九話 なんかすいません2
結構書きました。意外と読み続けてくれている読者さんに感謝ばかり。
一週間後の夕方日暮れ前、ギルド支部が閉館する一時間ほど前に、彼はギルドカード更新に支部に来た。
嫌すぎて最後の最後まで粘っていたがいずれにせよ行かなければいけなかったのだ。しかし閉館間際なのか、人も少なく、うるさかったのが今日はしんとしていた。早々に受付まで駆け寄りベルを鳴らす。
勇者「すいませーん。ギルドカード更新に来たんですけれど。」
もはや彼から陰キャ臭は消え失せていた。ラッキースケベの前ではどんな所業もたいてい恥ずかしくないのだ。エルが受付にあたる。
エル(係員)「はーい。勇者さんギルドカード更新ですね。それとも私に会いに来たんですか~。」
勇者はエルに好意を寄せていると思われている。完全に脳内オランダのチューリップ畑と化しているエルは治癒師と同じく勇者が抱える爆弾であった。しかも勇者が告白しても断るつもりなのが少し腹が立つ。
エル(まあ、勇者さんたら顔赤くしちゃって。告白とかするのかな~。でもごめんなさい!いくら勇者様でも私はこのギルド支部みんなのものだから!)
勇者「あ、ギルド更新でお願いします。」
エル「あ、はい。」
顔がお互い点になっている。機械的に更新手続きを済ませた勇者はすぐさま立ち去ろうとした。
???「おい、待てよ。」
不意に声をかけられ、勇者は反射的に振り返る。体格がごついモヒカンの大男であった。彼の椅子には大きな斧が立てかけられており、重量級アタッカーをしていることがわかる。
???「俺と腕相撲で勝負しろ。それをするまで帰らせねえ。」
勇者「いや、僕忙しいんで。」
???「知ったこっちゃないね。いいから俺と勝負しろ。それともあれか、俺に負けてしまって、勇者の立場がなくなるのが怖いのか?」
勇者「いや、立場とかどうでもいいんで。帰らせていただきます。」
完全にちびりそうな勇者であったが、最近強制離脱という技を覚えた。自分の舌を噛み、自滅することで、教会にとばされ危機から脱出できるというものだった。これを覚えたのはつい最近であったが、なんで今までこれをしてこなかったのか。まあ、それをするまでもなく死ぬからであった。
勇者「お前がいくら防ごうと俺の期間は邪魔できねえ。」
勇者(あばよ。脳内筋肉でできてる肩に皿乗せてるモヒカン世紀末男。秘技・自殺!!)
???「それともチキンだから俺に触れもしねえのか~。かわいちょうでちゅね、家でおんなのこになぐさめてもらうんでちゅかね~。」
歴代の勇者たちはどんな困難でもあきらめない不屈の精神、そしてどんな場でも落ち着いて判断ができる冷静さを持ち合わせている。この現在の勇者も例外で
勇者「やってやろうじゃないか。お前こそ俺に負けておかんに慰めてもらおうとすんなよ!!」
あった。
エル「そして始まる腕相撲勝負、対戦相手はあの勇者様と屈強な大男、解説は私エルりんが務めさせていただきます。今回も厚いバトルが繰り広げられることでしょう。体格差は一目瞭然、しかし勇者は勇者、外面からは見えない力が確かに感じられます。お互いを見つめあう中、ついに手を掴みます!さあ、スタートの合図は私が館長が切ります。館長は、Aランクの冒険者でありましたがその後引退、腕相撲の審判をいつか務めるようになりました。さあ、お願いします!」
完全にエルは白熱しているが、会場にそこまで人はいないので盛り上がりは薄い。それでもお構いなしのようであった。
館長「それでは!見合って、見合って、、、はじめ!!!」
開始のゴングが鳴る。それと同時にお互いの手に力が入るとかそういうことはなく、勇者は光になって教会に転送された。館長もエルも沈黙のまま、閉館の準備をし始めた。
???「なんか、、、すんません。」
帰ってきた勇者を前に大男が放った一声は謝罪であった。
???「自分、オオドといいます。いや、興奮しちゃうと挑発的な態度をとってしまうようで、、、だから、ほんっとにすいませんでした。」
勇者「だからって人を傷つけること言っちゃだめだよね?傷ついたのわかるよね。」
オオド「はい、すいませんでした。つい勇者様を見て興奮してしまって。」
勇者は鼻グイングイン伸びていた。彼は人に尊敬される機会が少ない。それ故、自分にへりくだってきた相手を前に調子に乗りがちである。
勇者「で?君は犯行に及んだってわけ?」
オオド「実は先週勇者様が登録に来ていた時、しゃべりたいなとか思ってて、この一週間ずっと待っていたんですよね。ついに現れたと思って興奮収まんないですもんね。でもまさかこんな最後まで来ないなんて、もしかして来るのが怖かったとか、まさかそんなことはないですよね自分何考えてるんだろははは、、、」
勇者「まさかそんなははは、、、」
図星である。この勇者頭が悪すぎる。
オオド「それで、お願いなんですけど、、、僕を仲間に入れてください!!」
勇者は今絶頂にいた。気分がいい。
勇者「まあ、実力がね、あるならね、僕も大歓迎だからさ、入れてやってもいいけど。」
オオド「やった!!!ありがとうございます!せいぜい俺の引き立て役ぐらいにはなってくれよな。」
勇者「また性格変わってるぞ。」
オオド「あ、はい、すいません」
そんなこんなで勇者に仲間が一人増え、治癒師の犠牲者が一人増えた。完全に勇者は共犯者である。
次回「勇者要らない問題」