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絶対に シリーズ

子爵令息は幼馴染と絶対に結婚したくない

作者: イズル

すみません、後半の数行が抜けていました。他の内容は変わってません。

 俺の姉は乙女ゲー大好きなオタク女だった。ただし好きと言っても物語にどっぷりハマるような楽しみ方はせず、専ら「ありえねーwwwwwwwwwwwwwwww」とゲラゲラ笑いながらプレイするタイプだ。

 そして大抵、自分好みの男を一通り攻略すると「残りのスチル全部開けといて」と強制プレイを当然のように俺に命じていた。


 何が楽しくて男を攻略せにゃならんのだ。


 ただ小さい頃から徹底的に叩き込まれた姉と弟の立場の違いのせいで、一度たりとも逆らえた記憶がない。おかげでクラスの一部の女子の会話内容が全部分かるくらい乙女ゲーに詳しくなった。流石に彼女らの会話に混ざりに行ったことは無かったが、攻略の参考にさせてもらった事は多々ある。あの時の彼女たち、ありがとう。


 で、何故こんなことを語り出したかと言うと──






「わたくし達、公爵令嬢のアリア・ウィルフィード様に以前どっかでお会いしたことない?」


 俺の幼馴染で婚約者候補のパルセット・オリバー子爵令嬢は、昔から突然こんな風に今までの会話とは全く関係ない話題を振ってくることが多かった。彼女の中では繋がっているらしいが、ついさっきまでしていた「今年は雨季の雨が少なかった」という天気の話題から、どうして公爵令嬢の話題に移ったのか問い質したい。

 ただ聞くだけ無駄だと『知っている』から一度も聞いたこと無いけど。

 定期的に彼女の家で開かれる二人きりの茶会は、今日もこうして話が明後日の方向へ飛んでいった。


「どっかって……第一王子殿下の婚約者様だろ? 俺ら子爵位じゃサロンでも会わないって」


 他所の国では男爵と公爵が同じ茶会に参加することもあるらしいが、うちの国では滅多にない。だいたい同じくらいの爵位同士で交流を深めるものだ。例外は王家主催の夜会とデビュタントくらいか? 王家はパワーバランスに配慮しながら満遍なく呼ぶし、デビュタントはその年に成人する貴族籍の男女全員に参加資格がある。


「その筈なんだけど、あの顔見たことあるのよ。間違いない」


 そう断言する幼馴染の顔は至極真剣だ。またか、と俺は小さくため息をついた。彼女は時々こんな風に初めて会った筈の人物に覚えがあると主張するんだが、いくら探しても当該人物と過去接触する機会があった例がない。

 それだけならただの妄想癖なんだが、まるで本人から聞いたとしか思えない『本人しか知らないこと』まで言い当てるもんだから、一部の該当者からは魔女呼ばわりされて警戒されていたりする。


 まぁ本人は全く気にしてないし身分的にももう会わないだろうからそっちは放置してるけど、今回はちょっとヤバいかもしれない。だって公爵令嬢様だぞ? 第一王子殿下の婚約者様だぞ? うっかり怒らせたら社交界から追い出されかねない。


「どこで会ったかは分からないんだよな。どんな方なのかは分かるか?」

「それが……今回はぼんやりとしか分からないのよ。顔は覚えがあるんだけど」


 おや? これは今までにないパターンだな?

 幼馴染曰く、「印象が薄い」。薄いってなんだ。公爵令嬢様相手に薄いはないだろう。てか顔は覚えてるのに人物像は薄いってホント何なんだ。

 それって見かけただけなのでは?と聞いてみたが、いや印象が薄いだけで知ってるはずだと元気よく主張する。その自信はどこからくるんだよ。


「ぼんやりで良いから知ってる印象のこと、ちょっと言ってみてくれ」

「そうね、なんて言ったら良いのかしら。『悪役』……みたいな?」

「『悪役』……?」


 その言葉でピンときた。『悪役』。『悪役令嬢』。『乙女ゲー』の。


 そこまで考えたところでぶわっと嫌な汗が流れ落ちてきた。目の前がチカチカして気持ち悪い。頭の中で該当する乙女ゲーのストーリーやスチルが目まぐるしく巡る。


 ああ、俺、そのゲームやったことあるわ。姉ちゃん第一王子のルートやってないからアリアの印象薄いんだよ。王子のルート以外では彼女の出番少ないからな。それでも顔だけ覚えていたのは、姉ちゃんがゲームを始める前に説明書を読むタイプ(ただし内容を理解しているとは限らない)だからだろう。


