空腹な気持ち
食べ終わった頃には雨が止み日が暮れていた。
二人は向かい合う様にソファーに横になり思いの外腹も膨らみ食後の余韻に浸っていた。
「もう駄目だ、食えね」
「私も限界です」
珍しく助手も一杯になったようだ。
「それにしても美味しかったですね、なんて料理なんですか?」
「名前は忘れた、昔似たようなものを地方で食ってその時は野菜も入ってたし味も少し違った。だが旨かった」
そう昔に…一瞬、忘れていた過去が頭を過った。
忘れてしまえ
助手に話しをふった。
「それにしてもあのチラシ、どうするんだ。印刷所にいくら払ったんだ」
「印刷所の社長が私の出世払いでいいと言ってくれましたのでお言葉に甘えて」
「あのジジイ…」
後で俺に無理難題の仕事を押し付けるつもりだ。
「それで先生…」
助手は身体を起こして聞いてきた。
「あの自転車は何故買ったのですか?先生にしては少し洒落てますが」
「それは…」
言葉に詰まった。
「…安かったから」
「それだけですか?」
「ああ」
「そんな理由で買ったのですか、先生いい加減無駄遣いは止めて下さい。それだから今日みたいに…」
助手は説教を始めた。
お前の為に買った。日頃の感謝の気持ちだとか言える訳がない。
「先生聞いてますか!」
助手は怒鳴った。
今日はさっさと終わってくれ、探偵は話しを適当に聞き流しながら今日を終わろうとした。
第3章
空腹な気持ち
完




