷った」
S博士は苛立ちの声を上げた。
今日は、山村で研究することに飽きていたので、久しぶりに車で遠出していた。
だが、どうカーナビの指示通り動いても、目的地に到着できないのだ。
高速道路を一本間違えたり。
存在しない道路を進んだり。
目的地の5キロ手前で案内が終わったり。
散々である。
かといって、方向音痴のS博士からすれば、カーナビは必須だった。
どうしようかと考え込んだ。
そして、一つの名案が思い浮かんだのである。
「自分で作ってしまえば良いのか」
思い立ったS博士はその日から研究を始める。
元々、天才科学者であった彼だ。
こんな仕組みは簡単に発明出来てしまう。
「だが、普通に作ったのでは面白くない。ここは一つ、運転手が望んでいる一番の近道を教えてくれるシステムを入れよう。いやいや、他の機能も……」
S博士は更に研究に勤しんだ。
そして、遂に究極と呼べるカーナビが完成させたのだ。
早速、S博士は試乗もかねてドライブに出ることにした。
「おお、素晴らしい。これで、もう道に迷わない」
発明は大成功だった。
数十キロと移動しても、ナビが指示を間違えることはない。
それどころか、もっと素晴らしい代物にさえ思えた。
渋滞を未来予想して、自動で回避してくれる。
疲れていれば景色が良いルートを選んでくれる。
秘密裏の警察の検問でさえ見つけ出してくれる。
まるで未来のカーナビだ。
「ふふ、これは良い発明だった。これを売れば大金持ちになれるぞ。そうすれば、今の惨めな生活からもおさらばできる」
試乗の帰り道。
カーナビから、予想もしない方向に指示が出た。
「ん、なんでこんな道を選んだんだろう」
だが、今までカーナビが誤作動した事など無い。
S博士は安心して、その方向に車を進めたのだった。
たどり着いたのは、見知らぬ民家。
親戚でも友達の家でもない。
こんな所に要事はないので、出発しようとキーを回した。
だが、エンジンがかからなくなっていた。
「うーむ、車の故障かもしれないな」
連絡手段がないS博士は、仕方ないので民家で電話を借りることにした。
だが、チャイムを押すと、知っている顔が出てきたのだ。
「け、刑事さん、なんでこんな所に」
冷や汗を垂らし、S博士は悲鳴を上げた。
「S博士、それは、こっちのセリフだ。まさか、自分から自首してくるとはな」
「いや、私は、その」
「自首じゃなかったら、30人も殺した凶悪な殺人犯が刑事の家に来るものか。今まで何処の山に隠れていたんだ」
「なんて事だ……」
落胆するS博士をよそに、刑事は晴れやかに笑っていた。
これは、あのカーナビの効果だった。
悪いことをしたというS博士の奥底の心理までも読み取った。
ナビはその気持ちを考え、気が付かない内に出頭させたのである。
S博士の逮捕後、警察は極秘に車メーカーとある密談を交わす。
それは特殊なカーナビを、無料で車に付けるというものらしく……。
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