「ちょ、ちょっと! 顔色が悪くなってますわよ!」


 姉ちゃんがあたふたしながら俺の顔の汗を拭う。あの姉ちゃんが驚くなんて。どんだけ顔から血の気が引いているんだと少しおかしくなった。

 そして俺の中で確信する。目の前にいる幼馴染は姉ちゃんだ。間違いない。


「何、笑っているんですか! 人が心配してるのに!」

「うんうん、ごめんよ姉ちゃん。もう大丈夫だから」


 そう言うと姉ちゃんは眉間に皺を寄せて呟いた。


「わたくし……貴方より年下ですけど?」


 そう、困ったことに今の姉ちゃんは俺より年下だったりする。






 家に帰って来てすぐ、俺は書庫に篭って自国の事を今一度あれこれ調べ直した。そんな俺を家族は心配そうな目で見ていたが、今は構っていられない。


 そして結論。

 アレだな、ゲームの世界に入っちゃったんだな。しかも乙女ゲーの。


 確かヒロインが男爵の庶子?で、平民として暮らしていたんだけど母親が死んじゃったから父親に引き取られたとか何とか。この辺は毎回スキップしてたからよく覚えてない。

 貴族が通う学校に入れられたんだけど庶民感覚が抜け切れなくて女子から嫌がらせを受けたり、王子や騎士団長の息子や上流貴族の嫡男と恋をしたり……この説明いる? ってくらいよくある話だった気がする。


 なんでゲームの世界にいるのか? とか、俺と姉ちゃんの体どーなってんだ? とか、メチャクチャ気になることもあるけどそっちは今のところ確認しようがない。頬を抓ってみたけど痛いだけで目は覚めなかったから夢オチではなさそうだ。

 夢なら早く覚めてくれ。


「さて、どうしようかな……」


 調べれば調べるほどゲームとの一致が増えるし、貴族名鑑で攻略者たちの家名があることも確認した。ゲームの世界であることは間違いなさそうだが、じゃあ何をすれば良いんだ。思い出せる限りゲームのストーリーには俺の名前も姉ちゃんの名前も出てきてない。つまり、モブと思われる。


「モブらしくヒロインの恋を邪魔せず見守れば良いのか……?」


 ただここでゲームとは全く関係ない現実が一つ。

 俺、姉ちゃんの婚約者候補。

 婚約が決まりかけたとき、姉ちゃんが「結婚相手ぐらい自分で選びたい!」と突然言い出したために、とりあえず姉ちゃんが学園卒業までに結婚相手を見つけられなかったら婚約しような、となっている。


 あの、姉ちゃんと、結婚。


 ……ない。絶対ありえない。

 見た目だけなら今の姉ちゃんは前とは全然違うけど、性格がビックリするぐらい同じなんだ。ゲームや姉ちゃんのことを思い出す以前から、家族の情はあっても恋だの愛だのを感じたことはない。

 むしろ婚約したなら最終的に夫婦になる、という事実すら認識していなかった。きっと無意識のうちに姉と結婚なんてするはずがない、と思っていたのだろう。


 しかし、ゲームの世界では血の繋がりはない。このままだと姉ちゃんが婚約者を作らない限り、結婚は確定事項だ。


「……無理。生理的に無理」


 ここまで無理と主張していてなんだが、別に姉ちゃんの性格が破綻しているとか極悪人だったわけではない。性格は悪くなかったと思う。身内に遠慮がないだけで。それに俺のやりたい夢を応援してくれたのは姉ちゃんだけだった。乙女ゲーをやらせてたのは、彼女の一人も家に連れてこない俺を心配した結果じゃなかろうか。大きなお世話だが。


 たぶん俺の中で血の繋がった姉という感覚が強いだけだ。もしかしたら姉ちゃんもその感覚があったから婚約を嫌がったんだろう……いや、姉ちゃんの性格からして本気で自分の結婚相手を自分で見つけたかっただけなのかもしれない。

 うん、そっちの可能性の方が高い気がしてきた。


 と、とにかく! まずは姉ちゃんの結婚相手を見つけよう。幸い(?)にもここは乙女ゲーの世界。ヒロインが狙わなかった攻略者達が余るはず。

 魔女呼ばわりしてるヤツは無理かも知れんが、他の攻略者ならなんとかなるだろう。落とし方なら俺が知ってるし。


 明日からの行動方針が決まったところで、後回しになっていた入学準備を再開する。そう、俺はゲームの舞台である学園に今度入学する。王子の年齢からしてヒロインが入学してくるのは来年だ。それまでに姉ちゃんに有利な情報を集めていけば良い。



 ──なんて軽く考えていたあの日の自分を殴りたい。



 何故、忘れていた! 逆ハーレムルートの存在を!

 そしてヒロイン、どうしてお前は息するように逆ハールートを狙うんだ?!


 件の悪役令嬢は常識人だし俺はいつの間にか王子たちと一緒に生徒会の仕事を手伝ってるし(本来、手伝うのはヒロインだったはず)、なんかゲームと違うな? と思いながら今日も俺は姉ちゃんの結婚相手を物色する。

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