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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

竜の優しさ

作者: るい

「皆、平等でなくてはね。」

竜の里を訪れた魔王様は、小竜達を集め、度々こう言った。

数百年前に先代魔王様が人類と結んだ不可侵条約により、人間と魔族は互いに矛を収めた。先代は成し得なかったが、今代の魔王様は魔族と人類が手を取り合い、幸せに暮らせる世の中を作ろうと尽力している、らしい。

ジンルイか、どんな生き物なんだろう。どんな角が生えてるのかな。牙は鋭いのかな。翼はないかもしれないな。フカシンジョーヤク?が何かは分からないけれど、それがあればきっとみんな平和に暮らせるんだろうな。いつかジンルイに会ってみたいな。

小竜は人類が何かは分からないが、魔王様が仲良くしようとしているなら自分も精いっぱい仲よくしようと思った。



度々竜の里に訪れていた魔王様を見なくなって数カ月が経った。風にのって変な匂いがすることも徐々に増えていった。血の匂いは大好きだが、何かが焼ける匂いはあまり好きではなかった。

そんなある日のこと、父と母が魔王城に行くことになった。自分一匹でおいて行かれるのはとても寂しかったが、魔王様が大変なら仕方ない。

「優しい子になるんだよ。」

そう言い残して父と母は魔王城へと出かけて行った。



父と母が出て行って数日経ち、初めて角のない生き物が4匹この里を訪れた。そのうち、一匹のひらひらした生き物がこちらに気づいて近づいてくる。固そうな生き物はしかめっ面をしているが、ひらひらした生き物はこちらに笑顔を向けているので仲良くなりたいのかもしれない。

「かわいー!魔族でも子どもなら飼ってもいいかも!」

「ならこいつらは残しとくか?どのみちここら一帯は俺たちのものになるからな。」

なんだかきらきらした生き物は軽薄そうにそう口にする。学のない小竜は角のない生き物たちの言っていることが理解できないが、楽しそうに頭を撫でる手にずいぶん会っていない両親を思い出した。何故か両親の香りを僅かに纏っていたからかもしれない。懐かしく感じる匂いをもっと嗅いでいたかったが、その生き物たちはひとしきり里を見回ると去っていった。



それから数年が経ち、魔大陸に角のない生き物達が大勢やってきた。

かつてこの里にいた大きな竜たちは数年前からどこかにいってしまったようで、今は小竜達しか残っていない。大人たちのいない里で、小竜達は互いを支えあいながら大人たちの帰りをずっとずっと待っていた。

…いや、本当はこの時点で気づいていたのかもしれない。でも、信じたかった。平和を謳った魔王様の、言葉を。



最初に会ったのはどれほど前だったか、ひらひらした生き物と再び遭遇した。昔ほど両親の香りはしないが、あの日のことを思いだす。

「これからよろしくね!えーっと…コリンちゃん!」

あの頃よりも僅かに大きくなった自分の頭に手を伸ばしてひらひらした生き物は言う。しかし、不思議に思う。何故異なる名で自分を呼ぶのか。何故ほぼ初対面なのに愛し気な目を向けるのか。…何故、母が角につけていたアクセサリーがその首にあるのか。

アクセサリーに手を伸ばすと、ああ!と角のない生き物は母のアクセサリーを小竜に自慢するように見せてきた。

「これね、私たちが魔大陸を制圧するときに倒した竜のドロップ品なの!かわいかったから貰ってきちゃったんだ!」


倒した




倒した



倒した


倒した

倒した

倒した倒した

僕の母を、こいつが倒した。

竜殺しの罪を抱え、それを笑顔で語った。

唖然とする僕を見つめ、なお自慢げに魔大陸制圧の道を語る生き物。

最初は弱き者を。次に森に潜む者。そして山に、谷に、空に、…魔王城に君臨するあの方を。

あの平等と平和を繰り返し説いた優しい魔王様は、僕の両親と共に死んだ。他でもない、こいつらの手によって。数々の同胞を殺した血濡れの剣で、優しいあの方を。


気づいたら、目の前にある首に牙を突き立て、赤にまみれていた。

目の前には、反応する瞬間すらなく自慢げに語っていた顔に驚きを乗せた表情で息絶えている角のない生き物。

両親は最期にこう言った。

「優しい子になるんだよ。」

魔王様は繰り返しこう言った。

「平等でなくては。」

小竜は貰った言葉を反芻し、理解した。

「ああ、そうだ」

「角のない生き物を、平等に、優しく殺さなきゃならない」




魔王軍討伐に参加した天才魔法使いの死を皮切りに人間たちは、たった一匹の荒れ狂う竜に虐殺され始めた。慈悲すらなく、一撃で我々を殺しに来る竜を見た人間たちは、かつて魔大陸を人類の手に治めんと侵攻した際の魔族たちの困惑や、我々を傷つける手の震えを思い出す。人類が殺めたあの魔族たちならかの怒れる竜を抑えられただろうが、彼らは他ならぬ我々の手によって今は冷たい土の中。もはや人類にできることは、滅亡するその時を待つのみなのだ。


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